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28.お弁当



 数日後の学校、お昼休みのこと。教室で一希ちゃんと机をあわせてお弁当タイムだ。


「夢実ちゃんのお弁当、あいかわらず豪華ねぇ。まさか自分で作ってるの?」

「半分だけね。前の日の下ごしらえはお手伝いさんがやってくれるの」

「そんなに豪華なお弁当、一人分だけつくってるの?」

「ついでだから、お爺さまの分もつくってるんだよ。あと、……いや、それだけ」

「へぇ。こないだ試合の時お爺さまがスタンドで食べていたお弁当、夢実ちゃんがつくったのね。あの強面で有名な白石のご隠居が、孫娘の作った弁当をニコニコしながら食べているなんて、ホント意外よねぇ。……で、あとは誰? 誰にお弁当作ってあげてるの?」

「お爺さまだけだって」

「ふーん……。なんにしろ毎日よく続くわねぇ。朝早くから大変じゃない?」

「その分、早く寝ちゃうから。ていうか、最近ランニングも練習も結構きつくて、夜まで起きていられないの。次の試験がヤバイのだわ」

「ふーん。それでも潤一君と毎朝のランニングは続けてるんだ。お弁当を渡さなきゃいけないもんね」

「お弁当はランニングの後に部屋まで持っていくんだけど、……って、あっ!」

「やっぱり! 夢実ちゃん、潤一君のお弁当も作ってるんだ」

「そ、その、琴似さんちはお母さんいないし、おねぇさん朝に弱いし、お父さんなんにもできないし。し、し、仕方ないんだよ」

「はいはい。……でも、こないだの試合の時、西高のマネージャの子、潤一君にべったりだったじゃない。心配じゃないの?」

「ああ、ひかる、……ちゃんは、たぶん大丈夫、じゃ、ないか、な? どうなんだろ。そんなこと考えたこともなかった、けど、わわわ私がししし心配することじゃ、ない、し……」

「むちゃくちゃ動揺してるじゃない。だめよ、はやめにツバつけとかないと」

「と、ところで、かかか一希ちゃんのお弁当は? じじじ自分で作ってるの?」

「露骨に話題をそらしたわね。……私のお弁当はお母さんと一緒に作ってるのよ」

「へぇ。天下の藻岩財閥総帥のご家庭でも、自分でお弁当作るのねぇ」

「うち、お婆さまがきびしいんだよね。本当は私が野球やるのも気に入らないみたいなんだけど、お父様とお兄様がなんとか庇ってくれてるの。そのかわり花嫁修業はきちんとやるという条件なんだ」

「へぇ。日本有数の箱入りお嬢様も大変なんだなぁ」

「夢実ちゃんだって、闇のキングメーカーの跡取り、……じゃなくて政財界に多大な影響力を誇る白石家の箱入りお嬢様でしょ」


 言葉を選んでくれてありがとう、一希ちゃん。





 同じ頃。西高野球部の部室。


「お、潤一、おまえ、いつのまにか自分で弁当作れるくらい記憶がもどったのか?」

「えーと。うん。そうなんです」

「記憶を失う前よりも豪華な弁当じゃないか。おまえ事故にあってかえって進化したんじゃないのか?」

「そ、そうかな。そんなことないよ。あ、先輩、つまみ食いはダメだって!」

「細かいこというなよ。うん、確かにメニューや味付けは事故以前と似ているが、庶民とは思えぬ豪華な食材に、豪華な重箱、……本当に自分でつくってるのか?」

「ももももちろん!」

「おまえ、対抗戦の時、美香保学園に妙に仲の良いピッチャーの女子選手がいたな。いっしょに事故にあって入院した、同じマンションの子だって?」

「お人形みたいな可愛い女の子といっしょにランニングしてる姿を目撃したという証言もある」

「みみみなさん、じょじょじょじょ情報が、早いですね」

「やっぱりか。……あーあ、しらないぞ。マネージャーがなんていうか」

「……ひかるちゃん、なんて言うかな?」

「一途な子だからなぁ。潤一が他の女の子と付き合うならマネージャーなんてやめる、とか言いだしかねんぞ」

「それは、……やばい。うちの監督のマネージャーに対する信頼は絶大だ。今や西高野球部は練習メニューから試合中の作戦まで、すべてがマネージャー任せだ。もしマネージャに辞められたら、せっかく手が届きそうなところにきた甲子園も夢と消えてしまう」

「潤一、おまえ、その美香保学園の女の子のことは、絶対にマネージャーには内緒だぞ。……ていうか、さっさと別れろ、西高のために」

「ええええええ? そんなぁ、夢実は僕にとって……『しっ! 誰か来た』『潤一だまれ!』『急いでその弁当を隠すんだ!』」


 部室のドアを開けて入ってきたのは、マネージャー十軒ひかるだ。野球部員達がみなバツの悪い表情で視線をそらしている気づき、不思議そうな顔をしている。


「みんな、潤一君も、どうしたんですか?」

「ど、どうもしないよ。しないとも」

「……はぁ?」





 ふたたび美香保学園。


「でも、私、ちょっと心配なんだよね」

「なにが? 夢実ちゃん」

「こないだの練習試合。完敗とはいえそれなりに試合になってたから、みんな安心してるみたいで。あれで本番もなんとかなると思っちゃったかな?」

「うーーん。でも、県下でも強豪あつかいの西高とそれなりの試合できたんだから、なんとかなるんじゃない? 夢実ちゃんの魔球も通用したし」

「一希ちゃんまで……。あれは全然なんともなってないよ。西高は全然本気じゃなかった。復帰した潤一を中心とした守備の立て直しに重点を置いて、その練習のため試合に臨んできたのよ」


 もっとも、あまりにも美香保学園の打線が弱すぎて、あまり守備の練習にならなかったかもしれないが。


「そのうえで西高はきっちりと勝ちきった。それに対して、うちはなんとなく試合してなんとなく負けただけ」

「で、でも、例えば打線の弱さとか、夢実ちゃんのスタミナとか、うちのチームの弱点をあぶり出すことができたじゃない」

「それはそもそも短期間では解消が不可能な問題で、弱点がわかったところでどうしようもないもの。……このまま春の地方大会に臨んだら、痛い目に会いそうな気がするわ」

「もう、夢実ちゃんは心配性ねぇ」

「それに、なによりまずいのは、部員不足だとおもう。本番の試合でだれかひとりケガでもしたら、その時点で棄権なのよ」

「それは、……やばいわよねぇ」


 数週間後、夢実の危惧は的中することになるのだが、もちろんこのときの二人がそれを知るよしもない。




 

 

2016.01.16 初出

 


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