蠢動
さて、時はレジウスが金を掘り尽くしてから数日後。
レジウスを亡き者にすべく、裏から手を回していたとある高貴な女性は、荒れに荒れていた。
「せっかくあのガキがいつ到着するかまで教えてやったのに、殺すどころか傷ひとつつけられぬとは、しょせんは没落した家のガキだったということかっ! あんなのに期待したのが間違いだったわっ! 忌々しい!」
甲高い声でそう喚きながら、部屋にある調度品を手当たり次第に床に投げつけて、鬱憤を晴らしていたところに、
「荒れておるな……」
とノックも無しに部屋のドアを開けて、入室した男が床の惨状を見ながら言葉を漏らす。
「何しに来たのです? 金山を取られただけでなく、たった2日で掘り尽くされたのですよ? これが荒れずにいられますか!」
荒れているのは自分のせいではないとでも言うような口振りである。
「私とて忸怩たる思いなのは変わらんよ。だがこの国だけではサンライト皇国には勝てぬのだ。兵の数が違いすぎる。増やそうにも帝国法によって禁止されておるし」
小さく左右に首を振りながら、男が呟く。
「内緒で増やせば良いではないですか!」
「兵の募集などしてみろ。間者にすぐにバレる」
とか言っている高貴な者達の下に、とある人物が訪ねてきた。
高貴な、そうラーナ国において一番高貴な王家に、アポも無く訪ねることができるのは、帝国において上位貴族と呼ばれる家ぐらいだ。
それは、リーナとレジウス、レッドパイン伯爵家を恨むマザコン、リーナの元旦那であった。
「ラーナとの国境地域の領地で揉め事とな?」
レナードからの報告を聞き、思わず声を返した帝。
「はい、陛下。それにノースセツの国境、ザコディリス侯爵家の地域でも」
「揉め事の理由は?」
「ラーナ国の方は、川の中洲での漁有権がきっかけのようですが、半分言い掛かりです。あそこの中洲は元々サンライト皇国領と決まっていたのに、先日の雨で氾濫したおりに、地形が変わって中洲の位置が微妙に変わったのを良いことに、新しい中洲だから我々のものだと、その地を治めるラーナ国貴族が言い出しまして」
「ザコディリスの方は?」
「そちらは狩人が国境を勝手に越えて鹿を狩ったとか。まあリーナ殿とレジウスに対する怨みでしょうが」
「ふむ。で、今はどのような状況かの?」
「中洲を挟んで領地の兵士の睨み合いと、鹿を狩ったとほざいてる山の国境地域で、ザコディリス兵士が展開中との事です」
「ラーナとノースセツというか、ザコディリス侯爵家だけかな。繋がっておると思うか?」
「十中八九、間違いないかと」
「ザコディリス侯爵家の方は単独であろう? すぐに鎮圧できるだろうが、ラーナ側は国境付近の貴族が全部であったな? 面倒だのう」
「ザコディリス侯爵家の方も、そうすぐに鎮圧できるというわけにもいかないようで」
少し含む言い方をしたレナードに、帝は首を傾げながら、
「なぜじゃ?」
と問いかける。
「あの地はエリン男爵家の領地なのですが」
と言葉を流したレナードだったが、それによってとある事を思い出した帝は、
「エリン男爵家の正妻はラーナ国貴族出身だったか……」
と、眉を顰めて小さく呟く。
「はい……」
「エリン男爵家とザコディリス侯爵家は、結託していると思うか?」
「エリン男爵家当主のジャルハ殿は、陛下を裏切るような男ではありませぬが、先日から病にて床に伏せっていると影から報告が」
「タイミングの悪いことよのう。盛られたか?」
「分かりませぬ」
「どちらにせよ、対策せねばな……」




