33話 出来ない約束は絶対にしない
(わっ、綺麗な人……。でも今、この世界の魔法に魅入られたって言った……? でも研究者ってことはこの世界の人だよね。ただの偶然? それとも……)
イオンと名乗った青年は王子様のような容姿に加えて、お洒落なスーツに様々な色の魔法鉱石の装飾がついたロングコートを羽織っており、到底研究者には見えない。
「紹介しよう。彼はイオン、この医療塔……いや、このシャルムで一番の天才だ」
「ふふっ、お褒めの言葉は嬉しいけれど、医療分野のトップは間違いなくネージュだよ。シャルムの医療塔は世界的に見ても一番の医療機関だ。彼女と……僕が力を合わせればどんな難題でも解いてみせる。だから、君達の友人は絶対に大丈夫だからね」
改めて紹介されたイオンが、姿勢を正して穏やかに微笑んだ。既にフリージアの治療を成し遂げたかのような、あまりにも堂々としたイオンの振る舞いに、シオンとジェイドは安堵の表情を浮かべた。
来客用のソファへ促されたシオン達の向かい側にイオンとネージュが腰かける。にこやかなイオンと対称的に神妙な表情を浮かべるネージュが、なんと切り出そうかと悩んでいると、シオンが意を決して問いかけた。
「あの、ここでならフリージアを、助けられるんですよね……?」
「……単刀直入に言おう。イオンはああ言ってはいたが、君達の友人を救えるかは正直まだ分からない」
「嘘……っ、そんな……っ!」
「魔法の暴走事件は今や世界各国で起こっている。この医療塔にも手の付けられなくなった重症患者が、最近は頻繁に運び込まれているが……原因の特定にも至っていない状況なんだ」
この世界で一番の医療機関、その責任者であるネージュから告げられた言葉に、シオンとジェイドの顔に絶望が浮かぶ。
「待って、絶望するにはまだ早いよ。ネージュ、期待させておいて裏切りたくない気持ちはわかるけど……その説明の仕方だと助からないって言ってるみたいに聞こえてしまうよ?」
「すまない……っ! 順を追って説明しようと思っていたんだ。だから、その……すまなかった」
イオンに言われて、シオン達の表情が暗くなったことに気づいたネージュは慌てて勢いよく頭を下げた。無表情で冷たく見えたネージュが、おろおろとイオンに助けを求めている。
「ネージュ、君は本当に口下手だね。論文でなら結論から伝えるのは間違いではないと思うけれど……そうだ、まずは君の気持ちから話してみたらどうかな?」
「……すまない、どうも私は人と話すのが上手くないようなんだ。君達を傷つけるつもりはなかった、仕切り直させてくれ」
そう言うと、ネージュは真っ直ぐと力強い視線を向けて、シオンの両肩を掴んだ。
「君達の友人は私が救うと約束する、だから安心して欲しい。……私は、出来ない約束は絶対にしない」
誠意のこもった視線を受け止めて、シオンは大きく深呼吸をすると、ネージュに向き合って両手の拳を握りしめた。
「取り乱してごめんなさい。どんな事でもちゃんと最後まで聞くから、どうすればフリージアが助かるのか、教えて下さい」
「あぁ。原因が分からない現状、運び込まれてきた患者達は進行を遅らせる為に、時間を遅くする魔法を施して先延ばしにしている状況だ。君達の友人にも、同じ魔法を処置してある」
短い髪を耳にかけてカルテをめくると、ネージュは持っていたペンでカルテを小突いた。
「そう。今までは原因が分かっていなかったんだよ。でも、君達が現れて……この暴走事件の原因が『審判の飴』と呼ばれる薬物が原因だと突き止めてくれた。それに……」
イオンの視線がずっと黙って聞いていたジンガへと向けられた。




