3話:立花 すず
私の名前は「立花 すず」。
自分ではハイスペック女子を自称しているのだがどうしてか、女性からしかモテたことがない。
いやそもそも今の世の中、男子と出会う機会すらまともにないのだ。
私は世間的に言われる普通の家庭に生まれた。
母に私と妹の3人暮らし。
他の家庭も似たようなもので何不自由なく、何の変哲もないアパートで家族仲良く過ごしていた。
そんな私に転機が訪れたのは中学校に入学した時だ。
小学校までは女子しかいなかったのが、中学校からは男子と共学になるのだ。
なぜ小学校からではないのかというと、正しい性の知識もなく、肉体的にも自衛することが困難な男子が、犯罪に巻き込まれるケースが多発したからだ。
それを重く見た男性保護庁や保護団体によって、法が改定されて男子は中学入学まで自宅学習や専門の施設での教育が義務付けられた。
ただでさえ、なかなかお目に出来ない男子は、余計に見かけることが出来なくなったが、新しく設けた施策で確かに犯罪数は減ったらしい。
その代わりにある事象が発生する切っ掛けにもなったのだが……。
その事象とは男子が中学校、高校に来なくなったのだ。
犯罪に巻き込まれるリスクを負ってまで学校に通わせる意味があるのかと親や本人達が気付いたのだ。
男性の人口は緩やかに減少しており、当時の男女比は約1対100。
現在では現状を維持しているがいつまた減少に傾くか予断を許さない状況だ。
その為、一学年に3人未満という非常に希少な存在だった男子は幻の存在と言われるまでに見かけなくなっていたのだが私が中学校に上がった時、幸運にも1人の男子が中学校に登校してきた。
中学生といえば、男女の身体の違いが顕著になる時期。初めて目にする同い年の男に私は衝撃を受けたのを覚えている。
残念ながらその男子も類に漏れることなく、すぐに登校して来なくなってしまったが私は一つの夢を抱くようになる。
・・・男性と結ばれたいと。
そして、母や先生にどうしたら男性と結婚できるのか尋ね、一つの答えに辿り着く。
男性は安定した人生を求める傾向にある。つまり社会的地位が高く、高収入な女性のみが男を勝ち取ることが出来るのだと。
事実、世の中の結婚している女性を調べた結果だった。
それからというもの私は貪るように勉強に邁進した。
難関と言われる高校に入学し、最高峰と言われる海外の大学を飛び級で卒業し、超一流と言われる企業に就職。
企業でも結果を出して、惜しまれつつも一念発起で起業。
色々な偶然も重なりあれよあれよとわずか3年で株式上場まで来たが気付けば、それでも今年で26歳。
世間では行き遅れと言われる年齢になっていた。
追い討ちを掛けるように世の男性の好みは年下で女を感じさせない小さな胸にメリハリのない身体、威圧感を感じない低身長が好まれる傾向にあるという。
そして、特に女らしい趣味を持っていると男性には忌避されるという。
私は女性としては大柄と言われる165cmにFカップとメリハリがしっかりとしたくびれ。
趣味は仕事にストレス解消を兼ねたバイクと車。実に女らしい趣味だ。
自分で考えただけで目眩がしてくる…。
そんな私だが一度だけ知人から男性を紹介して貰ったことがあるが私の姿を見るなり、無言で帰られたことがある。
3ヶ月くらいは夢に出てくるくらい、あれには酷く堪えた。
そのせいで正常な判断が出来なかった私は落ち目の会社を買収してしまった。ホントに言われるがままになんであんな会社を買っちゃったかな〜。
おかげでただでさえ忙しかった仕事が激務にとほほ・・・。
激務と先の見えない不安感から落ち込む私を気遣って、会社の部下達がツーリング&バーベキューを企画してくれたのだがまさかの寝坊。
だ〜、肝心な時に駄目駄目な社長でみんな、ごめん!
仕事では寝坊なんてした事がなかったからか部下達は笑いながら社長でも失敗するんですね、準備は私達がしておくのでゆっくり来て下さいと言ってくれた。
ホント、良い部下達に恵まれたと思う。
簡単に朝の支度を終えるとライダースジャケットを着て、姿見鏡の前に立つ。
ピッタリと合ったライダースジャケットは余すことなく身体のラインを強調しており、相変わらず瓢箪のようなこれでもかってくらいに女らしい身体つきに嫌気が刺す。
男性が嫌う体型に恰好だというのは解っているがこの恰好が1番、バイクに乗った時の風との一体感があって速く走れる気がするのでやめられない。
そもそも見せる相手もいなければ、見られる相手もいないのだからと開き直る。
今更、気にすることもないか…。
道具は部下達が全部用意してくれていると言うのでお言葉に甘えて、必要最低限の荷物で行く。
高級外車が並ぶ、タワマンの地下駐車場で自慢の『KUNOITI H2』のエンジンに息吹を与えると爆音が響き渡る。
地下だとどうしても響くよね。
その音にたまたま居合わせた住民から非難めいた視線を投げられるが知ったことではない。
お前のそのウンボルギーニだって大概だぞって、視線を投げておく。
今日、向かうのは隣の県の山中にあるキャンプ場。
このキャンプ場を経由する山道は峠道としてツーリングで良く使われる道だ。
私自身、ツーリングで何度か走ったことがある。
無駄に吹かさないように気を遣い、駐車場から外に出る。
休日の早朝ということもあり、街の空気にはまだ清々しさが残っていた。
コンクリートジャングルに囲まれた街の中ではビルに排気音が反響し、身体を震わすがそれが気持ちいい。
フルスロットルで自然の中を颯爽と走るツーリングも好きだが私は街中を走るのも結構好きだ。
信号がなければ、なお良しなんだが…。
30分も走れば、都心から離れ自然が多くなり、車の流れも緩やかになってくる。
停車する回数が減るにつれて、バイクと一体となる感覚が増えてくる。
タイヤを通して、足回りから伝わる路面の状況、エンジンの振動、アクセルを開くと寸分違わずにレスポンスが返ってくる爆発的な加速の暴力に脳が痺れる。
やっぱり、バイクは辞められない。もし、男とバイクどっちを取るのかと聞かれたら今ならバイクと言うだろう。
あ〜、バイク好きな男子がいればいいのに…。
存在しないであろう男に思いを寄せていると目的地のキャンプ場がある山の麓のコンビニへ。
ここで少し休憩を取ろうと駐車場に入れば、懐かしいバイクを見掛けた。
『TONDA リブル250』私が初めて買ったバイクだ。
リアシート周りには荷物が積まれているがバイク自体はしっかりと磨かれ、よく手入れされているのが解る。
荷物を積んでいる処を見るにこれから出掛けるのだろうか、人が近付いてくる気配に目を向けて驚愕で硬直する。
「(な、なんで!?男の子がいるの!?しかもめっちゃくちゃイケメン!!)」
男性保護法が制定されてから優遇されやすい男性達は家の中から出なくなった。
況してや法の目が行き届かない危険な地方からは男性が消えたとさえ言われるのにこんな片田舎のコンビニにいるなんて・・・。
駐車場には今、私のバイクと目の前のリブル250があるのみ。誰かに連れられて来た訳ではないという状況が物語っている。
つまり、この男の子はリブル250のオーナーの可能性が高い。
まさかバイク男子が存在したことに天地がひっくり返ったくらいに衝撃だった。
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