命ずる
そうして数時間後、レジウスが本陣に戻ったのだが、状況は最悪であった。
何故なら、ディランが皇太子を前面に立たせながら、進軍を開始し、元国境を挟んで両軍が対峙していたからだ。
皇太子が居るため矢を放つことができず、動くに動けないブラックパイン軍。
レナードが小声で副官に影達に皇太子の奪還を命じた。
だが、
「お館様! 影移動が使えませぬ!」
動揺した声がレナードの耳に届く。
「そんな馬鹿な」
そう言う自身で影移動を試みたレナードだったが、報告されたとおり、影移動が作動しない。
「ディランのやつ魔封じの水晶まで持ち出していたのか?!」
レナードの声に焦りが混じる。
ブルーパイン子爵家は無能な子爵家ではない。
パイン三家と呼ばれるには訳がある。
ブルーパイン子爵家の初代当主が、何故陞爵されたのか?
それは魔法行使を出来なくさせる効果を持つ魔道具を開発したからだ。
その魔道具は帝に献上され、宮殿の宝物庫に保管されているはずなのだが、作った魔道具がたった1つとは限らない。
いや、何個か造るのが当たり前だ。
当然パイン三家当主はその存在を知っているし、実際に見た事もある。
レナードの頭の中では、拠点防衛に使う魔道具であるとの認識だったため、戦場に持ち出すという発想が無かったのだ。
完全にレナードのミスである。
「皇太子の命が惜しければレジウスを出せ!」
ディランが大声で叫んでいるのだが、今のレナードにディランの方を見る余裕すらない。
レナードの顔は憔悴している。
その顔を見たレジウスは、
「父上、私が行きましょう」
と声をかける。
「いやそれは……」
「どうせディランの目的は私かリーナでしょう?」
「お前を殺してリーナ様を手に入れるためだろうな」
「私よりもサンライト皇国の方が大事でしょう?」
「サンライト皇国を優先するならば、殿下の命よりも国防だが……それに後継ぎならば……」
レナードが言葉を濁したのだが、
「私に帝は無理ですよ」
レジウスのその言葉に、周りの兵が、
「え?」
「それはどういう意味……」
と疑問の声が上がる。
レジウスが短剣を腰から抜き、刀身にある刻印を皆に見せると、
「帝の代理として命ずる! 皇太子殿下と私の身柄交換をせよ!」
と宣言する。
「御意……」
レナードがレジウスに膝を突き頭を下げてそう答えた。
いや、答えるしか無かった。
「あの短剣がどうかしただか?
デイルの疑問は平民としては当たり前の問いだっただろう。
当然他の兵士も平民が多いので、デイルの疑問に皆が聞き耳を立てている。
「アレなぁ、この国では帝の全権委任と同義なんだわ」
タッカーの答えに兵士達が動揺する。
「タッカーはなんでソレを知ってるだ?」
「俺も一応貴族の家に生まれたからさ」
「初耳だで」
「誰にも言ってないからなぁ」
タッカーが頭を掻きつつそう答えるのだった。




