表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/6

赴任


自宅から、最寄り駅まで徒歩10分。予定通り、余裕をもって始発の電車に乗ることが出来た。


ホームに人は少なく、都心から離れるこの線は顕著だった。都心に向かう反対のホームには始発にも関わらず、それなりの人数がいた。向かう分には苦労しないな。そう思いつつ、人気のない列車に乗り込み、腰を掛けた。駅が進むにつれ、空の色が黒から水色、そしてオレンジ色に染まっていく。


日があがった頃、目的地である山川駅に着いた。腕時計に目を落とすと、7時15分。朝のラッシュ時間だ。しかし、山川駅のホームには、都心ほど人はいなかった。高校生らしき集団がまばらにいるが、会社員らしき人達はいなかった。なるほど。と思いつつ、江山はキャリーケースをひく。ゴロゴロと駅のホームと改札、駅舎に響かせ、小さな駅前ロータリーに着いた。


周囲を見渡すと、シャッターの目立つ商店街が目に入った。駅前の交通量も少なかった。視覚で情報を得ながら、ロータリーに止まっていた1台のタクシーに声を掛けた。数分前まで居眠りしていたな。そう思うような年配のドライバーは、声を掛けられるとはっとし、急いで後部ドアを開けた。


そして荷物をトランクへ入れ、どちらまで。と聞いてきた。


「山川市消防本部までお願いします。」


短くそう言い、後部座席に深く腰掛けた。タクシードライバーも短く返事をし、車を発進させた。

江山は車窓から、街の様子を観察した。昔は栄えていたんだろうな。そう思わせる街並みだった。


駅前商店街にさびれたアーケード。撤退したであろうチェーン店の跡。


道路も少しばかりか穴ぼこが目立っていた。


「道路が中々ですね。」


揺れる車内で、江山は思わずそう口にした。それを聞き、タクシードライバーは、


「そう思うでしょう。聞くに、補修する予算はあるけど、入札に参加する業者がいないらしいんですわ。市外や県外の業者に声を掛けてるらしいんですが、それに見合う予算じゃないみたいで。ずっと、市内の業者にお願いしてたみたいですが、もう従業員が高齢みたいで・・・。廃業したところもあると。まぁ、高齢でっていう話は私も出来ませんがね。」


笑いながら説明してくれた。江山は、そうなんですね。としか返すことが出来なかった。それから少しして、タクシーは消防本部の前に到着した。ハザードをつけ路肩に停まる。料金を提示され、江山は支払った。お釣りと領収書を貰い、荷物を受け取って、消防本部の庁舎へ向かった。決して綺麗とは言えない年季の入った庁舎だった。3階建ての庁舎のところどころで、外壁にヒビが入っているように思えた。消防本部の車庫に目を移すと、消防士達が車両点検を行っていた。消防車も庁舎同様、年季が入っているように思えた。救急車も何世代か前のモデルだった。小難しい表情になりながらキャリーケースをひいていると、一人の消防士が江山に気付いた。すぐに駆け寄ってくる。


「おはようございます。江山先生ですか?」


20代と思しき消防士は元気な声でそう問い掛けてきた。江山は、はい。と短く返した。それを聞き、その消防士は周囲にいた先輩消防士らに声を掛け、江山は彼らの案内で、消防本部長の部屋に通された。部屋に入ると、消防の作業服に身を包んだ50代の、貫禄のいい男性が気を付けの姿勢で待っていた。


そして、


「山川市消防本部長の大野です。東京から遠路、ご苦労様でした。」


落ち着いた口調で挨拶してきた。江山も自己紹介をして返した。挨拶が済むと、応接用の椅子に腰かけるよう促された。軽く頭を下げ、腰を降ろす。


「これから3ヶ月、お世話になります。よろしくお願いいたします。」


改めて、江山はかしこまった形で口を開いた。すると、大野は恐縮しながら、


「いえいえ。お世話になるのはこちらの方です。現場隊員の負担を少しでも軽減して頂ければと思います。」


そう話してきた直後、


(救急指令。東救急3。目標。山川市東・・・)


庁舎内アナウンスが耳をついた。江山はそれを聞き、現場に来たことを実感した。


「私の仕事場は?」


少しでも早く、役に立たなければ。その思いから問い掛けた。大野はそれを聞き、すぐに、


「ご案内します。」


と言い、外で待機していた消防士と共に、消防指令センターに向け足を進める。指令センターは庁舎3階にあり、江山は目にした時、その内装に息を呑んだ。


「救適法の試験運用を行うと決定してから、この指令センターの区画だけ改修が行われました。一応、全て最新式です。勤務隊員もまだ慣れない所があるくらいです。余談ですが、この改修費用で、消防庁舎が2個作れるらしいです。」


大野はそう耳打ちしてきた。最後のは嫌味に聞こえたが、気にすることなく、


「私の席は?」


そう近くの消防職員に問うた。それを聞き、消防職員は足早に案内する。案内された席を見て、江山は不安にかられてしまった。他の消防隊員の席より2倍はある空間が確保されており、複数のモニターが横並びで配置されていた。多岐に渡る情報を整理しながら同時進行しなければならないな。そう感じた。静かに考え込んでいると、不意に横から声を掛けられた。


「消防指令センター長の長谷川と申します。江山先生のサポート全般を行わせて頂きます。」


40代と思しき、スマートな男性。見るからに頭がきれそうな外見だった。この場の実務責任者。江山はすぐに頭を下げ、挨拶を交わした。


「細かな運用については、この後ご説明致します。それと、消防指令の研修も本日いっぱい受けて頂きます。よろしくお願いします。」


まだ覚えることはたくさんあるな。江山はそう思いながら、返事をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ