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チッ、バレたか

「こんなものですかね」


 トレス王国貴族学院の控室。

 私、リジェ・リファイスは定期的に行われるパーティに参加するため、身支度を整えていた。

 王国の北端に位置するリファイス伯爵家の次女。

 鏡には華麗な金の髪に緑色の目を優く光らせた、自分の姿が映った。

 清流のような水色のドレスがその端麗な容姿を際立たせており、時折スリットから覗かせる足が色気を醸し出している。

 最後に『あのこと』がバレてしまう要素がないか、頭と足をチェックしてから、パーティ会場へ移動を始めた。


「ごきげんようみなさん」

「あらごきげんよう、リジェさん」


 同じ学院に通う貴族の生徒に挨拶をすると、含みがある声で挨拶を返された。

 嘲り、嘲笑するようなイントネーション。

 もしかして、何かやらかしてしまったか。


(最近、特にやらかしたことは――いえ、アレがありました)


 嫌な予感を覚えつつも、他にできることもないため、覚悟を決めてパーティの会場に入った。

 何度か使ったことがある、真っ白な建物と調度品で揃えられた、円状の美しい会場。

 いつもは万遍なく人が散らばっているのだが、今回は不自然に端に人が固まっており、堪えられなかったとばかりにクスクスと笑い声が漏れ出ている。

 そして、その中央には金髪碧眼のイケメンと、黒髪黒目の少女がいた。


 イケメンの方は、トレス王国の第二王太子であり、リジェの婚約者でもあるカイザだ。

 白いタキシードがよく似合う、高身長の美青年。

 中身が残念なことを除けば、非の打ち所がない次期国王の候補だ。

 そして、少女の方は男爵家の令嬢、アカネだ。

 小さくてカワイイタイプの女の子で、大きな瞳が庇護欲を沸き立たせる。

 入学当初から王子やその友人に色目を使ってすり寄り、寄られる側も満更ではない態度を取っているため、令嬢間では蛇蝎のごとく嫌われている。


 貴族のギャラリーが見守る中、カイザはアカネを左腕で抱き寄せ、右手で私を指さしながら、大きな声で宣言した。


「リジェ・リファイス、君との婚約を破棄させてもらう!」


 一瞬の静寂の後、周囲から大きな歓声が上がった。

 彼らはこの件を見世物としか見ていないらしい。好き勝手にあることないこと言って、騒ぎ立てている。

 私は耳につく歓声にイラついていることを自覚しつつも、表面上はクールに問い詰めた。


「……理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

「フン、自覚してるだろう。お前がアカネに嫉妬して、陰湿ないじめを繰り返していることは分かっている」

「していませんが」

「オレとアカネが仲良くしていることに嫉妬して、男爵家という立場が弱いアカネを理不尽に問い詰めたらしいな」

「婚約者がいる男性に色目を使うなという、至極真っ当な指摘でしたが」

「最近、アカネの物が隠されるという事件が頻発している。そして、近頃お前は夜の学校に訪れているらしいな」

「ッ――それは、卑劣ないじめをする犯人を捕まえるために」

「おいおい、その言い訳は無理があるだろ」


 苦しい言い訳にヤジが飛ぶ。

 事実ではあるのだけれど、誰も信じてくれなかった。

 不味い、立ち回りを間違えた。内心毒づいている間に、追撃が続く。


「そういえば、最近は夜の学校にモンスターの発見報告が相次いでいるらしい。君の正体は、そのモンスターなんじゃないか? いや、そうに違いない!」

「キャー、怖ーい」

「教会に訴えよう!」

「危険人物として、拘束――」

「チ、バレたか」

「――え?」


 言い訳させてほしい。

 あの時は頭に血が上っていた。


 アタシの髪のつむじから、深緑色のゼリーのような物質が噴き出した。

 冒涜的な雰囲気をしたゼリーは、まるで元の形に戻るかのようにスルスルと変形していき、頭に巨大なクラゲの帽子を作った。

 その帽子から次々と触手が生え、アタシを守るように包み込む。

 先端は血の様に赤く、そしてクラゲの頭は同じく深紅の瞳を持っていた。

 変化はそれだけに留まらない。

 足がウネウネと変化し、鳥のようなかぎ爪を持った肉体に変わる。

 最後に、クラゲに大きな翼が生えた。

 その姿は、この世界に存在するモンスター、クラゲ(ちょう)が人の肉体を乗っ取ったようであった。

 これが、人間とクラゲ鳥のハーフであるリジェの真の姿である。


「こうなったら全員ぶっ殺して――!」

「ギャー!」

「化物!?」


 観戦者たちは突然の魔物の登場に、蜘蛛の子を散らしたように離散し、大パニックを起こした。

 さっきまでの余裕はどこにいったのか、全員が一刻でも早く逃げようとしたことで、出口で大渋滞を起こしている。

 そして、パニックはカイザとアカネも例外ではない。二人とも腰を抜かしたのか、尻もちをついたまま立ち上がれないでいる。


「……やらかした」


 口調的に、リジェがモンスターであるということに確信を持っていると誤認してしまった。

 貴族の見世物にするため、騎士団の手練れ数十人が控えていてもおかしくない。

 殺られるくらいなら殺ってやる精神で正体を現したのだが、この反応からみて、言い逃れすることもできただろう。


(不味い、最悪アタシが討伐されるのは仕方ないとしても、家にまで影響が出ちまう)


 こんなモンスターであることを承知で拾ってくれた両親だ。絶対に迷惑はかけたくない。

 どうにか、家だけには迷惑をかけないように、この状況をどうにかしなければならない。


(なんか……アタシは偽物だったとか、そんな感じのストーリーで――)

「どいて、私は伯爵令嬢なんだから!」

「俺は公爵家だぞ! 金なら出すから道を開けろ!」

「レディファーストでしょ」

「うるせえな」


 騒がし過ぎて思考に集中できない。一旦黙らせるか。

 触手が(うごめ)き催眠ガスを振りまく寸前、急に周りが静かになった。

 見渡すと、生徒達は眠っていた。

 アタシはまだ何もしていない。誰が――。


タッタッタ


 後ろから足音。

 振り返ると、一人のスーツを着た男が近づいてきていた。

 大きい。一般的な男性と同程度の身長であるリジェよりも、さらに十センチ以上高い。

 右手で魔術の使用を補助する杖をつき、胡散臭い笑みを浮かべている。

 漆黒の髪をショートカットで固めて、黄昏の目を光らせた特徴的な男。


(ヴィード・トレス・デッドリー……この国の第一王子じゃねえか)


 学院に通っていることは知っていたが、挨拶くらいしかしたことがなかった。

 魔術の天才と評判で、過去に隣国との戦争に参加して、不利な戦況を大魔法で一撃でひっくり返したとか。


(正体を現した私を殺しに来たか)


 一瞬戦う構えを取り――すぐに両手を上げて、戦う意思が無いことを示した。


「戦うつもりはない。話をさせてくれ」

「なんだ、言ってみろ」

「アタシは魔物と人間のハーフだ。無暗に人間を襲ったりしない」

「ふむ……で?」

「……頼みがある。今から分身を作るから、それを倒したことにして欲しい。ここにいるアタシが偽物だったことにしたい」

「その見返りに、お前は何を差し出せる?」

「……アタシにできることなら、なんでもする」


 ヴィードはなるほど、と少し考え込んでから、条件を提示した。


「なら、俺と婚約しろ」

「……は?」

「さっきまで婚約してたヤツの兄だ。家柄的にも問題あるまい」

「いや、うん、そうだけど。そうだけどさ」

「なんだ、受けないのか?」


 ヴィードはリジェに一歩近づき、鼻と鼻が触れあうくらいの距離になった。

 端正な顔立ち、長いまつげ。心なしか、キラキラして見える。


「どうした? 何でもするというのは偽りだったのか?」

「……分かった。いいぜ、婚約してやる」

「よし」


 ヴィードは満足したように頷いてから、リジェと距離を置いた。


「なら、俺のカワイイ婚約者のために一肌脱いでやるとしよう。まず、お前の策は却下だ」

「どうして?」

「お前が偽物だったことにしても、これだけ多くの貴族を巻き込んでいれば、尋問は避けられまい。すぐに正体が割れるぞ」

「確かに……」

「それに、もっと良い策がある。俺が魔術で記憶操作する」

「そんなことできんのか?」

「難しい魔術だが、対象の精神が錯乱しているから効きやすいぞ。偽りの記憶として――俺がリジェに告白して、お前が顔を真っ赤にしながら了承した記憶を植え付けておこう」

「真っ赤にするな!」


 リジェが焦っているのを見て微笑してから、ヴィードは杖を掲げて魔法を行使した。


 10から20話くらいで終わる予定。

 二日か三日に一度は更新したい。

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