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プロローグ

 頭が痛い。


 今聴こえる、頭の中で鳴り響く音はなんだ。


 目に映るものを整理する。いや、目に映るものが理解できてるからこそ信じられない。

 

 狭いピアノスタジオで奏でる楽器はピアノ、それは紛れもなくピアノだった。


 白鍵は黄色く、黒鍵は緑に。


 ちぐはぐな色の鍵盤を叩くたびに頭に響く不協和音。


 息を吸うたびに胸の奥が重い。指を動かすたび、知らない筋肉が反応する。

 自分の手を動かしているのに、命令している感覚がなかった。


 鍵盤を叩くたびに、口から嗚咽が漏れる。叫び出すのを我慢できなくなる。


 奏でるのはトロイメライ。

 やわらかい旋律はシューマンの恋人への想いが込められているといわれている。強弱が曖昧で夢の中へと誘うような曲。


 昔大好きだった人が、演奏をほめてくれた。

 そしてその人に振り向いてもらうために、何回も何回も練習した曲だった。

 

 こんな不協和音のはずではない。


 鍵盤から手を放しそうになる。

 それでも、必死に目で鍵盤を追いかけた。




 ここで弾かないと殺される。


 


 音は取れない。指も思うとおりに動かない。

 それでも僕はピアノを弾いた。


 自分のためにピアノを弾くなんて久しぶりだな。


 そんなことを思いながら。

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