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第14話 自然と覚悟

「……あれ?私いつの間に……」


 シェリアは目覚めた時、自分が今どこにいるのかわからなかった。まだ意識が朦朧としていたが、シェリアは枯葉のように模られた魔法の布団に腰掛け、ゆっくりと周りを見回していた。見える空は星空で、寝ていた場所は屋外。それだけしかその場所には情報はなかった。


「…………そっか、私……あのまま眠っちゃってたんだ。それで……」


 シェリアの意識が少しずつ鮮明になるにつれ、眠る前の記憶が蘇ってきていた。そうしてもう一度周りを見回すが、やっぱりシェリアの他には誰もいなかった。


「ありがとう、セドリック。ここまでしてくれて」


 それでもシェリアは、どこにいるかわからない恩人に向けて最大限の感謝を伝えた。

 そしてシェリアは立ち上がった。もう、現実から目を逸らそうとしていた弱い魔女の姿はどこにもなかった。森の始まりと言える木がある場所から離れる少女の表情は——過去、人間の危機を幾度となく守り抜いた強くて優しい『原初の魔女』そのものであった。

 暗い木々の間を抜け、二人で過ごしている家が見えた時、シェリアの顔を優しい太陽の光が照らした。きっと、もう少ししたらアリスが起きてくるだろう。シェリアは、どんな顔であいさつするべきか一瞬迷ったが、決心したかのようにすぐに強くうなづいた。

 ガチャリ。

 扉が開き、目が合う。

 シェリアは今できる全力の笑顔で、ただ一言——


「——ただいま、アリス」





・・・





 シェリアがセドリックとの密会から帰ってきてすぐ、二人は最後の魔法の修業を始めた。

『星属性』——この世界で、唯一『原初の魔女』だけが使用できる魔法。その修業を始めると伝えた瞬間のアリスの表情は、「いよいよこの時が来たか」と言いたげであった。


「……思ったより待ち遠しかった感じ?」

「ううん。でも、魔法の修業がついに終わりそうって思うと、なんかわくわくしてきたんだ」

「その意気や良し。それじゃあまずは星属性魔法の根本、星属性の作り方について修行の最初の方に簡単に教えたんだけど、覚えてる?」

「えっと……確か全部の属性の魔力を1人の体の中で混ぜ合わせないといけないってことは覚えてる」

「うんうん。あと1つ属性があったんだけど、なんだと思う?」


 アリスは必死に思い出そうとしゃがみこんで考え始めた。考えること数分、飛び上がるように立ち上がり、手をぴんっと伸ばして「思い出した!」と言った。


「はい、どうぞ」

「星属性!」

「……アリス、それだと卵が先か鶏が先かみたいになってるよ」

「あっ……完全に来たと思ったのに」

「正解は無属性。全属性の魔力と一緒に無属性の魔力を組み込んで1人の中で混ぜることで、星属性に変化する。と、ここまで説明したね。ただ、これは本当に根本的なものでしかない。今まで散々複数属性混合魔法やら始祖魔法やら使ってきたから、本当に大事なのはここからっていうのはわかる?」

「もちろん。特に始祖魔法の5個目なんて、本当に習得できるんだろう?って不安になりながらやってたよ」

「あれも『原初の魔』専用の魔法だからね。さて……今から説明はするけど、その後は私が言うイメージを星属性の魔力を使って形にするだけ。つまり、安定して魔力を作ることさえできればそこからは簡単だよ」

「な、なるほど?全く説得力が無いけど、頑張る!」

「よし、それじゃあちょっとこっちに来て。今からしっかりとした説明をするから」


 地面の土が見えている場所に移動し、シェリアが魔力で木の枝を作って図を使って説明する準備をした。今までの魔法の説明と違い、学校の講義のような説明の仕方に、アリスは少し身構えた。


「さて……少し学校の講義みたいになっちゃうけど、これが一番説明しやすいし、わかりやすく説明できるからちょっと我慢してね」

「だ、大丈夫。これでも私、成長したんだから」

「そんなに身構えなくて大丈夫って意味。それはそれとして説明するね。まずは——」


 シェリアは地面に6角形を書き、その角を全て円形にした後に真ん中に大きな円を描いた。周りの円の中には6属性を1つずつ、中央の円の中に無属性と書き入れた。


「魔力を混ぜるイメージとしては、一番量が多い魔力は無属性。そこに同時に寸分の差もない6属性の魔力を混ぜることで星属性に変化する。魔力そのものの形で想起してほしいのは、何もない場所に6つの星が浮かんでいる感じ」

「ふむふむ……その無属性の魔力って、自分の中に最初からある魔力って認識でいいの?」

「半分正解。星属性は、自分の中の無属性魔力と6属性の魔力を正確に切り離せるなら自分の中にある魔力で完結してもいい。でも、そうはいかない。人間だけじゃなく、魔王やもちろん私だってそう。アリスもだよ。何度も試したけど、自分の中で正確に均一な魔力量を6つ保ちながら、それよりも明確に大きい魔力を切り離すことは不可能なんだ。だから、すべてを均一に切り分けた上で自然の中から無属性の魔力を取り込んで調整するしかないんだ」

「自然の魔力を、取り込む……」


 アリスは、初めて星属性魔法を見た時のことを思い返していた。その時は、シェリアから出た魔力が周囲の魔力と一緒に大きく膨張した後にシェリアの中に魔力全てが収縮していた。そして魔力は金色に、シェリアの髪の毛は白、目の色が藍色に変化していた。


「今、私が初めて見せた時のことを思い返してた?」

「……うん。多分、一気に魔力が膨張した時が周囲の魔力を取り込んだ時なのかなって」

「そう。それで、その魔法の名前は『神の成れ果て(ルイン・オブ・ルーン)』。星属性の魔力を一番純粋な形で使うことができる魔法だよ。だから、入口の魔法だね」

「あれが、入口なんだ……」

「まぁ確かに、見た目は派手な物ばかりだね。でも、さっきも言ったけど、基礎の魔力生成さえ安定してできればそこからは簡単に習得していけるよ。それこそ、種類としては単属性魔法と同じだからさ。だから星属性魔法が400種類くらいあるんだけど」


 シェリアはそこまで言い終えると、一度手を叩いてから立ち上がった。


「さ、座学の時間はおしまい。ここからはひたすら魔力を作る修行だよ」

「はい!よ~し、やるぞ!」

「じゃあまずは復習。6属性の魔力だけ全く同じ魔力量で作って」

「はい!」


 アリスとシェリアの修業は、魔法の何度が上がるにつれて魔法習得速度が上がっていた。今となっては、シェリアが魔力の作り方や形にする時の感覚を説明し、それから細かいところをシェリアの指示で修正するだけで終わっていた。

 だから今回もそんな感じにうまく行ける。アリスの心には、そんな気持ちもあった。


「……よし、それじゃあその6つの魔力を保持したまま無属性状態の魔力を同量取り出してみて」

「それだけなら——はい、できたよ」

「うん。良い感じ。あとは外から魔力を少しずつ集めながら一番しっくりくる量を探していってね。無属性の魔力がその量になった瞬間に、勝手に魔力が混ざり合って星属性になるし、少しでも無属性の魔力が大きくなったらすべての魔力が拡散するだけだからね」

「……はい、わかった」


 アリスは目を閉じて自分の魔力と自然の魔力に集中し始めた。

 自然の魔力がアリスに集まっていき、しばらくしてから魔力が一気に拡散して特有の風が吹き荒れた。少し戸惑った様子でシェリアの方を見たが、シェリアは読んでいた古書を閉じることなくゆっくりと頷いた。

 その日は、そのまま進むことはなかった。日が落ちるころには、アリスも6属性に魔力を分けることすらまともにできなくなっていた。


「今日はここまでかな」

「はぁ……はぁ……そう、だね。くっそ……」

「悔しがることはないさ。今日ここまで進めただけで、私にとってはできすぎなくらいだよ」

「なんで……?一回も成功できてないのに?」

「気づいていないなら教えてあげよう。さ、続きは私の背中に乗ってから聞きなさい。歩くだけでもしんどいでしょ?」

「うっ……ありがとう、シェリア」


 アリスが背中に乗ったことを確認し、シェリアはゆっくりと家に向かって歩き始めた。その道中で、今日の修業の総括や次の修業に向けた助言をした。


「まず、自然の魔力は不自然な状態で存在しているから、塊だけで調整するのは諦めないといけない。だから、自然の魔力を取り込む前にある程度で切り取り続ける必要がある。魔力量が分かれば、塊を探せばいいだけ」

「はいぃ……」

「それで、今日の失敗回数は覚えてる?」

「わかんない」

「56回。それも、一定の魔力量を維持したままできていた。さてアリス。私が前に行ったことを覚えてるかい?」

「……どの話?」

「最終的に星属性魔法を1日中撃ち続けても問題ない魔力量を探す。って言った話。私はなんとなく50発撃つことができたらいいなって思っていたんだけど、それも越えてるし1日撃ち続けられるっていうのも達成できていたんだよ」

「でも……一回もちゃんと作れてない」

「作れなくても使う魔力量はと消費魔力の量は変わらないから大丈夫。このまま続けていけばすぐに星属性を習得できるよ」

「そっか……ありがとう、シェリア」


 そうして、星属性の修業1日目は幕を閉じた。それと同時に、アリスが星属性魔法を全て習得するに至ることができることは、シェリアには明白に思えた。

 その日の夜、眠りについたアリスの横に腰掛けて、シェリアは自分に話しかけた。


——覚悟はもう、決まったよね。







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