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銀色のテープ  作者: 皆中明
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白銀の導き

迷信が嫌いな「僕」は、足を怪我して入院中。

そこへ、白く光る男性がやってきて、「僕」を冒険へと連れ出しました。

辿り着いた先にいたのは、一人の小さな男の子で……。

 真っ暗な闇の中に、青白く輝く銀色のテープ。塗りつぶしたように先の見えない暗闇の中を歩く恐怖は、その輝きが紛らわせてくれた。


 テープを握る度に、まるで蛍の求愛の光の様に、ふわっと淡い光が浮かぶ。白い彼の足元も同じ様に明滅していた。


 僕は黙って、彼について歩いた。


 テープを握ってゆっくりと歩いている間、真っ平な場所を歩き続けているように思っていたのに、気がつくと草原のようなところにいたり、また次に気がつくと高いビルの一室にいたりした。


 そして、視線の先の方に、だんだんと小さく光る球体が見えてきた。


 真っ暗闇の中に、ポツリと浮かぶ淡いクリーム色の光の塊。その光の真ん中に、木製の窓枠とトランプの模様が並んだガラスの窓が見えた。


 そして、その中に小さな子供が一人。ふわふわの巻き毛を揺らしながら、うんうん唸っていた。


「ねえ、あの部屋の中に子供がいるんだけど」


 僕と白い彼は、その光っている部屋に近づいて行った。

 

 そして、ところどころペンキがはげたり傷んだりしている木製の窓から、そっとガラス窓の中を覗きこんでみた。


 その子は、一生懸命にペンを握りしめ、何かを書いていた。おそらく、字が書けるようになったばかりくらいの年齢なんだろう。


 ペンを握った手には、力が入りすぎてうまく書けないところもあるようだ。

 

 それでも必死になって書き続けていたようで、書き上げられた文字の分だけ、小指側が真っ黒に汚れていた。


 その汚れは彼の思いの強さの象徴のようで、見ていると自然と笑みが溢れた。


「一生懸命頑張ってる。かわいいな」


 そう思って、もっと近づいて見てみようと、首を伸ばしてみた。すると、その子の左の上瞼にほくろがあるのが見えた。


 伏目がちに下がった瞼に、ポツリとあるほくろ。そのすぐ下には、長いまつ毛と大きくてクリクリとした可愛らしい目があった。


「あいつと同じところにほくろがあるな……」


 僕は、こんな時にもあいつのことを思い出してしまう。似たような子なんて、いくらでもいるはずだ。


 それなのに、僕の心はいつだってあいつでいっぱいになっている。


 あのくらいの年の頃には、ほとんど毎日一緒にいたなと思い出しては、ちょっと悲しくなったりもしていた。


 そんなことを考えながらふと下を見ると、巻き毛の子の周りには、たくさんの書き終えられたテープが書きうず高く積み重なっていた。


 よく見ると、机の周りだけでなく、ベッドの上にも、椅子の下にもたくさん銀色のテープがあった。


 そのテープがクリーム色の灯りを反射していたから、この部屋は光の塊に見えている様だ。


 それほどたくさん書き終わっているにも関わらず、まだ足りないと思っているようで、彼は一心不乱に書き続けていた。


「神様、お願いします。大人になっても、俺たちが幸せに暮らせていますように」


 グスグスと泣きながら、テープに願い事を書いていた。ペンを握っている手は、わずかに血が滲み始めていた。


「まだ連れて行かないでください。おじいちゃんになって、一緒のお墓に入るまで生きてて欲しいんです」


 ひっくひっくと泣きながら、何本もテープを書いていた。


「一人になりたくない。まだ一緒にいたい」


 そして、えーんと大声をあげて泣き始めた。泣き始めた子供が、机に突っ伏してしまうと、白い彼が、そのたくさんのテープの内の一本を持って来てくれた。


 そして、それを僕の目の前に広げて見せた。その輝くテープに書き連ねられた文字を見て、僕は胸が潰れそうになるのを感じた。


「かみさま、おねがいします。だいすきな『僕』と、しあわせになれますように……」


 一本のテープには、そう書いてあった。


 僕は、そのテープを見て思い出した。きっと、この日は10年前のクリスマスだ。


「僕が危篤になった日だ……」


 僕はこの日、生死の境を彷徨っていた。この日、家族のいない僕は、病院に一人で入院した。その夜中に急変したんだ。


 たまたまお見舞いに来ていたあいつが、先生を呼んでくれたから処置が間に合った。


 あの日、僕が死にかけたことは、あいつしか知らない。


「あの子は、あいつってこと?」


 僕は白い彼に問いかけた。すると、彼はとても美しい笑顔のまま、「そうだよ」と答えてくれた。


 僕は、生まれた時から病気で、長くは生きられないと言われていた。この日の様に、何度も高熱を出しては入退院を繰り返した。


 でも、それが突然治った年があった。

 それが、この年の、十歳のクリスマスだった。


「あいつがテープに願いを書いてくれたから、僕は治ったの?」


 独り言のように呟いた僕の言葉を、白い彼が引き取ってくれた。僕の背中にそっと手を当てながら、僕の目を覗き込んで「そうだよ」と答えてくれた。


「君は、あいつがこのテープで命を繋いでくれたから、今生きているんだよ。銀色のテープが、あいつの願いを叶えたんだ。おじいちゃんになって、同じお墓に入る願いを叶えてくれているんだよ」


 白い彼は、そう言って微笑んだ。

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