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星守シオンは帰りたいっ!~ギャル、異世界転移した。と思ってたらタイムトラベルだったらしい。未来が魔法の世界ってマジですか!?~  作者: 日華てまり
第2章 探求者の国シャルム編

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47話 人であるための

 



 シオン達が鍛錬を始めたばかりの頃、イオンとアムレートはジンガを繰り返し再検査しながら、暴走にいたる原因を洗い出していた。


「この相反する成分が互いに作用して制御が効かなくなり暴走しているのか……面白い」


「絶妙なバランスで成り立っているようだね。そこに個人差のある魔力が加わって、バランスが崩れる者と体の一部として適合する者に分かれていく。……これは確かに今は毒だけれど、結果を保証出来るところまで実現すれば薬にもなり得る研究のようだね」


「ここまで調査が進んだのは初めてだ。同じ思考の研究者がいるというのはいいものだ。礼を言うぞ、イオン」


「お礼なんて……、僕にとってもとても有意義な時間だよ。アムレートのアイディアは、僕には思いつかないことばかりだからね」


「やはり、仮説をたてながら触れる実際の検体がいるというのは実に素晴らしい」


 恍惚(こうこつ)としたアムレートの刺すような瞳がジンガを捉える。実験動物でも見ているかのようだ。その視線の意味に気づくと、ジンガはびくり、と肩を揺らして物陰に隠れてアムレートの視線を切った。


「アムレート……。こういうのは個人の自由だけれど、未成年の……審判の飴を食べた被害者(ジンガ)の前でそういうこと言うのは、あまり良いとは言えないよ」


 イオンが窘めると、予想に反してきょとんとした表情でアムレートが聞き返す。


「それは、こいつが『可哀想』だからか?」


「えっ、いや、そういうことじゃなくて……まだ身に起きて時間も経っていない、心の傷も簡単には癒えない、そんな子を実験体扱いするのは、いくらなんでも酷というものさ」


「……ふん。所詮、お前も倫理観とやらの奴隷か、イオン。……つまらんな」


「……アムレート」


「そいつは自分の意思で得体の知れない『力』を求めて手を出した。ハズレを引けば被害者で、アタリを引いたら加害者か。実にくだらない線引きだな。知らずに食べて寝たきりとなった少女には同情するが、これに手を出すような奴は自業自得だろう」


「……けど、おまじないレベルの噂だったんだろう? それに対するリスクとして見合ってないよ。僕は生徒達が浅はかだったとは一概に言えないな」


 火花が散ることもなく、淡々と交わされる価値観の違いを、お互いに受け入れるわけでも、貶すわけでもなく、二人は静かに呑み込んだ。


 良くも悪くも、感情論を切り離して思考する、似た者同士の研究者なのだ。


「……僕、外の様子を見てきます」


 いたたまれなくなったジンガが、服を着終えるとシオン達が修行している方を指さして言った。


「そうだね。今日の検査はこれでおしまいだし、君も魔力コントロールの練習は続けた方がいい。それに、魔法と心は密接に繋がっている……。シオン達なら、君が望むかけがえのない人になれるんじゃないかな。なんてね」


「…………無理ですよ。自分のやってきたことを、忘れたわけではありませんから」


 自嘲気味にそれだけ言うと、ジンガは浅くお辞儀をして、シオン達からは見えない場所へと足を進めて行った。


「……本当は賢くて真面目で優しい子なんだろうね。だからこそ、これまでやってきたことがジンガのことを縛り付け続ける。難儀な子だよ……」


「……ふん。理解出来ないな。他人のことなど、捨て置けばいいものを」


「ふふっ、アムレートは徹底した効率主義だよね。アムレートから見て、この飴の目的はなんだと思う?」


「……試作品だろうな」


「うん。僕もそう思っているよ。薬は人間主導で完全に薬の効果を制御出来なくてはいけない。けれど、暴走の危険性を孕む薬品を人体実験なんてさせて貰えるはずがない。だから、可愛いパッケージと噂に包まれたお菓子だったんだ」


「薬品の未完成品など、安価で手に入り、博打で効果が得られ、簡単に力を手に入れられる、これだけの効果がある薬物など欲しがる奴はごまんといるだろう」


「うん。だから、これを開発した人にとっては、この暴走も昏睡も、本来の完成形への道標となる大量のサンプルが手に入っただけに過ぎない。この研究はまだまだ始まったばかりのようだね……」


「イオン。解毒薬が完成したら、本来の力を手に入れる為の研究を共にやらないか。お前と私なら、あっという間にこの世界の常識を覆すことも出来るだろう」


 アムレートの瞳が怪しく揺れる。


「……興味が無い、って言ったら嘘になるけど、この研究は人体へのリスクが大きすぎる。完成した暁には、僕らの足元には大量の屍が積み上がっているだろう」


「だが、先人達の研究にも犠牲は付き物だった。より高みへ、我々が知らないことに辿り着くには、小さな犠牲だと思わないか? この世界の理が大きく変わる様をこの目で見てみたいと思わないか?」


「……強力な魔法への探求心は他の何よりも得がたいものだけど、僕は……人間の心を捨ててまでやりたいとは思わないな」


「……君は、人間の皮を脱いではくれないのだな」


 初めて見せたアムレートの寂しそうな笑顔が、いつまでも残り続ける硝子の破片のように、イオンの心に影を落とす。


「アムレートの言いたいことはわかるよ。僕と君は同じだ。研究者ってやつはどこか心が欠けている。倫理観で縛らなければ簡単に一線を越えてしまうからこそ、人間の皮は脱いではいけないよ」


「それがお前から感じる違和感の正体か」


「ふふっ、僕のことを人でなしだとでも思っていたのかい? 僕は、()()()()()()()()()だよ」


「……ネージュは本当に人を見る目がないようだ」


 そう言って、アムレートはくっくっと楽しそうに声を出して笑った。


「まったく、何がそんなに楽しいのか……」


「自分と似た感覚の人間を見つけられるというのは、年甲斐もなく嬉しいものなのだ。……っふ、なんて顔をしているんだ。冗談だ」


 紅茶の入ったコップを飲み干して、資料を片手にこちらを見向きもせず、スタスタと机に戻っていくアムレート。


 冗談だ、なんて真顔で言うから、いつだって何が本気で何が冗談かわからない。

 イオンは深くため息をついた。




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