49話 覚悟を決めろ
「……っ、出来た……! けど……」
特効薬の仮説はなった。
材料調達をヴォーロに任せ、研究はといえば、残すは臨床実験のみの段階まで進んでいた。
「アムレート、そのモルモットは?」
激しく興奮して檻にぶつかり続ける、明らかに様子がおかしいモルモットを指して、イオンが問いかける。
「これは致死量に満たない飴と同じ成分を含んだ餌を与えていたモルモットだ。これに特効薬を飲ませて、成分が分解されれば後は人間に飲ませるだけだ」
ネージュが予想していた通り、アムレートの協力によって特効薬の研究は順調すぎるくらいだった。
それでも、試作品が出来るまでに、早くも1ヶ月が経とうとしていた。
「イオンッ! さっきの臨床実験ってやつ、どうなったの!?」
部屋に戻るなり、穏やかに檻の中で眠るモルモットを見つめてシオンは不安そうな顔をした。
「……成功だよ。もちろん、何匹も試して……その、ダメだった時を経て改良も重ねているから、試作品としての信頼性はまずまずっていうところかな」
日に日に庭に増えていったモルモットのお墓に視線を向けて、罪悪感からかイオンはそっと目を伏せた。
「……イオン、アムレート、ありがとうね。君たちも、私たちの我儘に付き合ってくれてありがとう。ごめんね」
お墓の前にしゃがみ込むと、シオンはそっと手を合わせて目を閉じた。
動物愛護、元の世界にいた時だったら無責任に可哀想だと言ってしまっていたかもしれない。けれど、その必要性は当事者になってみて、シオンの身に重くのしかかった。
「ちゃんと、受け入れるよ。魔法があったって、一朝一夕でいかないことくらい、私だって分かってるからね」
「お陰で試作品も完成と言える。あとはこの試作品に魔法で試験をいくつかやって……」
「お前ら……っ!! 早く医療塔へ戻れっ……!」
ノックすることなく、慌てた様子のヴォーロが飛び込んできて青い顔で叫んだ。
「ヴォーロ!? 材料の輸送は明日のはずじゃ……」
「んなこと言ってる場合じゃねぇ! お前らの仲間のフリージアの容態に異変があった」
「「フリージアの……っ!?」」
シオンとジェイドの表情から一気に血の気が引いた。
「なんで!? フリージアより前から同じ症状の人たちも魔法で症状が進むのを止めてるって……」
「それが、姉貴が言うには……何者かにフリージアの装置が解除されてたって話だ。気がついてすぐに魔法をかけ直したが、容態が悪化しすぎている……と」
「なに……それ……。……っ、誰がそんなことを……」
「敵が何者なのか、分からないけれど……僕達が特効薬を作っていることがバレたのかもしれない。それで脅しとしてか、人質としてなのか……フリージアが狙われた……」
バァァァンッッッ!
壁を殴り付ける音が響き渡り、全員が音のする方を振り返った。
そこには、今までに見た事のない怒りの表情を浮かべるジェイドがいた。
「なんで……っ、どうしてフリージアなんだ……っ! 俺が……俺だったら良かったのに……っ」
「ジェイド…………。ねぇ、イオン。試作品は出来たんだよね、今すぐネージュさんのところに行こう!」
「いや……そうしたいのは山々なんだ。だけど……だけど、まだ人間に使ってもいい段階かは分からない。もう少し……最終調整に時間がいる……」
「そんな、それってどれくらいかかるの!?」
「普通、1ヶ月でも早い方なんだ……僕とアムレートが徹夜して、最低限の試験だけを急いでも1週間はかかる」
イオンが悔しそうに唇を噛んだ。
アムレートの表情は、シオンの位置からは見えなかった。
「おいおいおいおいっ! オレもフリージアの容態は見てきた、あれはどう見たってそんな悠長なこと言ってられる状態じゃねぇぞ!」
「ヴォーロ……」
「……あぁ、もう。お前らが言いにくいならオレから言ってやる。姉貴がら聞いた症状、もうフリージアは限界だ。もって2.3日……そんなに待てねぇ。だから……特効薬を飲ませるか否か、覚悟を決めろ」
端的に述べられた言葉が、シオン達を明確に絶望へと落とし込んだ。




