48話 はじめの一歩
数日後、修行をしている二人の姿を遠くからこそこそと見つめる影があった。
「……ジンガ! そんなとこで何してるの? 検査はもういいの?」
こっそりと様子を伺っていたジンガを見つけて声をかけると、ジンガの肩がびくりと震える。
「……別に。一通り検査は終わったから、僕もやることがなくなってしまっただけさ。あの二人の会話に挟まれているのは、居心地が悪いのさ」
それで逃げてきたのか。確かに、研究者の二人の間を飛び交う専門用語を聞き続けていたら、頭がおかしくなりそうだ。
「じゃあさ、ジンガも一緒に修行やろうよ!」
「……っ、どうして僕が君たちなんかとやらなければいけないんだい!?」
「いーじゃん、いーじゃん。アムレートさんから処方して貰った薬で調子も良くなったし、魔力量も上がったんでしょ? 最大出力じゃなければ、魔法使ってもいいって話だったし、コントロールとか磨かなきゃじゃん」
「それは……そうだけれど……。僕は君たちの仲間になったわけでは……」
「そんなのどうでもいいじゃん。利用し合う、んでしょ? 私と手合わせしてよ! ……ほら、ジェイドも私も結構戦えるようになってきたし、このままじゃ、ジンガだけ置いてかれちゃうよ?」
「……なっ、いいだろう。君を利用してやる、星守シオン。僕は強くなるぞ……。手加減はしないからな! 怪我をしてもしらないぞ」
「上等っ! そっちこそ、泣きべそかいても知らないんだからね!」
人の顔に指をさして宣言するジンガに向かって、シオンはにやりと不敵に笑って言った。
ジンガとは友達と言えない関係性のままではあったが、毎日続く手合わせで距離感が縮んでいくのがわかる。
ジンガの棘が少しずつ和らいでいるのか、あれだけライバル視していたジェイドとも、満更でもなさそうな表情で会話をすることが増えてきた。
アムレートに協力を漕ぎつけてから、それだけの月日が経とうとしていた。
◇ ◇ ◇
「ジェイド! ジンガ! さっきの見た!? めっちゃいい感じじゃなかった!? ジェイドとジンガも前よりは連携もとれるようになってきたし、私たち、めっちゃ強くなってきたんじゃない!?」
「あぁ、タイミングも完璧だったな。フラーウィスの魔法とも息があってきた」
「……ふんっ! いちいち、君と張り合うのも馬鹿馬鹿しいことだったと反省したんだ。私怨を捨てたこの僕が完璧なのは当たり前だろう」
「あははっ、ジンガもなんか吹っ切れてきたよね。ジェイドへの態度が私怨だったって認めちゃってるんじゃん」
「……ふん。僕だって、そんなに愚か者ではないつもりだよ。反省が出来ない者に成長は見込めないことは分かっているからね。…………今まで突っかかって悪かったよ、ジェイド・アルメリア」
「うっそ!? ジンガが素直に謝った! 凄い! めっちゃ偉いじゃん。ちょっと見直したかも!」
「うるさいぞ。……いや、……星守シオン、君にも初めから嫌な態度をとったな。……今は、悪かったと思っているよ……」
居心地が悪そうに、それでもジンガは目を逸らすことなくジェイドとシオンの目を見つめて、深々と頭を下げて謝罪した。
「……ジンガッ! マジで私、ジンガのこと誤解してたかもっ! なんかさ、最近雰囲気良くなってきてたし、うやむやにしたっていいのに……ちゃんと謝れるんじゃん! なんか、もう気にしてた訳じゃないんだけどスッキリした! だから許すよ。ねっ、ジェイド!」
「あぁ。俺も気にしてないよ、だからお前も気にしなくていい。過去がどうあっても、今のフラーウィスが前を向いていることが重要なんだ」
「……すまない」
ジンガが一度反省したら、冷静になれば、気に病み続ける真面目な性格だと見抜いているのか、ジェイドがぽんと肩を軽く叩いて言った。
それに対して、ジンガは苦虫を噛み潰したような表情で小さく返事をした。
「暗い顔しないのっ! ほらほら、もういいじゃん。謝って、仲直り出来たらもう友達でしょ。そんなこと、ちびっ子だって知ってるんだから……笑えーっ!」
悪態をつかなくなったジンガがギクシャクと距離感を測り損ねているようだ。
シオンはジンガの両頬をつまみ上げると、ぐにぐにと頬をひっぱって笑顔をつくらせようとする。
「いひゃいっ! ……何をするんだっ、星守シオン!」
「ジンガはまずその表情筋を鍛えたほうがいいかもって思っただけだよ〜」
「……このっ、調子に乗るなっ!」
「あっ、魔法使うのはズルいじゃん」
「ふんっ、君も魔法を使えばいいだけのことだろう? そうだ。いつまで経っても決まらないと頭を抱えていた技名とやらは、いい加減考え終えたのかい?」
「そうだっ! まだ言ってなかったよね。私の必殺技名、めっちゃいいの思いついちゃった! …………なんだけど、二人はどう思う!?」
そう言って、太陽みたいにキラキラとした笑顔を向けるシオンにつられて、ジェイドとジンガも嬉しそうに頷いた。




