2話:出会い
地平線から朝陽が差すと同時にテントから起き出し、大きく伸びをする。
ついでに何度か深呼吸すると澄んだ山の空気で頭がスッキリして目が完全に覚める。
この自分以外に誰もいない。
まるで自然を1人で独占しているような感覚が、ソロキャンプの醍醐味なのかもしれない。
ちょっとだけ大人っぽくなった思考で自然の景色を満喫し、気が済めば動き出す。
今日はなんてことはない朝食を食べたら家に帰る。ただそれだけだ。
ミーチューブ用のカメラを設置したら手早く火をおこし、朝食の準備を始める。
朝から手間をかける気はないので、簡単なホットサンドを作る。
ホットサンドメーカーにパンをセットしてチーズとハムを入れたら焼くだけ。
暫し待つこと、香ばしい匂いが漂い始めたのでホットサンドメーカーから取り出すと半分に切る。
カメラに向かって、切り口を見せると程よくとろけたチーズが糸を引き、朝から食欲を唆る。
この絵はお約束みたいなものだと思っている。
ハッキリ言って俺のキャンプ動画は何の面白みもないチャンネルだ。
それでもキャンプ動画の他に、車やバイクに歌ってみたの動画もやっているからか、チャンネル登録者数は驚くことに1200人もいたりする。
収入は年間で1万円いくかいかないかくらいだがガソリン代の足しにはなるので馬鹿には出来ない。
俺の動画のコメントを見る限り、大概は俺と親父の顔に惹かれた女性が大体を占める。
顔がカッコ良いのは良いことだ。遺伝子に感謝。
食べ終わり、食後のコーヒーを飲み終わると軽く挨拶をして、カメラを止める。
この後は帰るだけなので、さっさと帰る準備を始める。
荷物をまとめたらバイクに積み、火の始末とゴミが無いか見て周る。
問題ないことが確認出来ると、バイクに跨がりエンジンをかければ、バイクのエキゾーストノートが山々に響く。
「……次は親父と来よう」
初めてのソロキャンプは感慨深くはあったが、やはりワイワイとしたキャンプの方が好みだと分かった。
たま〜にする分には悪くないけど。
誰もいないキャンプ地に挨拶をすると、バイクで荒れた山道を下りるのであった。
山道は親父と整備したとはいえ、所詮は素人に毛が生えた程度のもの。
アスファルトなんて以ての外。
キャンプ中にアスファルトが見えたりしたら気持ちが一瞬で萎えるし、邪魔になる石を退けたり、飛び出している枝を切ったくらいで所々に泥濘んだ場所があるのでしっかりと避けながら走る。
軽自動車がギリギリ1台通れるかどうかの狭く、舗装もされていない道を走ること20分程、山の中腹辺りにあたる一般道にやっと出る。
この一般道は峠道として、ツーリングコースとしても知られており、昔は走り屋達が夜な夜な暴走していたらしい。
今でも崖から下を覗けば、朽ちた車が見えなくもない。
今日は土曜日ということもあってか、楽しそうにツーリングをするバイカー達とよくすれ違う。
すれ違う度に挨拶替わりと言わんばかりにエンジンを吹かし、ヤエーするバイカー達。
負けずと俺も軽く吹かすが250ccの純正マフラーでは排気音でマウントをとられている気になる。
「(せめてマフラーだけでも替えようかな…)」
今後のカスタムを検討しながら走っていれば、麓のコンビニに着いていた。
キャンプ帰りにはいつも、このコンビニに寄って親父と休憩するのが習慣になっている。
実は俺、朝食はご飯派なのだ。
なのでホットサンドでは食べた気にならず、おにぎりを買う為にコンビニの中へ、ついでにトイレを借りようと店員さんに声を掛けるが物凄くびっくりした顔をされたがなんでだろう?
用を足し、洗面所についている鏡で見た目を確認するが、特に変な所は見当たらない。
思い過ごしかなとおにぎりを2つと緑茶を手にレジへ向かう。
俺を見た店員さんは再び焦ったように、噛み噛みで上手く対応出来ずにいる。
やっぱり、気のせいではないのか?
どこか、妙な反応だった。
「あの、俺…何か変なところありますか?」
「えっ!?いいいええ!な、なんにも変じゃないですぅ!!」(むしろめっちゃカッコイイです!こんな田舎のコンビニに男の人がくるなんて!?)
不安になり、声を掛けてしまったが店員さんの態度で余計に気になってしまった。
「ありがとうございましたっ!!またのご利用をお待ちしております!!」
全力のお見送りを背中で受けるが、少しのモヤモヤした気持ちのまま、コンビニの前でおにぎりをパクつく。
すると他を圧倒する甲高い咆哮が近付いてくる。
「(この音は山崎重工の『KUNOITI H2』だぁ!)」
世界で初めて、バイクにスーパーチャージャーを搭載したスーパーバイク。
俺が最も好きで憧れているバイクである。
今、俺が乗っているTONDAのバイクも好きなのだがやっぱり大型には乗りたい。
とは言っても、親父に手伝ってもらいながらも1からオーバーホールしたり、自分で整備したこのバイクには深い愛着があるので手放す気はないのだが……。
だんだんと近付いてくる、最高なエキゾーストノート。
どうやらこのコンビニに立ち寄るようで、ゆっくりと駐車場に入ってくると俺のバイクの隣に停まる。
この『KUNOITI H2』は性能を追求する為、ボディには高価なカーボンを採用し、その合間に見える黄緑色のシャシーが差し色となって、カーボンの魅惑な黒を引き立てる。
バイク自体の形も速さを体現したかのような、滑らかでありつつも力強い姿をしており、デザイン性の高さも相成って国内問わず、海外でも人気を博している特別なバイクだ。
「(ホント、山崎重工はとんでもないバイクを作ったなぁ)」
惚れ惚れとするフォルムに見惚れていると、バイクのオーナーからの視線を感じて、ハッとする。
「(しまった!勝手にジロジロと見るのは良くなかったかな)」
俺は慌てて、挨拶をしようとオーナーに目を向ける。
そこには絶世の美女とも云うべき女性がそこにはいた。
――その瞬間。
彼女の瞳が、信じられないものを見るように見開かれた。
「……なんで、こんなところに……男の子が?」
小さく漏れたその言葉の意味を、俺は理解できなかった。
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