↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】女侯爵の平穏な結婚  作者: タコン
承:アダルベルト領

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/44

アダルベルト最終日

「王太子殿下がいらしたことを除けば、10日間予定通りでしたわね」

わたくしが言うと、ソファの隣に座ったフェリクスがにこりと笑った。

控えめだけど、貼り付けた仮面のようではない素の笑顔だ。

この整いすぎた顔にもずいぶん慣れたと思うけど、やっぱりなんだか眩しくて、直視できない時がある。


「アダルベルトはいかがでしたか?気に入っていただけました?」

「はい。学生時代は見えなかったアダルベルトをたくさん知りました。これほどに活気溢れて、領地民が自由に暮らす地は他にないでしょう。この地を誇りに思うマルグリットの気持ちがよくわかりました」

わたくしはふふふと笑った。

「もうフェリクスもアダルベルトの人間ですわ。気に入ってくださって嬉しいです」


使用人がコーヒーを持ってくる。

「レイビック様より、王都へお帰りのお荷物の手配にもう少しお時間いただきたい、と」

「わかったわ、あなたもご苦労さま。世話をかけたわね」

このアダルベルトに滞在した10日間、城の使用人たちもさぞ気を張っただろう。

そう思って労うと、年嵩の女性使用人は嬉しそうに笑った。

「とんでもないことでございます。当主様とフェリクス様の仲睦まじいご様子に、使用人一同どれほど幸せな気持ちにさせていただいたことか」

「まあ」

すこし気恥ずかしい気持ちになり、ホホホと笑う。


密度の濃い10日間だった。

お披露目パーティーをして、代々アダルベルト当主たちが眠る墓に詣でた。

足の悪い祖母を見舞い、領地に新しく出来た法律専科学校の開校式典でスピーチをした。

工場地帯に行き、労働者が働く姿を見て回った。その時に自分たちで糸から選んでデザインした服は、近い内に王都に届けられるはずだ。


その全ての時、隣にはフェリクスがいた。

アダルベルトの数え切れない領地民がフェリクスを見て、あれが領主の夫なのか、と好き勝手に批評したはずだ。

人目に晒されることに慣れたわたくしも、なんだかそわそわしてしまったのに、フェリクスはどこでも動揺を見せず泰然としていた。

わたくしの夫はとんでもなく肝が座っている。


そしてわたくしたちはとても夫婦らしくなった。

10日前だったら、わたくしたちは椅子を向かい合わせて座っていた。今は自然に隣に座っている。

レイビック&カトリナ案の“キス”と“寝室一緒”はそれなりの効果をもたらしたようだ。

「王都に帰ったら、しなくてはいけないことがたくさんありますわ。忙しいこと」

「そうですね。私に出来ることは申し付けてください」

「本当に良い夫ですわ、フェリクス」

わたくしはフェリクスの頬にキスをした。



「当主様、婿殿。これを!」

バタバタと足音が聞こえてきて、部屋のドアが開いた。

レイビックが焦った表情で近寄ってきて、手には新聞紙を持っていた。

「叔父様、新聞に何か?」

「こちらを」

レイビックが広げた箇所には“クレーベ”の文字があった。

“クレーベ伯爵、刺される”

その見出しにぎょっとして、フェリクスを見る。

フェリクスは新聞記事を凝視していた。

“クレーベ領伯爵マルクが王都の自邸にて、短刀で腹部を刺された。出血多量で意識不明の状態。刺したのは義父で前クレーベ伯爵エドウィン。都市警察に逮捕された。家督トラブルが原因か”


フェリクスのお義兄様がフェリクスのお父様に刺された?

義兄は意識不明で、父親は逮捕された!?


フェリクスの顔を覗くと、元から色白な顔色が、白を超えて青ざめている。

「…フェリクス、大丈夫ですか?」

「はい…少し、驚きました」

それはそうだろう。わたくしは今出来ることを考えた。

「…まずはこの記事が本当のことかどうか、確認をとりましょう」

「いいえ、結構です」

フェリクスは間髪入れず、はっきりした声で言った。

「え?確認はしないのですか?」

「私はすでにアダルベルトの者とおっしゃったではありませんか。父も私とは縁を切ると言ったとか。でしたら、これは縁のない他家の出来事です。お気にされる必要はありません」

フェリクスの表情は見たことがないほど冷たく、口調は聞いたことがないほど固かった。

「でも、確認くらいは。お義兄様の怪我の程も気になるでしょう?」

「いいえ。特に」

間髪入れずに返った返事は、“あんな奴、死んでいい”、そう聞こえた。

わたくしは不安な気持ちでフェリクスの目を覗き込む。

何の光も映していないような瞳が、ふっと細められ、逸らされた。

「心配させてしまったようで申し訳ありません。私はなんとも思っておりませんのでお気になさらず」

「‥‥‥」

「出発までもう少し時間がかかるということでしたね。私は私室をもう一度確認して参りたいのですが、よろしいでしょうか」

「…ええ、どうぞ」

許可を出すと、すぐにフェリクスは部屋を出て行った。

わたくしはレイビックと顔を見合わせた。

ブックマークとか評価とか、ありがとうございます!すっごく嬉しいです。頑張って最後まで書き切ります。

土日は更新できないかもしれませんが、少々お待ちください。


次回からフェリクスくんがおかしくなっていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。