29 プレゼント
「ごめんなさい、手伝ってもらっちゃって」
「いいよ、これくらいやらせてくれ」
ミュータはパーティーの片づけを手伝うことにした。ヒュイとトレヴィーはなんだかんだで意気投合して帰っていき、リオウとエピカはいつの間にかいなくなっていた。レキアスは仕事が忙しかったのか、結局顔を出さなかった。
最後はぐだぐだになってしまったが、みんなといろいろな話ができて良かった。
特にシアンが心の底から祝福してくれているのが伝わり、胸が温かくなった。
「ありがとうな。すげー楽しかったぜ」
「ふふ、良かったです。わたしもお祝いできて嬉しいです。あの……」
シアンは周囲を見渡す。誰もいないことを確認してから深呼吸し、ポケットから小さな包みを差し出した。
「あの、大したものじゃないんですけど、受け取ってくださいっ」
赤いリボンでラッピングされた小さな包み――誕生日プレゼントだろう。
手を伸ばしかけ、ミュータは首を横に振った。
「……受け取れねぇよ。持って帰れないし、お返しもできないから」
シアンは一瞬固まったが、めげずに微笑んだ。
「そんなこと言わないで下さい。町で偶然見かけて、ミュータさんの赤い髪を思い出して、衝動的に買ってしまったんです。お守り代わりにつけておいてください。きっときっとミュータさんのこと守ってくれますから。それに、お返しなんて気にしなくていいんです」
ミュータが無言のまま動けずにいると、シアンは包みを解いて中身を取り出した。
赤いブレスレットだった。炎のような揺らめきが宿った石が連なっている。
「邪魔なら、捨てていっていいですから。でもせめて、ここにいる間だけでも……」
右手を取り、シアンは無理矢理ブレスレットを通した。小さな手が震えているのを見て、たまらなくなる。
「シアン、俺……ごめん」
「どうして謝るんです? さぁ、早く片付けましょう!」
焼け焦げた網を取り、シアンはミュータに背を向けて外の水場で洗い物を始めた。もしかしたら泣いているのかもしれない。そう思ったら、もう声もかけられなかった。
ブレスレットがひんやりと手首を冷やす。簡単に引きちぎれそうな代物なのに、これを外す瞬間は死ぬほど痛いだろう。
シアンを恨む気にはなれず、さりとて誰を責めればいいのかも分からない。
ミュータの答えは初めから決まっていた。
元の時代に戻り、家族を守る。それ以外の選択肢はない。
自分でも馬鹿だと思う。この時代においてはもう過ぎ去った過去のことなのに、どうしてそこまで固執するのかと。
いっそ薄情に家族のことを忘れてこの時代で暮らせばいい。そうすれば戦争で死ぬ可能性はなくなるし、シアンは憂いなく笑ってくれるし、リオウとエピカのことも見守れるのに。
たった数週間の付き合いにも拘わらず、自分の誕生日を祝うためにたくさん集まってくれた。
この時代でだってきっと生きていける。
――でも俺はどうしても……。
シエルのそばにいたい。孤高の存在にしたくない。
彼女の誕生を心から祝ってあげられるのは、自分だけだった。
お互いにとって唯一無二の兄妹だった。
「夜分に失礼する」
突然の声に振り返ると、金髪の青年騎士が立っていた。
「レキアス、さん……」
パーティーに遅れてやってきたわけではなさそうだった。彼は感情の灯らない瞳をミュータに向け、淡々と用件を告げた。
「第五課題の達成を確認した。第六課題は、マリッタ殿下から真実を聞くこと。明朝、迎えに来る」




