誕生日
パーティー当日。
支度をするアレン様は、小説の王子様のように美しく、凛々しかった。こんなに近くで見られることが、素直に嬉しい。
支度を終えたアレン様は先に会場へ向かい、わたしも遅れて身支度を済ませて向かった。
会場に着くと、カイトの姿があった。騎士団長の息子である彼が招待されないはずがない。シルバーヘアにアメジストの瞳を持つ彼もまた、女性たちからの人気が高く、あっという間に人混みに紛れて見えなくなってしまった。
壁の花となって会場の隅に立っていると、遠くからでもすぐに見つけられるアレン様の姿が目に入った。その隣には、ロゼリア・メルディナ公爵家の令嬢の姿があった。
学園でのロゼリアの姿とはまた違ってドレスアップされた彼女も非常に可憐で美しかった。どうやら婚約者候補の一人であるようだ。
――どれだけ勉学に励んだところで、身分の差は埋めようがない。
やはりこんな場違いな場所に来なければよかった。
息が詰まりそうになり、外の空気を吸おうと出口へ向かったところで、声をかけられた。
「遅くなってごめん」
アレン様だった。
「お誕生日おめでとうございます」
本当は来られて嬉しかった。でもそれ以上に、伝えなければならない気持ちがあった。
「君が会場に来た瞬間から、一秒でも早く声をかけたかった。あまりに美しくて、他の男に見せたくないくらいに」
「アレン様、そんなことを言われたら……勘違いしてしまいます。ロゼリアともとてもお似合いで……」
言い終わる前に、涙がこぼれた。
ハッとして踵を返そうとしたが、腕を掴まれて引き止められる。
「どうして泣いてるの? 僕が何か、悲しいことでも言った?」
「そんな……見ないでください! これ以上、あなたのことで胸をいっぱいにさせないでください!」
顔を真っ赤にしてそう叫ぶと、次の瞬間、アレン様の腕の中に抱きしめられていた。
「それは……僕のことを、そんなに考えてくれていたってこと?」
「アレン様、こんなところ、誰かに見られたら」
「あぁ、そうだね。こんなに可愛い君を、誰にも見せたくない。……一緒に帰ろうか」
「ち、違……!」
抗う間もなく横抱きにされ、アレン様はジークに「先に帰る」とだけ告げると、そのまま二人で馬車に乗り込んだ。なぜかアレン様も、当然のようにわたしの隣に腰を下ろす。
「あの……なぜ、お隣に?」
腰を抱かれたまま尋ねると、アレン様は静かに答えた。
「離れたくないからだよ。……そういえば試験、お疲れ様。さすがだね、君は。ご褒美は何がいい?」
「それは……家に、帰らせてください」
「一時帰省ってこと?」
「いえ……もう、この専属侍女の仕事を、辞めさせてください」
「それはどうして? 居心地が悪い? 他の侍女たちに何かされた?」
「そんなことは、決して……断じてありません」
「じゃあ、なんで? ……僕のこと、嫌い?」
「そんなわけ、ないじゃないですか」
「じゃあ、なんで?」
観念して、わたしは想いを口にした。
「あなたを……好きになってしまったからです。こんな気持ちのままでは、おそばにいられないからです」、
言い終わるより早く、顎を持ち上げられ、唇を塞がれた。
柔らかな感触とともに、目の前には美しい殿下の顔があった。
「それなら、なおさら帰すわけにはいかないな。君は僕の初恋なんだ。君に好きになってもらいたくて、ずっとこの時を待っていた。……絶対に離さないから」
「……わたしも、大好きです」
頬にもう一度キスを落とされる。
「最高の誕生日プレゼントだよ。……これから、僕がどれだけ君のことを好きか、たくさん教えてあげるね」
――こうしてわたしは助けた王子様の溺愛に沼っていくのでした。
fin




