これが正義だというのなら、私は認めない
三年も経てば記憶は曖昧になるもの。
一度は通った道であるはずなのに、まるで見覚えのない場所のようだった。
洞窟の奥を睨んで、アレク様は私に自らの手を差し出した。
「こんな暗く寂しい場所を、君は一人で彷徨ったのか」
「慣れると、ずっとこんな感じなので気になりませんでしたよ?」
「それでもだ、女性を一人で送り出すような場所じゃない。それに足場も悪いみたいだ、危ないから手を出して?」
「ありがとうございます」
包み込むように握られた手を、握り返す。
彼の手は温かくて気持ちがいい。
口元には意図せず笑みが浮かぶ。
叶わなくても……今だけなら、いいよね。
背後ではトウカがタンガへ手を繋いでくれるようおねだりをしていた。
仕草や口調は、なかなか可愛らしいと思ったけれどタンガには効果がなかったらしい。
不本意でも書類上は婚約者なのだ、手ぐらい繋いであげればいいのに。
痴話喧嘩は仲の良い証拠なんですって。
勝手にしてよ、もう。
時刻はすでに夜。
足元を照らすのは手に持つランタンの灯りだけ。
奥に進めば進むほど、ぼんやりとした洞窟内は幻想的というよりも不気味だ。
アレク様は遅れがちな後方の兵士を振り返って、眉を顰めた。
「見えないというほどではないが、普通の人間の目では暗いか」
「では灯りを足しましょう」
私が虚空に手を翳せば、手のひらから小さな光源が生まれる。
それを蝋燭ぐらいの明るさになるよう調整し、足元に一定の間隔で配置した。
足元の灯りを頼りに、さらに奥へ奥へと進んでいく。
「帰り道の目印として消さずに残していきますね」
「灯りはどのくらい保つの?」
「洞窟内を支配下に置いていますので、洞窟にいる間は保つかと」
「うん便利だね。少人数で夜襲をかけるときに使えば、人数を誤認させることができる」
奥へと誘う蝶を追いながら、アレク様との会話が弾む。
術式について話すときは実戦を想定した内容であることが多い。
色気のかけらもないが、とても有意義な時間だ。
一時間くらい歩いただろうか。
囁き合うような蝶の会話に気になる波長を拾った。
「先頭にいる蝶が、それらしい集団を発見したそうです」
「どのあたりにいる?」
「ここからはまだ少し離れています。本道から横道に逸れ、突き当りにある空間で野宿をしているようです」
「探索をかけて正解だったな。事前の準備もなく闇雲に突き進んでいたら見逃していたかもしれない」
アレク様は、ちらりと背後に視線を投げる。
視線の先にはタンガがいて、暗いからという理由だけでなく顔色が悪い。
……そういえば、さっきから二人共ずいぶんと静かにしているわね。
タンガは情報を得るため、トウカは私の境遇を探るためにうるさく話しかけてくるものだと思っていたのだけど?
存在を忘れていたわけではないが、あまりにも大人しくて意識していなかった。
普段は空を飛んでいるから、足場の悪い地面に慣れないせいで緊張しているのかしら?
無言のまま、大人しくついてくる二人の姿を見るとそれはそれで不安になる。
「その場所まで今日中にたどり着けるのか?」
「ええ、地点は把握しましたから最短距離で迎えに行くことが可能です」
「最短距離?」
「実際にお見せしましょう」
タンガの問いに短く答える。
これから繊細な作業が必要だからね。
混乱した二人が邪魔しないようアレク様に監視されている状態で術式を展開した。
「最短距離、それってさっきの……」
タンガの声を無視して、転移の術式を発動する。
空間が揺れ、ほんの少しだけ風が吹く。
見せかけだけの幕が、ふわりと翻った。
幕の先、真っ暗な空間に降り立つと私は手のひらから光源を放つ。
初めて味わう転移の感覚に呆然としていたトウカが、周囲を見回しつぶやいた。
「なにこれ…」
「別の空間へ転移したの」
そっけなく言い置いて、アレク様の隣に並ぶ。
さきほどまでいた場所の壁の色と明らかに違うから、すぐにわかっただろう。
しかも岩に生えていた苔もなく、岩肌は剥き出しでゴツゴツとしている。
この岩肌が山頂付近に近づいたという証だ。
翼人達を目の前にして、私はわざとらしく礼の姿勢をとった。
「転移、完了しました」
明らかに動揺した様子を見せた彼らに、アレク様が小さく吹き出した。
翼なんていらないものね。
さきほどよりも明らかに重苦しい雰囲気が周囲を包む。
トウカは、ようやく私のしわざだと信じる気になったようだ。
唇を固く結び、青白い顔で視線を逸らす。
そしてタンガは二度目ともなると立ち直るのも早かった。
「君は、本当にあのレンカなのか?」
私は苦笑いを浮かべる。
思わず出ちゃったのだろうけど、その呼び方はどうなのかしら?
ここまで私にお膳立てしてもらったのに役立たず扱いのままなのは、むしろ失礼よね。
「……礼儀を忘れないように身体で覚えさせるというのはどうかな?」
いい笑顔で言い放つアレク様には首を振ってお断りした。
指摘して言い訳を聞くのも面倒だし、ここで心身が挫けたらもっと面倒だからね。
「ねえ、タンガ。それよりもあなたには大事な仕事があるでしょう?」
私は現在地の脇でぽかりと口を開けた横道を指差した。
視線を凝らすと、わずかに揺れる焚き火の炎と動く人影が見える。
それに気がついたタンガは、すかさず奥の空間へと身を躍らせた。
「皆、大丈夫か⁉︎」
一斉に歓声が上がる。
こういうところは昔から上手よね。
弱っている人間にとって最高のタイミングで手を差し伸べる。
そして、それはこの子も同じ。
「私がタンガ様を連れてきたのよ、感謝してよね!」
続いて洞窟に飛び込んだトウカの明るい声が響いた。
彼女の容姿と高飛車な口調が揃うと、なぜか皆は許してしまう。
これを天真爛漫というのだろうか?
トウカにとって鷹の羽の他に持つ、もう一つの武器だ。
それにしても、ねえ。
最初に飛び込んだタンガは偶然だろうが、トウカは意図的に私とアレク様の存在を省いている。
タンガの手柄にしたいだけなのだろうが、結果として彼らの行動が揃うと、側から見ている第三者にはこう受け取られてしまうのだ。
「仲良く他人の功績を横取りか、胸糞悪い」
「アレク様、口が悪いですよ。それに、よくあることです」
昔からそうだもの。
私の周囲にいた誰もが、いい結果は自分の手柄、都合の悪いときは私のせいにする。
これをされたら私の評価が上向くわけがないよね。
どれだけ尽くしても、彼らはきっとそれ以上を求めるだろう。
できないと断れば役立たずだと勝手に決めつける。
自分ができるかどうかなんて、我が身を振り返ることもしない。
翼人の身勝手さは、ここまで一緒に行動してきて十分理解できたわ。
トウカだけじゃない、タンガも根っこの部分では変わっていなかった。
知識を蓄え世界の広さを知った今も、彼は私が役立たずであることを望んでいる。
強くあろうとする私は、タンガにとっては不要なもの。
再び出会ったことで過去の気持ちが再燃し、揺らいでしまうかとも思っていたがそんな心配はいらなかった。
離れていたことで思いを募らせる人もいるのに、私はためらいなく手放すことができそうだ。
違う生き方を選んだ今、二人の道が再び交わることはない。
私は幼いころの優しい記憶を心の奥底に仕舞い込み、二度と開かぬよう鍵をかけた。
そして鍵をかけ終えた私は……不敵に微笑む。
「ねえ、アレク様。これからの苦労を思えば今だけは彼らにも良い思いをさせてもいいと思いません?」
「……まあ、それもそうだね」
私の表情から察したアレク様が皮肉げに唇の端を歪めた。
希少価値の高い財が手に入りそうな予感に彼は満足そうな笑みを浮かべる。
「含有量の多い者が寄り集まることでもなければ、体の外まで漏れてくることはあり得ない。それだけの力を持ち合わせた者達が一度に国から失われれば……今以上の問題が持ち上がるというのは必然だろう」
「ほんと、そうですよね」
「どうして気がついたの?」
「アレク様が精霊術というものの知識を授けてくれたからですよ。私には精霊師の資質があって、含有量の多いほうだとわかって……そこから芋づる式にですね。それがなければ、彼らの存在を思い出すこともなかったかもしれません」
「無知とは残酷な結末を招くものだね。上に立つ者が知らなかっただけで、国一つ滅ぶこともある」
肝に銘じておくよ。
真剣な表情で応じた彼の顔は領主となるに相応しく、厳しくも堂々としたものだった。
「さて、感動の再会ももう十分でしょう」
真実を知らせるのは、もう少し先でいい。
まずは追い出された蝶の翅を持つ者を安全な場所へ避難させなければ。
私は無事を喜び合う身内同士の和気あいあいとした空間に配慮することもなく足を踏み入れた。
水を差すことに何のためらいもない今は、あえて場違いなほど明るい調子で声を掛ける。
「皆様、ご無事で何よりですね!」
そして、にっこりと微笑む。
お前誰だよという微妙な空気にもめげず、人数をかぞえた。
年齢も系統も違う美男美女でありながら黒髪黒目という共通の特徴を持つ人物。
蝶の翅を持つ者はこうして並ぶとすぐにわかる。
全部で八人。
それなりの規模を持つ翼人の国でも両手に満たない人数しかいないのね。
しかも、まだちゃんと歩けない子供まで含まれている。
そして親の姿は……当然のように、ない。
容赦なく追い出したというのは本当のようだ。
ぶわりと怒りが湧き上がる。
そして私の後ろからアレク様が姿を現すと、彼らはさらに警戒心を露わにした。
アレク様は穏やかな微笑みを浮かべて一行を率いていたと思われる賢者候補の男性に声を掛ける。
「翼人の国より参られた方々とお見受けいたします。私はこの一帯を直轄するブンデンベルク辺境伯領次期領主アレク=ブンデンベルグです。あなた達のご事情は彼らから聞いております」
アレク様の視線がタンガとトウカへと向く。
視線を受けたタンガは、安心させるようにうなずいた。
「彼らは信用できる、大丈夫だ」
「トウカ嬢からは、あなた達が国を追われたと聞いております。身寄りもなく、お困りのことでしょう。よろしければ、我が領館に逗留なさいませんか? そして今後の身の振り方をお考えになられてはいかがでしょう?」
さすが外面王子様。
柔らかい語り口と真摯な眼差しで、こちらの思惑など微塵も感じさせない。
密かに感心していると、賢者候補の一人と目が合った。
「あの、あなたの後ろに控えている方は……?」
アレク様が頷いたので灯りの前に出ると、その人物は驚愕の表情を浮かべた。
そういえば、よくタンガと一緒になって様子を見にきていた人がいたわね?
彼の顔はその人に、よく似ている。
「レ、レンカさん! まさか、生きていたのですか⁉︎」
「……最近そうやってよく驚かれるのですが、私が生きていたことはそんなに意外ですかね?」
憮然とした表情で、軽く嫌味を返した。
トウカもそうだけど大袈裟なのよ。
たしかに蝶の翅を持つ者らしい儚げな容姿をしているから、生き残るのは厳しいと思われて当然かもしれない。
けれど、はなから生存を絶望視されているというのも腹立たしいわね。
「ちなみにレンカではなく、今の名はハンナですよ」
「えっ、名を変えたと?」
「はい。国外追放となり、家族にも絶縁されました。蝶の翅を持つというだけで、罪なくして国外追放となった皆様と同じですね! ですので遠慮なく翼人の国に繋がるものを全て捨てることにしました」
「全てを、捨てる覚悟で……」
賢者候補達が一斉にタンガを振り向く。
どこか哀れみを含んだ彼らの視線に耐え切れず、タンガはうつむいた。
……だからなんであなたが傷ついたような顔をするのよ?
さわさわ、さわさわ。
囁く蝶の翅を持つ者の中から、小さな声が上がる。
「あなたも、蝶の翅を持っているのですか?」
「正確には持っていました、ですね。害獣に襲われたときにむしられたので、今は欠片も残っていません。」
「む、むしられた⁉︎」
我が身に置き換えてみたらしい。
蝶の翅を持つ者達は、皆、悲鳴をあげて恐怖に震えるようなような表情を浮かべた。
ああそう、それが普通の反応なのね。
怯えた表情を浮かべると、女性達はいっそう可憐で儚げに見える。
トウカのようにあざとさを感じさせるものではなくて、もっと希少な天然物だ。
そして男性達の痛みに耐えるように歪めた表情が、どことなく艶めいて色っぽい。
……なんとも罪作りな。
この表情や仕草を見たさに嫌がらせを繰り返しただろう愚かな翼人の姿が目に浮かぶ。
もしこれが標準だとしたら気が強くて可愛げがなく生意気だという私の悪評が立つのも納得だわ。
そして憎しみが暴走した結果が、農作物の毀損と国外追放といったところか。
笑えないわー。
アレク様、自分のいったとおりだからってニヤニヤしないでください。
「もしお疑いならば、一応むしられた際についた傷跡が残っているので見ますか?」
声にならない悲鳴をあげて、皆が激しく首を振る。
さきほどの女性などは涙目を通り越して、もはや泣いていた。
大抵の場合、蝶の翅を持つ者は気が弱く臆病で、争いを好まない温厚な性格と?
……あら?
なんとも言えない微妙な表情を浮かべたタンガが、私の肩を軽く叩く。
「……レンカ、実のところ君が色々規格外なんだ。もうこれ以上追い詰めるのは止めてあげて?」
「姉さんって本当にガサツね。他人に対する配慮ってものはないの?」
トウカ、あなたが配慮を語らないで。
ちょっとアレク様『他の者は繊細だな』なんてボソッと言わないでください、いくら私でも傷つきます。
しょうがないじゃない、私の家庭環境では気が強くなければ生き残れなかったの。
「それからタンガ、私の名前はハンナよ」
「どうして名を変える必要がある?」
「正直なところ、翼人の国には辛い思い出しかないの」
タンガは、ほんの少しだけ泣きそうな表情を浮かべた。
あなたが悲しむことはないわ。
レンカの名を手放しただけで、私自身は今も昔も変わらない。
そして蝶の翅を持つ者は翼人の国には、辛い思い出しかないという私の言葉に辛い記憶が刺激されたらしい。
程度に差はあれど、誰もが同じように役立たずと扱われてきたのだろう。
彼らの瞳に生気が戻ると……奥底には憤怒の炎が宿った。
そうよ、怒れ。
あなた達には、その権利がある。
空気が再び重苦しいものへと変わった。
場に水を指すことばかり言うトウカも、さすがにこの状況では大人しくしている。
数は力だというけれど、それは正しいことのようだ。
この場において圧倒的多数は蝶の翅を持つ者。
彼らの行く末を決める権利は彼らにある。
……邪魔はさせないわ。
しばらく待っていると、小柄で可愛らしい雰囲気の女性が顔を上げた。
「あなたはその、追放されたあとはどのように保護されたのですか?」
「私の場合、洞窟内をさまよううちに食糧が尽きてしまいまして、脱出することはできましたが疲労と栄養不良で意識を失ってしまったのです。ですが、倒れたところを運良く通りかかった養父母が保護してくださいました。今はこちらのアレク様に仕えて、辺境伯領において彼の仕事の手伝いをさせていただいております」
「食糧が尽き、倒れたですって……⁉︎」
私の体験談に蝶の翅を持つ者達の間に動揺が走った。
可哀想に、プルプル震えている子もいる。
あれ、おかしいな?
笑い話のつもりだったのだけど。
タンガが緩く首を振っている。
あら、これもダメか。
今の彼らにはそれだけの余裕がないということかな?
そもそも翅を持つ彼らは飛ばずに長距離を歩くという行為ははじめてのはず。
慣れない動きは体に余計な負荷を掛けるもの。
そのうえ、国外追放という荒波に揉まれて心身共にクタクタのはずだ。
翼人の国から、さほど離れていないようなこんな場所で野宿しているのがいい証拠。
そしてそれは賢者候補達にとっても同じ。
私は賢者候補の一人に声を掛けた。
「ちなみに、どの程度食糧を渡されましたか?」
「それが……」
彼は言葉を詰まらせながら食糧袋の口を開く。
覗き込んだ私は、息を飲み、深くため息をついた。
「……これだけですか。洞窟内で飢えて死ねと言っているようなものですね」
この人数では二日位しか保たないだろう。
そして歩くしか移動手段のないこの洞窟を二日で抜ける事は難しい。
「特にこの子は衰弱が激しくて、今にも呼吸が止まってしまいそうなのです」
「見せてもらえますか?」
賢者候補の一人が抱いていた女の子を私に見せる。
同じ年齢の子供と比べても圧倒的に細かった。
親は何をしていたのよ!
自分の過去と重なって、激しい怒りを覚える。
そして今は呼吸を浅く繰り返して、うわ言を呟いていた。
高熱が出ているわね。
この状態では自力で下界に降りるどころか、下山するまで命が保つかもわからない。
これが正義だというのなら、私は認めないわ。
アレク様は女の子の顔を覗き込み、そっと手を伸ばすと首筋に指を当てて熱を測った。
途端に唸るような彼の声が聞こえる。
「ハンナ、君の見立ては?」
「ここまで衰弱していては、精霊術だけで治療するのは危険です。体力の回復が最優先、精霊術で肉体に負担をかけない程度に熱を下げて抵抗力を上げながら現状を維持します。麓の両親の家に医師を呼んでもらいましょう。一刻も早いお医者様の診断と治療をお勧めします」
「白精霊師の君が言うのなら、それが最善だということだね」
アレク様と話す間にも、私は手持ちの紙へ両親への伝言を綴り折った。
折りあがった紙の蝶を手で握ると、風を祝福する。
「お願い、私の両親のもとまで届けて」
それから術式を展開して実家の前まで紙の蝶を転移させる。
風に乗った紙の蝶が両親の手元に届けば、あとはなんとかしてくれるだろう。
私の手から紙の蝶が放たれるのを確認したアレク様は真剣な眼差しで一行を見回した。
「私はあなた達に強要するつもりはない。だが体調の悪いこの子だけでも先に我々で保護したいのだが?」
彼女の容態は想像以上に悪く、一刻を争う。
ここでいつまでも無駄な時間を潰している余裕はなかった。
蝶の翅を持つ者は顔を見合わせると、迷うことなくうなずいた。
「もちろんです、我々の同胞を助けてください! そして厚かましいお願いですが、私達も助けていただけますか?この状況では我々が単独で洞窟を抜けることは無理です」
「お引き受けしましょう。……賢者候補の皆様はどうなさいますか?」
私は笑顔で頷いてから賢者候補達に視線を向ける。
彼らは思案している様子で、無言のままだ。
私達は信用するには足りないということだろうか?
タンガに視線を向けると、彼は頷く。
「レンカを保護してくれたという実績もある。ここは一つ、信じてみてはどうだろうか?」
同じ賢者候補の言葉だ、疑う余地はないのだろう。
そして慣れない徒歩による疲れが、抵抗する心を削っていた。
やがて賢者候補の一人が首を垂れる。
「ありがとうございます。正直言って我々もギリギリなのです。せめて一夜の宿だけでもお願いしたい」
「もちろんです、お引き受けしましょう」
アレク様が頷いた。
話がまとまったようなので彼らを安全な場所へと案内しなければ。
私は転移の術式を編み上げる。
人数が多いから、いつもの術式は使えないな。
行き先は事前に打ち合わせたとおり、領館の大広間を設定した。
身からあふれる眩いばかりの光の帯が暗い洞窟を白く照らす。
術式を練り上げるたびに光が弾け、それがまるで鳥の羽根のようにひらひらと空を舞い落ちた。
「ああ、神の使いのよう……」
伝説にある白き鳥だと、誰かの声が響く。
練り上げた力の心地よさにつられて微笑みが浮かんだ。
この場にいる誰もが、魅入られたように私を見つめている。
私は翼のように広げた白く輝く光で彼らを包みこんだ。




