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この俺に本気で勝てると思っているのか?〜偽りの一族に埋もれた、神を殺す力を持つ少年〜  作者: 雪野湯


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第38話 神に抗う世界

 溶岩津波が届く寸前に、次なる世界へ移動した一行。

 ぼやけていた焦点が合うと、クリーム色に統一された大部屋。

 足元には、四角と三角を何重にも重ね合わせた、幾何学模様の床が広がる。



 ノヴァは少し先にある(ひら)けた出入り口へ顔を向けて、遠くに(とも)されている町の光を見つめながら言葉を発し、オリカとレックスがそれに続く。


「施設? 外は暗い。夜? 光は街灯? あとは……爆発音? 花火? 爆弾?」

「もしかしたら戦争の最中なのかもしれないわね。だとすると、この世界の住民は滅んでいない?」

「人がいるってことか? どんな奴らかわかんねぇが、戦いの真っ最中だと、無断で侵入した俺たちに妙な嫌疑かかるかもな。誰か来る前にどこかに身をかく……ん?」



 唯一の出入り口に二つの影が現れた。

 影はレックスたちを目にすると、穏やかな口調で語りかけてきた。


「おお、転変の陣が起動したので確認しに来てみれば、まさかの外人(そとびと)とは」

「ええ、そうね。それも、あのケイダルからお越しのようよ、あなた」


 二人は恋仲か夫婦なのか、寄り添い歩き、レックスたちへ丸い金色の瞳を向ける。瞳に収まる黒の瞳孔は縦に細く切れており、まるでトカゲの瞳のようだった。


 レックスたちはその二人へ視線を合わせるために顎を上げた。

 何故ならば、二人はとても背が高かったからだ。いや、首が長いというべきか。


 最初に声を出した男性の体の高さは人と同程度だが、首の長さは三倍ほどあり、隣に立つ女性もまた、人間の女性と同程度の体躯でありながらやはり首が長い。

 首の先に乗る頭部は爬虫類のような顔立ちで、二人とも土色の滑らかな皮膚に全身を覆われ、その上に真っ赤なローブを纏っていた。



 レックスが一歩前に出て、彼らへ敵意がないことを示すと女性が答えてくる。

「突然の訪問、申し訳ない。俺たちはちょっとした事故でここに訪れただけで敵意はないんだ」

「事故ですか? それはお困りでしょう」

「まあ、困ってるが、帰る宛はあるんで……ところで、ここは俺たちと異なる世界になるんだよな?」


「ええ、もちろん。ここはユーリン」

「やっぱりそうか。しかし、違う世界なのに言葉が通じってるのは不思議だな」

「惑星全体に、どのような言語でも翻訳可能な装置が存在しますので。もっとも、私たちの装置がなくとも、そちらのデヴィヤネ・ソルダドゥヴァ様の腕輪にも同じ機能があるので問題ないでしょうが」



 オリカがアルムスの腕……今はデブリと名乗る彼の右腕にはまっている腕輪を見た。

「この腕輪にそんな効果が? あの、失礼。あなた方は私たちのことをケイダル人と知り、さらにデブリについても詳しいようですが、何故でしょうか?」

「今から七百万年前、あなた方のご先祖が私たちに、神へ対抗する手段を伝えてくれたからです」

「え?」


「当時の私たちはとても原始的で、何も知らない赤子でした。赤子である私たちは神を敬愛していた。神もまた私たちを愛していた。これは不変であると信じていた。ですが、あなた方ケイダルの民によって、それが枷になる日が来るかもしれないと警告されていたのです」

「それはどのような警告で?」

「愛ゆえに……愛が深いゆえに私たちを縛り付けると……」


 そう言って、女性が出入り口に顔を向けた。

 その仕草でノヴァは悟り、ポツリと呟く。

「この爆発音は戦いの調べ。敵は……神なのね?」

 これに答えを返したのは男性。


「その通りだ。こちらへ来なさい」


 男性と女性は長い首につながる頭部を揺らり揺らりと動かして、出入り口へと向かう。


 

――――外


「こいつぁ……」

「綺麗……だけど……」

「ええ、空は大変なことになっているわね」


 彼らが立つ場所はとても高い場所であり、ユーリンの街並みを遠くまで見通すことができた。

 背の高い丸みを帯びたコロニーが幾重も建ち並び、繁栄を彩る街の明かりが三人の瞳を光に染める。

 だが、それ以上に心惹かれたのが、空の光景。



 空の半分を覆う巨大な月。

 月無き場所には闇夜が広がり、その最果てには闇よりも暗い渦があった。

 渦の中心には、巨大な目玉が浮かぶ。

 そして、その渦と目玉を囲むように、空を浮かぶ丸い石製の何かが何百と飛び交っている。

 それらは渦と目玉に対して、煌びやかな光の線をぶつけていた。



 男性が空を見上げて、渦と目玉と空飛ぶ丸い存在について語る。

「目玉を中心に闇の渦を纏うは、我らが神・ゲッコー。そして、神に強力なエネルギーを射出し続けるは、我らが神殺しの兵器にして軍艦だ」



「軍艦!? あれが船だっていうのか!?」

 驚愕の声を出したのはレックス。

 彼は顎を天に突き付けて、瞳を上瞼へ食い込ませる。

「空飛ぶ船だと!? それも星の流れのように速い!! 俺たちの世界だとまだまだ研究レベル! 錬金術の最先端を行く帝国が率先して飛空艇を研究してるが、満足に浮かばせることもできないってのに!!」


 彼の声を聞いて、女性が疑問符を纏う。

「それはどういうことでしょうか? 私たちの技術は、七百万年前のあなた方の技術と比較しても、まだまだ劣るはずですが?」

「昔の技術がどれほどのものだったか知らねぇが、全部なくなっちまった」



 ここで、沈黙を保ち続けていたデブリが口を開いた。

「神殺しの(のち)に訪れた災いのせいだ」

「なるほど、そういうことですか」


 災いと言う単語を聞いたノヴァの脳裏に、今まで訪れた滅びの世界の姿が(よぎ)った。

「私たちは神を殺した世界を巡ってるけど、どこも加護を失い滅んでいた。あなたたちは大丈夫なの?」

「ええ、七百万年前、あなた方のご先祖が残していった知識によって、神・ゲッコーが司る力は解析済みですので」

「それは?」


 問いに、男性が空の半分を覆う月をとても長い指先で示す。

「重力だ」

「重力?」

「月を見ろ。とても巨大で星の目の前を巡っている。通常、あれほど近い位置に月があれば引力によってぶつかってしまう。だが、ゲッコーの力でそれを回避している」


「それじゃあ、ゲッコーを倒せば、月が落ちてくる?」

「そうならないように、重力制御装置を開発済みだ。我々は神が司る力を手に入れた。だから、討っても問題ない」



 オリカは眉間にしわを寄せ、最も基本となる疑問をぶつけた。

「そもそも、あなたたちはどうして神を殺そうとしているの?」


 男性は月から視線を外し、星々が(またた)く空を見つめて強く答え、さらに女性が続く。

「我々を束縛するからだ!」

「我々はとても高度な文明を築きました。もはや、世界に知らぬ場所などなく、次に目指すは宇宙。そして、他の星々」


「だが、神ゲッコーはまだ早いと言って我々を惑星へ押し留めようとした! アレは、我々のさらなる進化を邪魔しようとしたのだ!!」

「己を知り、観察し、他者を知り、観察できる存在はさらなる知識を求めます。それは知性を宿した生命体にとっての本能――――そう、知を求めるは宿命!」


「そうだというのに、アレは危険だと言い、我々が星から旅立つことを許さない。アレは我々を手元において、ぬるま湯のような世界に浸る我々を見守ることで悦に浸っている!」

「それは我が子らを思う、愛からくるものなのでしょう。ですが、過保護が過ぎる。我々はたとえ危険があろうと、さらなる知を求めて旅立ちたいのです。宇宙(そら)には星の(またた)きの数ほどの未知があり、それが我々の好奇心と冒険心を惹きつけてやまないのです!」



 男性も女性も、言葉に熱を帯びて語る。

 レックスとオリカは彼らの想いに共感するものがあった。

 何故ならば、彼らもまた家柄という保護下から飛び出して、自らの足で歩むと覚悟を決めた者たちだから。

 沈黙を纏う二人の代わりに、ノヴァが声を生む。


「愛ゆえに……神は、悪い存在というわけじゃないんだ」

「いや、過ぎたる愛は悪だ。そして、枷だ」

「我々は押しつけの愛を拒絶します」


 もはや、ユーリン人たちにとって、神との決別とその覚悟は通り過ぎたものであり、決して覆らぬ想いのようだ。


 言葉は閉じられ、空に轟く爆発音のみが降り注ぐ。

 沈黙と爆発音が混じり合う中、デブリが口を開き、男性と女性に短く尋ねた。

「勝てるのか?」

「戦いの時は二百年の時を刻んだが、勝てる」

「あと、どれほどの時間がかかるかわかりませんが……」

「そうか、勝利を祈っている」


「ふふ、複数の星系を管理する上位創生神を相手にしていた、誇り高き戦士の言葉の祈りは心強いな」

「あなた方にも再び、あの素晴らしき栄光の時が取り戻せますように……そう、祈っています」


 デブリは小さく頷き、レックス・オリカ・ノヴァに次なる世界へ旅立つ準備ができたと伝える。

「チャージ終了だ。次で最後となる。行こう」

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