よこせ
そんなこんなでリーナが、大量に買い物を済ませ、買った物はレジウスが亜空間に収納することになる。
まあ、女性の買い物といえば時間がかかるのが定番なのだが、リーナの買い物は極めて早かった。
最低限必要な物をさっさと決めて、そこから追加で必要な物を吟味するのだが、直感で決めているのだろう、ほぼ迷う事なく購入するリーナの即決力に、レジウスは感心していた。
さて、リーナの買い物が早く終わり、増築の材料を買う時間にも余裕が出来たため、レジウスはサクサク買って来た時と同じようにウージに戻る最中に、前方、つまりウージ領の方から、大勢の護衛を引き連れた他国の貴族と多くすれ違う事になったレジウスとリーナ。
「もうそんな季節か」
レジウスがそう言うと、
「秋の園遊会シーズンだもんね」
とリーナが相槌を打つ。
秋の園遊会には、ウエストサンライト帝国に属する国の国王や上級貴族が参加する。
つまり、お偉方がサンライト皇国入りするわけだが、園遊会直前にサンライト皇国に来るわけではなく、都に早めに入るのが慣例である。
サンライト皇国に住む者達からすれば、毎年の事なので珍しくも無いわけだし、道中での宿泊費などは各領地の宿を経営する者からすれば、毎年来てくれる上客でもある。
上級の貴族なので、金払いも良くウハウハなのだ。
ウージ領を通るということは、南方の国から都を目指している貴族達である。
だだ、貴族と言っても千差万別。
良い貴族もいればそうでない者も……
レジウスは貴族達とすれ違う時、端の方に避けて停止していたのだが、何度目かのすれ違いの時に、
「オイ貴様、そのその魔物お前のか?」
と目の前で停止した馬車から、横柄な声がしたのだった。
「そうだが?」
他国の貴族だろうが、レジウスの言葉使いはブレない。
「この国の平民の態度はなっとらんな。貴族に対する言葉ではない。無礼打ちにしても良いのだが私は優しいので、その魔物と横に居る女をよこせ。それで勘弁してやる」
と言った馬車の中の貴族。窓から見える顔だけで体型が想像できてしまうくらいに肉が付いている。
年齢は30歳くらいだろうか。
どの国の貴族かは不明だが、ウエストサンライト帝国に所属している国の貴族なのに、サンライト皇国のことを『この国』呼ばわりする時点で頭の中身が知れてしまうのだが。
「はあ?」
レジウスが呆れた声を漏らす。
「この私、ラーナ国の新たな伯爵家、ベリン・フォン・エバンス様がその魔物と女を貰ってやると言っているのだ。貴族に献上できる名誉をやると言っているのだから、大人しく差し出せ」
どうやら新たに上級貴族になった家のようだ。
「寝言は寝てから言え」
「貴様! 平民の癖に!」
「俺は貴族だ」
「貴族だと? どうせ下級貴族だろうが! いいからよこせ!」
「死にたいのか?」
「貴族に対してその物言いは国際問題になるな。処罰の対象になるぞ。伯爵と下級貴族では結果は見えておるぞ。許してやるからその女と魔物差し出せ」
「断る」
「お前達、こやつを痛めつけろ」
その声に護衛兵達が馬からおりて、槍を構えレジウスを取り囲む。
「レジウスどうするの?」
リーナがレジウスに聞くと、
「ん? 痛い目にあってもらうさ」
と答えたレジウス。
「いいの? アイツが言うように国際問題にならない?」
との問いに、
「問題になったら国から出ればいいだけ」
と笑うレジウス。
「それも楽しいかも。フフフ」
リーナが微笑む。
「てな事でお前ら覚悟しろよ?」
レジウスはようやく馬車?の御者席からおりる。
護衛兵の一人が、
「一人でこの人数を相手にできるとでも? 素直に女と魔物を差し出せば生きていられるものをカッコつけおってからに。かかれ!」
と言ってから命じたのだが、
「口ほどにもねーな」
レジウス1人相手に瞬時に無力化されてしまった護衛兵達。
「な、なぜだっ。こんなガキ一人に私の親衛隊が……」
と言葉を漏らす馬鹿な伯爵の声を聞いて、
「ついでに馬車も壊しておこうかな」
と口元を歪ませるレジウス。
数分後、
「よし、さあ帰ろ」
そう言って、御者席に座ったレジウスはリーナを連れて家路を急ぐ。
その場に残されたのは地面に臥して動かぬ護衛兵と、破壊された馬車に、馬の背中に素っ裸で仰向けで括り付けられているマヌケ面だけだった。




