第47話 寂しさと答え
「シェリアは、さ」
「ん?どうしたの?」
「死んだ人間を、魔法を使って弔ってるよね。それって、普通に埋葬するんじゃダメなの?」
「埋葬、埋葬……ね」
シェリアはアリスの疑問を、顎に指を当てながらゆっくりと噛み締めるようにして考え始めた。
あの後、一緒に祈りをささげた商人たちが目的地であるハナブサ町にシェリアたちを連れていくという話になった。アリスたちは断ろうとしていたが、商人たちから「死者に祈りをささげてくれたお礼」と言われたことでシェリアが提案を受け取って今に至る。
現在3人は、道から少し外れた場所にある商人たちが普段使用している一時的な宿泊施設にて休んでいるところだった。
「埋葬は、好きじゃないんだよね。埋葬されてしばらくは忘れられないけど、時間とともにその記憶は消えて最終的にはただ腐った死体だけが土の中に残される。それなら、死んだその瞬間だけでも、最大限の祈りを捧げられるようにしたいの。それに、自然の魔力に還したら私たち魔女がずっと憶えていられるでしょ?あとね、埋葬が死者への弔いになるのは誰かに看取られた場合だけだよ。アリスは、わかるでしょ?」
「……うん、そうだね。私も、シェリアの考えに賛成かも」
「あ、そっか。だからシェリアちゃんはあの時、商人たちに対応を託していたんですね」
「あの時はそれもあったけど、それ以上に弔われるべき人間たちがいる気がしたからだよ。本心はあの人たちも同じようにしてあげたかったさ」
そう言って苦笑いを浮かべるシェリアは、何かを押し殺しているように見えた。
「さぁ、明日も早いしもう寝ようか。私は、少しやることやってから寝るよ」
「……私も、一緒に行っていいですか?」
「いや、フィルも疲れてるだろうし休んだほうがいいよ。それとも、フィルも何か用事?」
「はい。少し気になることがあるので」
「そう。良いよ、一緒に行こうか」
「私は寝る~。2人とも、気を付けてね」
アリスに見送られながら、2人は部屋を出て宿泊施設の外に向かった。
風が木々を揺らす音。その音に紛れるように、2人の少女は近くの2人掛けの椅子に腰かけた。
椅子に座ってすぐ、シェリアは魔法陣から1冊の本と羽筆を取り出して何かを書き記し始めた。その雰囲気はどこか寂しげで、それでいてさっきと同じように、何かを押し殺しているような——フィルには、そんなシェリアが何を隠しているのかが気になった。
「シェリアちゃん、今何を書いてるんですか?」
「ん?あぁこれね。これに書いているのは、今日あったこと。それと、今日殺した『転移者』の能力と被害の記録。特に今日は、目の前で殺されたからね」
「それ、毎日書いているんですか?」
「うん。と言っても、書けない日もあるからその時は後から思い返しながら書いてるよ。そうしないと、将来アリスが行き詰った時に助けられないからね」
「シェリアちゃんは、本当にアリスちゃんのことが大切なんですね」
「もちろん。私にとって大切な弟子だもん。それに、大切に思ってるのはフィルもだよ。フィルも、私の大切な弟子だからね」
「えへへ。なんだか、シェリアちゃんにそう言ってもらえると不思議な自信が湧いてきます」
「それで、フィルの用事って何?」
「それは……」
フィルは少し話しにくそうに言葉をこぼしながら、話すことを頭の中でまとめていた。そんなフィルの様子を、シェリアは横目で見守りながら筆を走らせ続けていた。
風の音と文字を紡いでいる音だけが響く木々の隙間。人の声が聞こえたのは、シェリアがちょうど筆を止めた時であった。
「シェリアちゃんは、消えるの?」
「うん、そうだね」
はっきりと答えるシェリアに、フィルは呆気にとられたような表情で「え?」とこぼしていた。
「『え?』って。フィルが聞いたんじゃん」
「そ、そうですけど……本当に、消えちゃうんですか?」
「うん。アリスと魔王以外の、この世界の存在全ての記憶からね。それで、アリスが新しい原初の魔女としてではなく元から原初の魔女だったという認識に書き換えられる。その結果、私の存在が世界から完全に消失する。はずだったんだけどね。フレイザが余計なことしたから、名前だけが残ることになっちゃった」
「それが、継承するってことなんですね……もしそうなった場合、私の中のアリスの記憶はどうなるんですか?」
「それはそのまま残るよ。ただ、そのアリスが途中から魔女の弟子ではなく魔女そのものになったって認識に変わるだけ」
シェリアは星空を眺めながら、ただ淡々とフィルの質問に答えていた。そこには寂しさも、悲しさも、悩んでいる様子もなかった。
フィルの欲しかった答えは、そこには無かった。
「もう1つ、聞いてもいいですか?」
「良いよ。何?」
「今日、ずっとシェリアちゃんが悲しそうな顔してる気がして……何かあったんですか?」
「……やっぱ、わかっちゃった?」
シェリアの返答は、少しだけ恥ずかしそうだった。




