第100話 無職の旗は翻る
アストラの外れ、小高い丘の上に新しい旗が立てられた。
派手な紋章も、王族の色もない。
ただ、深い紺地に簡素な銀の線だけが入った旗。
「地味ですね」
玲奈が言う。
「らしくていいだろ」
俺が返す。
無職の旗。
最初は皮肉だった。
王国に捨てられた無職を笑うための言葉みたいなものだった。
でも今は違う。
職業がなくても。
王国に認められなくても。
それでも立って、生きて、手を取り合っていけるんだと示す旗になった。
丘の下では、子供たちが走り回り、商人が品を運び、工房では新しい道具が作られている。
美咲さんは診療所の準備をし、玲奈は訓練場で弓を教え、大雅は護衛たちに剣を振るい、ルナはその全部を自由に見回っている。
「コーイチ」
ルナが旗を見上げる。
「翻ってる」
「ああ」
風が吹く。
旗がはためく。
王国に追放されたあの日、俺はただの“外れ”だった。
でも今は違う。
王にならなくてもいい。
英雄にならなくてもいい。
無職のままでいい。
そのまま、自分の旗を立てられたなら、それで十分だ。
「……悪くないな」
俺が呟くと、美咲さんが隣で微笑んだ。
「ええ。とても」
空は高く、風は穏やかだった。
壊れたものが全部戻ったわけじゃない。
これからも問題は起きる。
世界管理機構も、王国も、諸国も、まだ不安定だ。
それでも。
無職の旗は翻る。
誰かに与えられた役割じゃなく、俺たちが自分で選んだ場所で。
その旗の下で、物語はようやく一つの終わりへ辿り着いた。
これにて、本作は完結となります。
今回は実験的な試みとして、短いエピソードを積み重ねる形で投稿してまいりましたが、無事に全100話を書き終えることができました。
個人的にも非常に愛着のある作品となったため、いつか第2部として続きを描く日も来るかもしれませんが、現時点では未定です。
最後までお付き合いいただいた読者の皆様、本当にありがとうございました!




