こやつらをどうしろと?※王目線
こやつらをどうしろと?
白精霊師に追い詰められて力なく座り込んだ三人の翼人を冷ややかな眼差しで見つめる。
王の心を占めるのはただ面倒なことになったという思いだけだ。
翼ある人のことは城の図書室にある文献で知っていた。
おそらく古くから土地に根付いた民族の呼称とばかり思っていたが、まさか本当に背に翼を持つとは思わなかったが。
文献によれば神が自ら翼を与えたとされ、無碍にはできない。
だが実態は神の使いとは思えぬ卑小さよ。
このままでは式典が始められないではないか!
いまだかつて、こんなくだらない理由で中断されたことはなかった。
しかもそれが人違い、勘違いだと!
公爵家の当主を睨みつけると、彼は真っ青な顔で会場をあとにする。
名誉ある式典で息子の起こした不始末により爵位を下げることは間違いない。
そして王の視線はそのまま横にずれて、アレク=ブンデンベルクと並ぶハンナへ吸い寄せられる。
それにしても、ここまでとは思わなかった。
王家としては正直なところ、白精霊師は欲しかったのだ。
身分が貴族であればあらゆる手を尽くして奪い取っていただろう。
だが平民、しかも辺境のさらに奥地で見つかったというではないか!
美しいという噂は盛ってあるだけの田舎者。
教養だけでなく美しさでさえ王女や貴族の娘には劣るだろうと。
そんな田舎者との婚約を望んだのは辺境伯家子息、アレク=ブンデンベルク。
ブンデンベルク家は古くから好戦的な隣国との防波堤の役割を果たす家柄、しかも王家には王女との婚約の件で娘のわがままを通し一方的に破棄したという負い目があった。
表向きは王女の瑕疵にならないようブンデンベルク家に事態をうまく収めてもらったという経緯もある。
白精霊師は欲しいが平民、これ以上辺境伯家に圧力をかけて離反でもされたら面倒だ。
精霊師の数が少ないことをよいことに、これ以上武力をつけさせないよう、のらりくらり精霊師派遣の要請を拒み続けてきたのも今回は仇になった。
他領にも辺境伯領の精霊師が少ないことは知れ渡っている。
それなのに白精霊師を寄越せといえば、間違いなく王家の横暴であり強欲だと謗られるだろう。
無理矢理奪い取っては清廉潔白を好む精霊に嫌われかねないし、それこそ内乱となってもおかしくない。
だから白精霊師を取り込むことは諦め、婚約を認めたのだ。
ふと視線を感じてそちらを見ると、優雅に微笑むアレク=ブンデンベルクと目が合った。
きっとここまでの流れは、あやつにはとっくに織り込み済み。
問題ないと判断したからこそ、翼人達の自由にさせたのだ。
彼は国内屈指の金精霊師であるだけでなく、頭も切れる。
見た目は礼儀正しく王家に忠誠を誓っていても戦闘特化にふさわしく内面は誇り高く苛烈。
この男ならば場合によっては国を滅ぼしてでも辺境伯領を守ろうとするだろう。
だから下手を打って敵に回すよりも田舎者との婚約くらい認めるのが最善と、そう思っていたのに。
全ての想定はひとりの平民によって覆された。
はっきり言って容姿は王女の誰よりも美しい。
それにあの気品といったら……あれが野生のものだとは到底信じられん。
しかも彼女は平民という立場を逆に利用して慈悲を乞い、己が才覚で無事に疑いを晴らした。
それだけでなく、トウカという娘の姉の罪というのが冤罪である可能性まで示唆してみせたのだ。
なかなかどうして平民にしては度胸もあり、立ち回りも見事なものよ。
しかも先ほどの光景を見る限りではアレク=ブンデンベルクとは上司と部下としての連携も取れている。
衆目のあるところで、あれだけ上手く対処する姿を見せつけられては、白精霊師の管理者として不適格と遠ざけることもできない。
そして、何よりもあの二人は愛し合っている。
美しいと評判のアレク=ブンデンベルクの隣に並んで遜色がないという稀有な容姿だけでなく、性格的にも二人の相性は良さそうだ。
身分の差を乗り越えて結ばれた彼らをキラキラとした眼差しで見ているのは若い貴族の娘達。
彼女達の影響力は侮れず、さほどの時間をかけずに愛し合う二人の物語は社交界でも話題になるだろう。
ちらりと王子達の様子を伺う。
あれだけの美貌であれば、己が全てをかけてでも手に入れたいと狙う男も出てくるに違いない。
婚約者のいない第二王子が、わかりやすく瞳に仄暗い欲望を宿していた。
……これは釘を刺しておかねばなるまいな。
王家が許可した婚約だから王家の権力で解消させることは可能だ。
だがこれだけ仲睦まじい姿を見せつけた二人の婚約を解消させ王子と婚約を結ばせるのは外聞が悪い。
しかもこれまた、たいした溺愛ぶりだ。
見つめ合う二人には互いしか見えていないのがわかる。
これで婚約を解消させたら王家の横槍だということは一目瞭然、聡明で公正とされる王家の目指す姿から程遠くなってしまう。
それに怒りに我を忘れた金の獅子が牙を剥くことも避けたい。
剣の腕だけでなく立ち回りも上手いから面倒なことこの上ないのだ、あの男は。
同時に白精霊師も敵に回すのだから、国に対する豊穣と慈愛の女神のもたらす恩恵にも影響が出るだろう。
道理と利益を秤にかける。
そして、王は二人に干渉しないことを選んだ。
そして再び翼人達に視線を戻す。
それにしても不可解なことだ。
神より与えられた翼を持つ翼人よりも、よほど白精霊師のほうが気品高く神性を帯びているように見える。
身分は白精霊師と同じ平民のはずなのに礼儀もわきまえず、不愉快極まりないことよ。
地に落ちた翼人など、地上の民となんら変わりないように思われた。
さてどうしてくれよう?
再び頭を悩ませる王の元に、宰相が歩みを進めた。
そして、そっと耳元で囁く。
「……なんだと?」
「いかがされますか?」
「礼を尽くすならば仕方あるまい、通せ」
次から次へと無理難題を要求してくる……翼人とは、ずいぶんと厚かましい種族だ。
その傲慢さが、神に翼を与えられたという優越感に基づくものであろうと、他国の建国記念の式典を遅らせる理由にはならない。
とはいえ建国記念のお祝いを持ってきたとなれば、無礼を働いていい理由にもならないと。
とにかくお祝いの品というものを見てから判断しよう。
許可を与えると、宰相は高らかに招待客へ客人の来訪を告げた。
「建国より末永く続く国の幸を寿ぎ、心よりお祝い申し上げます。」
程なくして、献上品とおぼしき箱と共に姿を現したのは黒目に黒髪の男が二人。
王は口上を述べた男が見知った人物とよく似ていて、思わず目を見張った。
「貴殿はタンガという人物をご存知か?」
「はい、私の息子にございます」
王家と一部の高位貴族が動揺した。
ああ、入口で追い返さなかったことが悔やまれる。
黒精霊師タンガは、王家による監視を受けながら他国へと移住したばかりだ。
精霊術の効果は術式を破壊し、あらゆる効果を阻害する。
神の愛し子でありながら王国の天敵のような男の父親が、なぜここにきた?
王は内心の動揺を隠すように、隣に並ぶ男へと声をかけた。
「貴殿の名は?」
「ルオと申します」
警戒心を抱かせない軽やかな雰囲気の男であるが、その瞳は油断なく周囲に注意を払っている。
タンガは自身のことを、かつて翼人の国の賢者であったと称した。
この男もまた、タンガという男と同じような資質を持つ者だろう。
王は招き入れたことを後悔したが、先ほどからただならぬ気配を醸し出す献上品も気になっている。
不吉なものでないことは、精霊術で調べたのでわかっているが。
とにかく献上品を受け取って速やかにお引き取りいただこう、そう思ったときだった。
「おお、ルオ! それにタイランではないか! よかった、助かったぞ!」
場違いな歓声が三つ、あがった。
タンガの父の名はタイラン。
翼人の名を知るのは翼人しかいない。
だが二人は王に首を垂れたまま微動だにしなかった。
「よいのか?」
王は彼らの代わりに問うた。
タイランは顔を伏せたまま答える。
「問われたと理解しましたので直接答えさせていただきます。なぜなら私達は身分の下の者が許しなく発言するのは無礼にあたると学んでいるからです」
王や高位貴族は驚きを隠せなかった。
あの三人を見る限りでは、人の世の礼儀作法を学んでいるとは思えなかったからだ。
それをきちんと理解したうえで使いこなす。
ほんの少しだけ、翼人への印象が上向いた。
「それならば直答することを許そう。それで、どうしてここにきた?」
「そのためにはまずなぜ我々がこの国にいるのか、という理由から話さねばなりません」
タイランは話しはじめた。
まず、彼らの暮らしていた翼人の国は辺境の地のさらに先にあったという。
人が容易には立ち入ることのできない山の頂上にあったというのだ。
辺境の地、という言葉に人々の視線がブンデンベルク辺境伯子息と白精霊師へと向く。
二人ともに、終始驚きを隠せない表情を浮かべている。
あの表情は何も知らなかったという顔か。
そう判断して、王は二人の話に耳をかたむける。
平和なまま、永く続いた繁栄。
やがて繁栄に慣れきったころ、厄災が国を襲った。
害獣の襲来、農作物の不作、そして国を守っていた結界の消失。
さまざまな厄災の根本にあったのは神々から贈られた一匙の恩恵にまつわる知識を失ったことだった。
「どうやら失われた知識というのは精霊術のことであったようなのです」
「なんと」
「こうして我が国は滅びました。行くあてもなく途方に暮れておりましたところ、流浪の民から貴国の評判を聞き、一筋の光明を見出したのです」
この国は礼儀を重んじ、慈悲深さを尊ぶ。
精霊の力を借りながら生きる人々は感謝の気持ちを忘れない。
そして移民にもある程度の理解がある。
「すばらしい国だと思いました。そしてこう考えたのです。国の栄光とさらなる繁栄を願うという本日こそ、お預かりしていたこの品を貴国へお返しするのがふさわしい日であると」
タイランはルオと共に蓋を開いた。
箱には三冊の書物が納められている。
古びてはいたけれど、保存状態は良かったようで傷や汚れのひどい箇所はなかった。
「これは……!」
表題が読めないため内容はわからない。
そのうえで王が目を見張ったのには理由が二つあった。
一つは書物からあふれ出る体内に満ちる力とは別の何かの力に気がついたからだ。
我々とは別種の力……黒精霊師に対峙したときと同様の純粋な神の力を感じさせる。
この本は書物でありながら、本に書かれた対象物を守護する神の力がこめられているのだろう。
神の贈り物、天の恵みとでも呼ぶべきか。
けれど気配だけで、宝物殿に収められていてもおかしくはない本物だと思われた。
そしてもう一つは、箱に精霊術の保存と修復の術式が組み込まれていることだった。
この保存箱へ体内に満ちる力を足せば、いついかなるときも新品同様であったということだろう。
だが知識の失われた結果、修復されずにここまで経年劣化が進んだ、と。
うむ、精霊術の知識が失われたという彼らの言葉は本当らしい。
他人事ではないなと、王は深く息を吐いた。
彼らのたどった道は精霊術を多用するワムシャリア王国にとって、回避すべき未来の姿の一つでもある。
ほんの少しだけ翼人に対する情がわいた。
「して、その書物はいかなるものか」
「この国において、もっとも価値のある書物と思われます」
「なんだと?」
タイランとルオは首を垂れた。
「知識と深淵の神が記されたとされる『ワムシャリア王国建国記』にございます」
「な、なんだと!」
その場にいる者全てが驚愕した。
先ほどまでとは比べ物にならないくらい人々がざわめく。
その本の存在自体は古くから伝説として語られていたのだ。
王の記憶によれば、過去、戦争により散逸することを恐れた当時の王が神に守られし人々へと託したと。
つまり当時の王は翼人の国の人々にこの書物を預けたというのか!
「こ、ここれが、まさか伝説の……」
「ほ、本当であるならば実際に手に取って確認せねばなるまい」
するとタイランが申し訳ないというふうに眉を寄せた。
「箱に収めたままお持ちしたのは理由がございます。大変不甲斐ないことではございますが、知識を失った我々ではこの書物を修復する術を持ち合わせておりません。どなたか専門の知識と技量をお持ちの方に修復をお願いしたいのです」
この場には少なくない数の精霊師がいた。
通常であれば修復の術式を起動させるのに大量の力は必要でないとされているから誰でもできるはず。
それこそ青か、銀の含有量を持つ精霊師であればまず問題はないはずだった。
ただ、ここにあるのが本物であれば神の書を保存する箱を修復することになる。
術式を起動させて書物の劣化まで修復するとなればどれだけの含有量を必要とするかわからない。
困惑した人々の視線が自然と白精霊師へ向けられた。
王はハンナへと直接声をかける。
「頼めるか?」
「御意に。ただもし叶うのであれば、万全を期して保存と修復の術式に造詣の深い方にも立ち会っていただきたいのです。私はまた勉強中の身、不足があっては翼人の皆様や王家の方々に顔向けができません」
「そういえば、そちはまだ学校を卒業して間もないのであったな。うむ、もっともだ、誰がよいであろうか?」
すると宰相によって指名を受けた複数の男女が呼ばれる。
銀と青の含有量を持つ彼らは貴族に名を連ねた研究者でもあった。
その中に見知った顔を見つけて、白精霊師の顔が親しげにほころんだ。
「久しぶりですな、白精霊師殿」
ノックス教授は白精霊師と軽く挨拶を交わして、早速、箱の術式をのぞき込む。
彼ら興奮を隠せないようで、周囲を置き去りにして専門用語が飛び交っていた。
細かい点を確認し合ったあと、代表してノックス教授が口を開く。
「箱の術式自体に損傷はございません。書物のほうも修復されずにいたとは思えないほどきれいに保管されております。保管場所の温度管理などの配慮が適切になされていたのでしょうな。知識が失われたあとも、翼人の国の方々によっていかに大切に保管されてきたかがわかります。術式自体は古典的なもののために回路も多く力を使いますが、起動することさえできれば最小限の力だけで書物は自動的に修復されるでしょう。当時の技術力を結集させた歴史的な価値も高い、すばらしい術式といえるでしょう」
そして教授は口をつぐんだ。
ただどれほどすばらしい術式でも機能しなければ意味はない。それでも温度管理や保管場所によって書物自体の寿命が伸びるということか。
術式にばかり頼り切ることなく、不測の事態に備えて貴重品の保管と保存に適した環境を整えておくことも大切ということだな。
長い時間をかけて培われた翼人の知識は決して侮れないものということが、ノックス教授の言葉で理解できた。
深くうなずく王の視線の先で、ハンナは研究者達に深く頭を下げる。
「ご教示ありがとうございます。それでは起動させましょう」
「使用される力の量は、金を少々上回るくらいで足りるでしょう。術式の維持であれば紫でも足りるでしょうから、起動さえできれば我々でも管理は可能です」
「それでしたら問題ありませんわ。……ちなみ起動には力加減の微調整のようなものは必要でしょうか?」
少々間があいて、逡巡した様子でハンナが問うた。
すると隣に立つアレクが、くすりと笑って彼女の手をすくいとる。
「大丈夫、心配しなくても私が隣にいるから」
厳しいと評判の男が、あんな優しい表情もできるのか。
王だけでなく、若い女性達のあいだにも静かな動揺が広がった。
一瞬固まったハンナだったが、安心した様子で彼に微笑みを浮かべる。
すると年相応に少女のような恥じらいと愛らしさが垣間見えて、今度は若い男性達の心を揺さぶった。
彼女は真剣な眼差しで蓋を閉じると術式に手をかざす。
「では起動いたします!」
一呼吸おいてから光の粒子がハンナの手からこぼれて、体内に満ちる力がぐんぐんと吸い込まれる。
やがて王や高位貴族は吸い込まれていく力の量に目を見張った。
王子や王女達の血の気もうっすらと引いていく。
王族は総じて含有量が多いとされる。
それは含有量の多い貴族間で婚姻を繰り返すからだと言われてきた。
それが辺鄙な土地の平民でありながらこれだけの含有量を誇るとは!
……身分にばかりこだわっていては、手に入らないものもある。
神に愛されるということに身分は関係ないのだと王は悟った。
ヴヴヴッーーーーーー。
やがて、わずかに音を立てて箱が光を帯びる。
光が収まったのち、誇らしげなアレクに手を取られたハンナは優雅に膝を折った。
「術式の起動および書物の修復が完了いたしました」
研究者達は箱の内部を覗き込み、興奮した様子でうなずいた。
そしてタイランとルオは箱の内部を覗いて目を見張ったのちに、玉座から見えるように箱をかたむける。
三冊の重厚な茶色の革の背表紙には金の文字で『ワムシャリア王国建国記』と記されていた。
「おお!」
玉座に運ばれた本を開けば、そこにはワムシャリア王国建国期に使われていた古語が並ぶ。
感動のために、誰もが言葉を失った。
タイランとルオは玉座に向かい深く首を垂れる。
「これ以上に建国を祝う祝典にふさわしい贈り物はないと思われます。本日、このときをもってお返しいたしますので、どうぞお納めください」
「すばらしい、これ以上ない献上品だ!」
興奮した王は玉座から立ち上がった。
彼らは途方もない長い時間を守り通してくれたのだ、その労を報いなければならない。
「なにか願いはあるか? 感謝の気持ちを込めて我々ができる範囲で一つ、願いを叶えよう」
すると見当違いの方向から声が上がった。
「でしたら我々を解放してください!」
意識からとうに外れていた三人の翼人が期待に満ちた眼差しで縛られている不自由な体をゆする。
保身しか考えていないような彼らを視界に収めた途端、王の機嫌が一気に急降下した。
すばらしい書籍と、このくだらない者達を引き換えるというのは納得いかない。
ただ王としては処理に困っていたのだから、都合のいい申し出とも思える。
王はタイランとルオに視線を止める。
「汝らもまた翼人ということでよいのだな?」
「はい」
タイランもルオも背にあるという自身の翼をバサリと広げる。
揃って漆黒、つまり烏の羽だ。
三人のうち、父親と思しき者の背に生えたものと同じであることから同族ということだろうか?
ならば父親が彼の名を知っているのも納得できる。
いくぶん、冷ややかとなった眼差しで彼らを見つめた。
「それで願いは、彼らの解放で良いのか? ならばかまわぬ、速やかに連れ帰って二度と……」
「お言葉をさえぎる不敬をお許しください。答えは否にございます」
あまりにもきっぱりと答えるから、不敬を問うまえに驚いた。
一拍迷って、ありきたりな質問を投げかける。
「よいのか?」
「はい、彼らはもう翼人としての誇りを捨てた者。我々が命をかけてまで助けるに値しません」
「な、なんだと! タイラン、同族の我々を見捨てるのか⁉︎」
「血をわけた娘ですら見捨てたおまえに言われたくはない」
「……ほう、お主は娘を知っているのか? たしか姉娘で、レンカといったか?」
「はい、承知しております」
王は手のひらをハンナに向ける。
視線の先でハンナはアレクに支えられたまま、ただ静かに微笑んでいた。
「彼らはあそこにいるブンデンベルク辺境伯家子息の婚約者が自身の家族であり、罪人として翼人の国を追放されたレンカという娘だと言い張っている。どうだ、あのハンナという娘はレンカに間違いないか?」
「そうだタイラン! ルオもはっきりと言ってやれ! その女が翼人の国を滅ぼしたのだと!」
味方を得たとばかりにトウカと両親は盛んにうなずいている。
そして見下すような、蔑むような眼差しをハンナに向けていた。
王の手の動きに合わせて、タイランの視線が彼女へと向く。
それからゆっくりとした動作で彼の口が開いた。
「たしかに……よく似ておりますな」
別視点を入れました。読みにくいところがありましたら申し訳ありません。お楽しみいただけるとうれしいです。




