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銀色のテープ  作者: 皆中明
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クリスマスの病室

  僕は迷信が嫌い。


 それが本当に存在するのなら、なんで僕は孤児なんだろう。小さい頃から、何度も叶わずに落胆した。


「家族とクリスマスを過ごせますように」


 たったそれだけの願いすら叶わないような迷信なんて、絶対に信じることなんか出来ない。


 でも、あいつはそういうのが大好きだ。


 毎年、町の年寄りに紛れて、町中に銀色のテープを結びまくっている。

 12月に入ってからそのテープを結んでいると、クリスマスの夜に大切な人に会うことができるという迷信を信じているからだ。


 そのテープを辿って会いにきてくれるんだという。僕は、あいつのことが好きなのに、そういうところがなんか嫌で、あまり深く踏み込めずにいた。


「お前、それで誰に会いたいわけ? 毎年結んでるってことは、まだ会えてないんだろう?」


 僕が少しイライラしながらそう問いかけると、あいつは頬を赤ながら、恥ずかしそうに答えた。


「俺の大好きな人だよ。まだ会えないんだ。会えるまで、こうやってずっと願い続けるつもりだけどね」


 あいつに好きな人がいることは知っている。毎年、街の至る所にテープが結ばれてるんだ。何度も目にした。


『一緒のお墓で眠るまで、ずっと一緒にいられますように』


 それが誰なのかは、今でもわからない。

 

 あいつにも両親がいない。それどころか、生まれた時からずっと一人だ。だから親戚とかおじいちゃんおばあちゃんかなと思ったこともあった。


 でも、最近になって、どうやら会いたい人は好きな人らしいという噂を聞いた。それでも、僕はあいつが諦めきれていなかった。


 だからテープを結んでいる奴らが憎らしい。それを続けて、あいつに会いに来る人が現れたら、僕はその時どうしたらいいんだ。


 やめてくれ。早くその習慣を無くしてくれ。毎年そう願うことしか出来なかった。


 そして今年の12月に入って、僕は仕事で事故に遭い、大怪我をして入院した。少なくとも年内は入院生活になった。


 あいつは毎日お見舞いに来てくれていたけど、ずっとそわそわしていて落ち着かなさそうだった。だから、いつも早く帰らせた。


「テープ結びに行きたいんだろ? 帰っていいよ」


 決まって少し悲しそうな顔をしていたけど、結局は急いで帰っていくんだ。僕は、毎日、星空を見ながら泣いていた。


 そして、クリスマスの夜。病院のベッドで眠っていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


「はい、どうぞ」


 あいつが来たんだと思って、いそいそと起き上がった。小さな箱に入れたプレゼントを用意しておいたんだ。


 ダメかもしれないけれど、もう区切りをつけるために告白しようと思っている。


 ドキドキしながらドアが開くのを待っていると、知らない綺麗な男の人が入ってきた。


「こんばんは」


 その男の人は、真っ白な服を着ていた。肌も髪も白くて、瞳が赤い。すごく綺麗にキラキラと光っていて、まるで宝石のような瞳をしていた。


 真っ白でキラキラと光る長い髪を結んでいて、まるでどこかの王子様のようだった。


「君のためにテープが用意されているから、それを辿って君を待っている人のところへ会いに行くよ」


 どこの誰かもわからない人に、突然外出しようと言われて驚いた。だって、僕の足はまだ治っていない。


 それに、あなたが誰なのかもわからないのに、夜についていく訳ないじゃないかと呆気に取られていた。


「悪いけれど、俺はそう言うのが大っ嫌いなんだ。それに足もまだ治っていない。他を当たってくれないか」


 告白のために緊張していたのに、それを壊されてしまったことと、大嫌いな迷信の話をされたことで、僕はむすっとして答えることしか出来なかった。


 そんな失礼な態度をとっているにも関わらず、その綺麗な男の人は、まだにこりと笑いかけてくれた。


「そう? 迷信が嫌いなんだね。でも、ずっと寝てるだけじゃ退屈だろ? 足なら心配いらない。一緒に行こうぜ」


 そう言って、パチンと指を鳴らした。すると、僕の足の周りに、ふわりと赤い光が浮かび上がった。


 そして、それがクルクルと回ったかと思うと、シュンっと音を立て、あっと言うまに消えていった。


「さ、もう立てるよ。行こう」


 僕はその男にぐいっと手を引かれると、半ば強引にベッドから引き摺り出された。その時、思いっきり足をついたけれど、傷ひとつなくて、もちろん痛みなんて少しも感じることが無かった。


「はあ? なんだよ、ソレ。嘘だろ……」


 僕は仕方なく彼について、一緒にそのテープを辿って行くことにした。

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