結婚式
結婚の準備に関して、特筆すべきことはない。
誰でもしている事を普通にしただけ。
クレーベ伯爵家は何も希望はないようだし、わたくしも結婚に夢は見ていない。
準備はとんとんと順調に進んだ。
結婚準備期間の間に、わたくしにはある心境の変化があった。
気がついたのだ。
この結婚はその気になれば拒否することも出来た。なのに、わたくしは諾々とレイビックの勢いに押されるまま、準備が進むに任せた。
それはつまり、わたくし自身が、この結婚を認め望んだということなのだ、と。
それならわたくしは、フェリクスを一生を共にする夫として迎え、受け入れる責任がある。
このアダルベルト侯爵が完璧な支度で婿を迎えてみせよう!
そう決意表明したらエリーには
「お姉様、お固過ぎますわ。それでは誰も齧れません」
と笑われた。訳わからない。
結婚式はウォルバルツ教会で行われた。
教会の待合室でレイビックと待っていると、あの日すれ違っただけの美貌の主がやってきた。
やはり、公園で見たものは見間違えではなかった。天使像から抜け出てきたような、完璧な容貌。
白金色のさらりとした髪と、髪の色を濃くしたような金色の衣装の組み合わせが妙を得ている。
その圧倒的な美しさに改めて驚き、こんな人間が世にいるものかと感心した。
「アダルベルトのマルグリット、ですわ」
身分が上であるわたくしから名乗る。
彼は優雅に腰を折った。
「クレーベから参りましたフェリクスと申します」
声は想像よりも低い。空気にしっとり溶けていくような声。
「良いお天気でよろしかったですわね」
「昨日までの雨雲も今日は侯爵様に遠慮し去っていったようです」
卒なく返す会話力、正しい発音、抑揚のある発声。
これっぽっちの言葉を交わすだけでわかる。
貴族として正しい教育を受けてきた者だ。
父親であるクレーベ卿を見て、いろいろ心配してたけど、まともそうな息子だ。良かった。
そのクレーベ卿は隣でレイビックと固く握手を交わしている。
二人とも目が潤んでいる。
いや、クレーベ卿の目尻からつーと零れた。
そんなにこの日が嬉しいのか‥‥‥親の気持ちはわからない。
教会の者が案内に来て、わたくしはフェリクスに手を取られて、神父の前に進んだ。
アダルベルト家は妹二人とレイビック叔父、クレーベ家は父親であるクレーベ卿が見守る中、わたくしたちは神の身前に夫婦と認められた。




