1話:ソロキャンプ
2月13日より10話投稿。以降、平日18時に投稿です。
都心から離れた他県の山の中、焚き火を前に1人の青年がソロキャンプをしていた。
季節は初春の候、来月からは大学生として新たな生活が始まるからか、青年の表情はいつもより大人びていた。
その理由のひとつはキャンプをする時には必ずといっていいほど、隣にはいつも居たはずの父親がいないこと大きかった。
今日のソロキャンプは親父に無理を言って、実行したのだ。
来月から大学生活を迎えるにあたって、気持ちを整える為に思い出ばかりのこの場所で、初めてのソロキャンプをしてみたいと。
本当のところは単純にソロキャンプをしてみたくなって、口から出た方便だったりもするが……。
このキャンプ地はキャンプ好きが講じて、親父が山の一部の土地を購入したプライベートキャンプ地。
2人で時間を掛けて切り開いた思い出の地。
目を閉じれば、今でも2人で苦戦しつつも作業に没頭した事が昨日のように思い出される。
あの苦労を思い出すと、ジーンと鼻の奥が痺れるように涙が流れ出そうになるが、ミーチューブ用に動画を撮っていることを思い出し、涙は見せたくないとぐっと堪える。
ミーチューブ用に撮れ高を考え、お肉がジュージューと焼ける音を強調するべくカメラを近付ける。
お肉が焼き上がれば、キャンプの醍醐味である食事を堪能するべく、豪快に焼いた肉をカメラに向けてから、冷めないうちになるべく美味しそうに食べる。
この際に気をつけるのは汚く食べないことだ。
食べ終われば、食後のインスタントコーヒーを入れて、揺らめく焚き火の炎を見つめる。
焚き火を見ていると気持ちが和らぐというのか、しみじみと思いに耽るのであった。
母親は俺が幼い頃に亡くなっており、母親の代わりに男手ひとつで育ててくれた父親。
毎日、朝早くから夜遅くまで仕事で忙しくしていたのを覚えている。
そんな父親だったが、平日は仕事だからあまり構ってやれなくてごめんといい、休日には家族の触れ合いを取り戻すかのようにキャンプや釣り、スポーツに音楽、俺の身体が出来てくるとバイクに車と多彩な趣味全開の休日を共に過ごした。
今考えれば、アクティブな父の狙い通りだったのだろう。
今ではドップリと父と同じ趣味にハマっている有様。
結局、同じ趣味に走るあたり、親子なんだなと思う。
キャンプも趣味のひとつで、今では明確には何が楽しくて、やっているのか言えないが定期的にしないと、気分が落ち着かないようになってしまったのは最早、重症なのかもしれない。
俺と親父2人が揃えば、良いキャンプ道具を見つけたんだとか、今度は何処に行こうかとかなんて他愛もない話をして、ゆっくりと過ごしていたが今は木々のざわめきや薪に使った枝の水分が弾ける音だけが世界の全てに感じる。
春先とはいえ、山の上は寒く吐く息は微かに白くなり、マグカップから伝わる熱がこの大自然の中で生きていることを実感させる。
「……月が綺麗だ」
ボンヤリと見上げると雲ひとつない夜空、都会で見る星空とは比べものにならない光景、山の澄んだ空気に心が洗われる。
心が洗われるとは言ったが俺の心は元から綺麗だよ。
1人でするキャンプは何処かもの悲しいく、淋しいと思っていたが自然を独り占めしていると思えば、これはこれで悪くない。
ここには独りしかいないので、考えや思いにふけてしまうが、これからの新生活や親父と一緒にやりたかい事に思いを馳せれば、自然と顔が綻ぶ。
「……明日から頑張ろう」
初めてのソロキャンプで俺は小さな決意をする。
初めて1人で飲むブラックコーヒーは普段より苦く感じなかった。
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