8-1出来事と言葉の宝石
出来事と言葉の宝石
朝が来る。
だが耳に届く音は波の音
昨日はこんなにはっきり聞こえなかった。
桃子はトイレに起きる。
すると閉め忘れた障子窓の向こうに少しというか大分波の高い海があった。
「帰れるのかな?」
心配になりつつ部屋を出た。
すると一階で
「一本目欠航だってよ。二本目はまだ検討中だって、今日のお客さん帰れるといいんだけど、学生さんみたいだからね。」
と近所の島民と話している女性がいた。
「あっちゃあ…。」
桃子は部屋に戻り携帯を確認、まだ午前六時手前、二本目は昼に来るものでそれまで時間がある。
二度寝に入った。
りんごが目を覚ましたのはすっかり太陽の登り切った時間であった。
窓の外の波はまだ少し高い。
「あ、おはようりんご。」
と隣りの布団では携帯をいじりながらうつ伏せに寝る桃子がいた。
「フェリーの時間は?」
「それなんだけど一本目が欠航なんだって、学校は遅刻が確定だね。」
「そうね。」
二日ぶりの布団に熟睡だったりんご。
携帯を確認すると八時を過ぎていた。
「ゆすら達は?」
「洗濯中。」
その言い方では二人が洗われているようだなと考えながらりんごは起きる。
着替えを済ませて一階へ行ってみるとテレビがついていた。
地方局ではなく全国ネットのチャンネルである。
「七年前の馬鈴双子誘拐殺人事件で捕まった男は殺人を依頼されたと供述しておりその男の事を慎重に聞き出しているもようです。石田容疑者を一度は逃がすも共に出頭してきた万田容疑者は書類送検される見込みです。」
テレビを見ているりんごの横にゆすらが座る。
「おはよう…」
ゆすらも眠たそうである。
「おはよう。吾のお父さん、書類送検されたわ。」
「身柄送検じゃなくて?」
「ええ、また消されるかもしれないわね。」
このまま双子の父親を捕まえないつもりなのだろうか。
「帰ったら確かめないとな。」
「そういえば乗る予定のフェリー欠航なんですって」
「らしい。でも、次のには乗れそうだってよ。もともと物資の運搬目的に病院へ行く人も載っているからな。欠航が続くと痛いだろうからな。」
「今日は日曜よ。」
だから病院への患者はいないと言おうとして止まる。
文章的に切れがよかったためゆすらは気にする様子はない。
もし、警察が双子の父親を捕まえることが出来なかったらこっちはメディアを使う手があることに気が付いたのだ。
ちなみに何がきっかけで思い出したかというと月曜日に週刊誌を発売する会社が多いと昔出版社勤務だったりんごの母親が言っていたことを思い出したからだ。
だから日曜日には各メディアが発売前の記事の内容を聞き翌日の昼近くの情報バライティーに合わせ構成を練り直すこともあるとも言っていた。
現在ではその時の伝手で多くの芸能人や金持ちと関係を持って遊んでいるようだが…それでも本命は現在旅行中の人らしい。
りんごは部屋に戻ろうと立ち上がると丁度桃子と吾が下りてきた。
「朝食だって」
と声をかけてきた。
食堂があるらしくそこに移動した。
軽い食事とフェリーの中で食べれるようにとおにぎりの昼食を受け取る。
りんごは向かいの席に座る桃子に
「ねえ、行く前にもらった林って記者の名刺、まだ持ってる?」
「ああ、あるよ。それがどうかしたの?」
「もしかしたら警察はまた双子のお父さんを捕まえないつもりかもしれないと思って、もしそうなったときの予防策。」
食事後荷物をまとめそれを持って一階のテレビの前へ、出してもらった緑茶をすすりながらテレビを見ているとどの番組の双子の事件ばっかりであった。
「これならリークしたらその分取り上げてもらえそうね。」
注目度の高い物ほどメディアは喜んで取り上げる。
しかも週刊誌のネタを放送する昼前の番組は主婦がよく見る物、噂として話が広がって行く可能性もある。
「りんごって時々腹黒いことするわよね。」
「桃子ほどでもないわよ。」
「うれしくない。」
「お互いね。」
そこに
「フェリー来ましたよ。」
と声がする。
「ありがとうございました。」
宿を出て海を見ると幾分波は穏やかになっていた。
「お父さんに電話しないと」
充電満タンの携帯を耳に当てる。
りんごが話している横で
「そういえば双子のお父さんはどのこの島なの?」
「東京だって聞いてはいるけどどこかまではな。」
桃子がゆすらに聞き答えが返ってくる。
「まさか今度はそこに行くとか上ないわよね?」
りんごが電話を終え、話に加わる。
「さすがに出費の多い旅はこりごりよ。癒しも何もなかったしね。」
「今度は温泉に行くんですものね。」
と話している横を男女が通ってフェリーに乗り込んでいった。
「お前達も乗るんだろ? 早くしろ!」
と言われりんご達も乗り込んだ。
波がまだあるせいか一時間と少しかかって本島に戻ってきた。
そこには
「りんご」
と懐かしい声が聞えた。
「お父さん」
りんごが駆け寄る。
「大きくなったな。合うのは何年ぶりだ?」
「事件の前だから十年近くたつんじゃない?」
そんな話をしているのを後ろから見ている三人は思う。
十年も合っていない父親と娘があんなに自然に話しをするものなのだろうかと
「ほら、早く乗って、遅刻確定なんだから」
とりんごは急かす。
りんごが助手席に乗り後の三人が後ろに座る。
そうして約二十時間。
りんごだけが起きて車をみんなの家に誘導する。
「この辺もだいぶ変わったな。」
「変わらないものなんてないのよ。きっと……」
遠い目をする娘に、父は
「お前の誕生日は一生変わらないものだよ。少し遅れたがお誕生日おめでとう。」
そう言って膝に乗るぐらいの袋を渡された。
中を覗くと少し趣味には合わないワンピースだった。
さらに走ること数分、
「桃子、吾、着いたわよ。」
りんごは桃子の家しか知らないため桃子の家の前で二人を起こす。
「……ここは?」
桃子は眠たそうな声でいう。
「貴方の家よ。吾の家は? ここから遠いなら家まで送るわよ。」
「平気、りんご達も遅刻なんだろ。」
眠たい目を擦りながら吾は車の時計を見ると八時を回ったところだった。
「まあ、今日はそんなに急がなくてもよさそうだから」
「みんなの家と学校には杏君が連絡してくれてるよ。」
「あら、そう。」
ならゆっくりでもいいやとりんごは思った。
「それじゃあ」
と二人を降ろし、ゆすらの家へ。
制服に着替えて荷物を持ち替えたゆすらを乗せ今度はりんごの家へ、と忙しい。
りんごの家の前に降ろしてもらうと遅刻に急ぐ生徒が一人走って行ったのが見えた。
りんごも着替えて学校へ向かう。
「ゆっくりでいいのかよ。いくら杏さんが連絡してるからって」
「良いのよ。どうせ一時間目の国語は百人一首よ。」
前回の授業で百人一首を覚えてくるように言われてきていた。
それは一月に二学年だけで大会をするからだ。
「今時百人一首ってなあ…。センター試験に出ないのに何でやるのかな。」
「そうね。将来使うわけでもないけど、感性に関わることじゃない。少しは豊かになれるんじゃない?」
「遠巻きに感性がないって言ってるよな。」
校門をくぐると遅刻指導の教師がいた。
理由を話、指導を受けている生徒の横を抜けて下駄箱に、教室では呪文のような百人一首がCDコンポから流されていた。
放課後までは早く学校を出ようとすると校門に杏の車が来ていた。
「お前!」
と、りんごは頬の肉を左右に引っ張られた。
「痛い!」
実際はそんなはっきり聞こえていない。
少しこもった声がする。
「早く乗れ」
と言われ後部座席に乗り込む。
警視庁につきまた会議室に通されるとそこには
「ヤッホー」
と桃子が、その横には吾が本を読んでいた。
「授業中寝なかった?」
「熟睡よ。」
悪びれることなく言った。
そこに杏が
「りんごと桃子が吾の親父さんから聞いた内容が同じかどうか確かめてくれ」
そう言われ録音がながされた。
散歩の途中で石田に合い、そこでこれから蜜柑と果鈴を殺し、リュウと逃げるという話を聞かされ怖くなって逃げた。
胆略化されてはいるが二人が聞いた内容と合っていた。
「で、こっちが石田の供述だ。」
リュウの給食費が払えずにいること、プレハブ小屋での生活、食事もあまり与えられずにいる。
そんな生活困窮状態に陥っていることについて双子の父親はリュウを児童養護施設に入れるべきではないかと言われ始めたのは事件の一か月前、その後お金が必要ならと双子の殺人依頼を受ける。
リュウの父親は双子の父親から行動を細かく支持されていたと明かした。
そして決行後は日本各地で日雇いの仕事をしながらリュウと生活するも双子の父親から貰ったお金が底をつきリュウが働くと言い出した。
リュウの体はがりがりで肉はなかったが身長が高く見た目は中学入りたてでも高校生と変わりなかった。
そうしてリュウはいたるところでバイトを掛け持ち、するとリュウの父親はリュウを置いて姿を消したのだという。
一人でも十分生活できるようになったと判断したからだ。
その後はここから離れたところで働いていたがある人からリュウが死んだと聞き、町の近くまで戻ってきたという。
「聞くけど、双子のお父さんを捕まえることは可能なのよね?」
りんごが杏を見ながらいうも
「…いや、無理かもしれない。こっちが捕まえたくても上が許可しないんだ。だからニュースで殺人を依頼した男がいると報道されたが多分今日の夜には曖昧な供述から精神混乱状態に陥っている可能性があると報道される可能性が高い。」
そういいながら近くにパイプ椅子を引っ張ってきて座る。
「そう、ならこっちが強硬手段に出ても文句言わないでね。」
りんごは携帯を取り出しメールを打ちだす。
「強硬って…何するつもりだ? またなんか問題起こすんじゃ」
「一度も問題なんて犯してないわよ。ちょっと四人で行方不明風に失踪したり、二回ぐらいさらわれる経験をしてたりしているぐらいじゃない。私達に過失はないわ。」
「少なからず一つ目はお前らの意図的な行動だからな。」
杏は足をくんで項垂れる。
「寝てないの?」
メールを打ち続けながら聞く。
「そうなんだよ。何徹してるかな…」
「子供が産まれたばかりでよくやるわね。」
りんごは送信ボタンを押す。
「で、強硬手段ってなんなんだ?」
杏が話を戻す。
「金曜日に桃子からスクープを取ろうとした記者が接触してきたのよ。」
「ああ、不審な人物が桃子についているって言ってたな。」
「林っていう週刊誌の記者で、桃子からネタが取れなかったって今沈んでいるだろうから新しいネタの提供をするって連絡を入れたところよ。今話題の馬鈴双子誘拐殺人事件で七年前に誘拐現場を目撃し、今年になって犯人に誘拐にあった目撃者が当時のことを告白。って来たら乗るでしょ、普通。しかもその事件に桃子が関わっているって言うのは当時の話題に出たこと」
そう話していると返信メールが来た。
「…乗るそうよ。この話、世間に出れば警察も双子のお父さんを逮捕せざるを得ない。」
「それはいいが、お前等はいったい何がしたいんだ?」
その問いに特に返す言葉の無い四人。
「事件の概要は多くの警察官の耳に入っている。ニュースにもなった。直接的な犯人も捕まって後は割れている首謀者をどう捕まえるかだ。それにお前等が首を突っ込んでくる意味が解らない。」
杏はジーッとりんごを見る。
「……目覚めが悪いのよ。」
りんごが口を開き発した言葉に杏はクエスチョンマークを浮かべるもゆすら達は同意の意志を見せる。
「蜜柑と果鈴が幽霊にまでなって現れた。それは私達に事件のことを思い出させながらその事件自体を解決させて、目的である父親の逮捕を望んだ。でも、現段階では父親を逮捕するのは不可能だと言われたも同然。そんな状態でまた二人が目の前に現れたらって思うと目覚めが悪いわ。どういう形で、私達に何かしらの影響が出ようともこの事件はちゃんと解決して有耶無耶になっているものをすべて公にしないと…そこで、今一つ目の疑問」
りんごはメモを取りだし描きだす。
「島に行って気になったのは中絶された子供の父親よ。おじさんは左遷に合っているのにおばさんはゆすらの病院で何度も手術を受けている。そうなると中絶された子供はおじさんの子供ではないのは明らかよ。」
そう言って『中絶された子供の父親』とメモに書く。
「二つ目にずっと気になっていた私を殴った共犯の人間。これはリュウのお父さんが知っているかもしれないから聞いといて」
メモに『殴ってきた人』と書く。
「三つ目に裏切られた。この言葉の真実よ。どこをどう裏切られて双子を殺さなくてはいけなかったのか。」
『裏切られたという言葉の真実』
「四つ目にリュウを冷凍した人間とその理由。あのまま放置しておいても問題なかったはずよ。これは吾のお父さんが知っているかも、そんなようなそぶりがあったから」
『リュウの冷凍したいの意味』
「五つ目に…」
「多いな…」
杏がつぶやいて遮る。
「五つぐらい調べてきて着てよ。で、五つ目は…」
で今後は携帯の着信に遮られる。
りんごは画面を見てすぐに出た。
山根からだ。
「もしもし、何かありましたか?」
りんごが
「それが日曜日の昼から立花さんが行方不明なんです。まさか連れ帰ったってことは?」
「そんなことするわけないじゃないですか…」
双子の母親が行方不明になってしまった。
そこでりんごは五つ目のところに双子の母親行方不明と書いてみんなに見せる。
「そうですか。患者の中にはよくいるので島内をもう一度調べて見ます。」
そう言って切られた。
「行方不明ってどういうことだ?」
隣のゆすらが聞いてくる。
「日曜日の昼、丁度私達が島を出たような時間から姿が見えないそうよ。お金がないからフェリーには乗れないでしょうし、島をもう一度調べてみるって言ってたわ。」
「それは気になるな。こっちでも県警に聞いてみる。それとこれもな。」
そういって杏はメモを持って会議室を出ていった。
それから数日、以前聞いた当時の話と何か違いはないかなどを度々確かめるためにりんごは警視庁に足を運んでいた。
桃子はマネージャー監視の元仕事をこなしている。
ゆすらはなぜか毎回りんごについて警視庁に来ていた。
記者の林とは今日、警視庁の近くで会う約束をしているこの日、杏に頼んでいたことがいくつかわかった様子であった。
「まず、リュウの冷凍遺体だが、吾の親父さんに聞いたら自分が見つけたときにはもうあの状態。あの日あそこにいたのは偶然リュウに合い、疑問に思いプレハブに行ったらりんごに出くわしたって言ってた。」
「それじゃあ何も解ってないじゃない。」
「そもそも幽霊の時点でいろいろおかしいんだよ!」
疲れ切った顔の杏がいう。
「ほかは?」
「ああ、裏切られたの意味はリュウの親父さんが覚えていた。」
そういうと真剣な顔になり
「蜜柑と果鈴は母親がよそで作った子供を自分の子供と偽って届け出をした子供らしい。」
その言葉にりんごもゆすらも驚く。
「つまり不倫して産まれた子供ってこと?」
「そうなる。これは俺の勝手な想像だが双子の母親が双子にこだわるのはもしかしたら蜜柑達の本当の父親に関係あるのかもしれない。それに中絶された子供も同じ父親って可能性もある。」
「いろいろ出てき過ぎて面倒ね。」
「そうだな。」
りんご時計で時間を確認してから続ける。
「それでおばさんの行方は? 病院からは警察も加わって捜索しているとしか聞いてなくて、そこから先連絡ないのよ。」
「俺の方には報告しか上がってないが、まだ見つかってないようだ。島を出た可能性も高くなってきたから捜索範囲を本島にも伸ばしたらしい。」
「発見は難しそうね。」
三人溜息をつく。
「時間気にてるってことは何かあるんだろ? 今日はもう帰っていいぞ。」
「そうする。」
りんごとゆすらは立ち上がり他の警官に挨拶してから出た。
警視庁近くの喫茶店。
予定の時間まであと三十分はある。
「ゆすらのところで中絶したならその辺のデータとないの?」
「一昨日警察が来て聞いてきたが、カルテが合ってもそういうのは調べたりしない限りデータは残らないからな。当時はそんな疑いなかったからDNAなんて物は残ってない。」
店員にコーヒーとケーキスタンドを二人分註文する。
「話をまとめるとこうなるわよね。」
事件の一か月前にリュウの父親は双子の父親にリュウの今後について悟られた。
リュウの父親はリュウを手放すなんて考えられず
『施設に入れて面会に行く。』
なんて考えは浮かばなかったのだろう。
お金の問題と解釈し、双子の父親からの殺人依頼を了承、双子の誘拐殺人の計画を双子の父親から聞く。
そもそも事件の発端が双子の母親に不倫されたようでそれに気が付いた父親の方が自分の子供でなければ殺してしまえ、なんて考えを持ったかどうかは推測だが、それにより殺害計画が立てられたと思われる。
事件当日、リュウの父親の話によると蜜柑が家を出たのを確認して先に捕まえようと考えたが通り掛かった男が
『今日はピアノのはずなのに公園に何しに行くんだろう』
とつぶやいたのを聞き公園へ、そこで我が子と話しているのを見ているとりんご、果鈴と集まってきた。
子供達は大抵蜜柑や誰かの塾の時間で解散になることを知っていたためピアノの時間になれば一番近道である道を高確率で通り双子は帰宅すると思っていたらしい。
いざスタンバイしたところで知り合いの吾の父親に見つかる。
どうにか諭してこの場から消えたところ、予想よりも早く蜜柑が果鈴の手を引いて楽しそうに走ってきたのだ。
そこに
『蜜柑ちゃん、果鈴君』
と声をかけ車に乗り込むように言う。
だが二人は抵抗、どちらを先にやったか解らないが気絶させ車に積みこむ。
だがそこでまた予想外に道路にりんごが倒れたのだ。
近くにはリュウもいる。
そこでリュウを連れ車でその場を急いで移動する。
雑木林でためらいながらも双子を絞殺。
町を離れた。
三日後、犬の散歩中の住民が異臭を通報、事件が噂として広まって行った。
警察が目撃者を捜しているところ吾の父親がその日りんごの倒れていた道を通ったといったためその時の状況を聞く。
その報告を双子の父親にしたところ吾の父親は警視庁に呼ばれた。
一対一で事情聴取を受けた。
その時録った物などは封筒に封がされ、時効まで開けられないようになった。
事件の内容を双子の父親は芒目、吾の義父に話し封筒を託す。
その後、重大なミスを犯したとして左遷された。
事件はその後一向に進展を見せずに七年が経過してしまった。
林はメモと録音を取りながらりんごとゆすらの話を聞いていた。
「その話に嘘はどこにもないんだな。」
「曖昧な部分はあるけど嘘や噂で聞いたことは含まれないわ。」
りんごはおかわりのコーヒーを口に運ぶ。
「その被害者の父親が首謀者って言う決定的な証拠がないとな…」
「だから、貴方に頼んだんじゃないですか。まずはおばさんの不倫相手を見つける。それには立花家に当時出入りしていた人、おばさんが出かけ先でそういう施設を利用していないか、していた場合誰と一緒だったか、それが誰なのか。一人なのか複数人いたのか。調べられるでしょ?」
「ムチャいうね…」
林は苦笑いをする。
「無理だっていうならこの話はなしにして他の人に頼みます。警察の大スクープなのに、勿体無いですね…」
相手が困っている顔をしているのを見てりんごはもうひと押し必要かと考える。
「実はこの事件随分と可笑しなところもありましてね。多分この話を他の記者に話すと飛びついて独占してしまうような話なんですが…」
「わかった。話受けるからその話もお願い!」
ネタになることがほしい魚には少しずつ餌を吊るし、引っかかっても放置しておく、針が食い込んだ魚を狙って大物が掛かるかもしれないからだ。
事件後七年たってから立花蜜柑を名乗る女子高生とその兄果鈴を名乗る新任高校教師が高校にそれぞれ現れた。
しかもその人物たちはリュウとのつながりが噂される人物である。
町では何度か三人がともにいるところが目撃されている。
夏休み、りんごは何者かに誘拐される。
りんごはそこで女子高生と高校教師に合っている。
二人に誘拐に会ったのは明らかである。
その後発見され一度病院に入院するも翌日の明け方、再びりんごは桃子と共に誘拐された。
その際使われたトラックにはりんごのメガネが残されていたがここで問題が生じる。
りんごがメガネを無くしたのは一回目の誘拐の時、それが二日目の誘拐で使われたトラックにあったというのは一回目と二回目の犯人は同じで、移動手段も同じだったと言うこと。
つまり犯人は女子高生と高校教師、そしてリュウの三人であると思われる。
だが、二回目で誘拐され監禁されたのは正真正銘双子の祖父母の家、数年前に火事に合っていたが焼き残った本棚の裏に地下室への入り口が発見された。
つまり事件には立花家に詳しい人物もかかわっていると言うことである。
夏休みが終わり平然とした顔でりんごと桃子の前に現れる犯人とされる二人、そして放課後にはリュウが桃子の家に現れる。
誘拐の時に奪った携帯を返しにしたようで走って逃げられる。
その後を追って行くとかつて石田親子の住んでいた遊園地跡地のプレハブ小屋に、そこ中ではもう何カ月も前に死亡し、一度冷凍、解凍されたリュウの死体が発見された。
犯人は不明なままである。
「つまり石田リュウも本人じゃなかったってこと?」
「そうなります。ですが私達は皆、彼をリュウだと思っていたんです。」
可笑しな話をしているが真実なのだから仕方ない。
「何で君は誘拐されたの?」
「予想では誘拐現場の目撃者だったからだと思われます。」
また難しい顔をし出すためりんごは話を続けた。
その後しばらくは何も問題は起きなかった。
だが、りんごとゆすらの誕生日をみんなで祝う。
その話をどこから聞いたのか女子高生と高校教師は参加したいと言い出した。
今までのような危害を加えるつもりはない。
その言葉を信じ承諾するもその日リュウの父親が自首。
二人は意味深い言葉を残し、姿を消した。
林は自分がメモした物を見ながら頭を抱えた。
「で、その意味深い言葉とは?」
「『これであの人も捕まる。あの婆も死ねばいいのに』って」
りんごがそういうとまたクエスチョンマークを浮かべる。
「あの人って言うのが双子の父親、婆っていうのは今のところ予想では母親だと思われます。」
「理由は?」
「おそらくこの蜜柑は母親が自分達を不倫の末に産まれた子供だと解っているのではないでしょうか。それ以外に婆なんて呼ばれるような女性は見当たりませんからね。」
林は腕を組んでメモを読み直す。
「で、今その二人は? あ、三人か。」
「皆行方不明です。強いて言うならリュウだと思っていた人物は彼の死体が見つかった直後から、双子は犯人が警視庁に移送された直後、学校でも可笑しな話その存在自体が消えているためこの辺の話はあまり詳しく聞かないでください。」
「逆に気になるよ!」
やけに興奮したように林は来た。
オカルト話が好きなのだろうか?
「桃子の話では立花蜜柑の代わりに根暗な女子生徒がいたそうです。私達の担任も果鈴と変わって移動した教師が平然とした顔で皆に馴染んでいました。二人の存在が消えたんですよ。リュウの時にはバイト先の人が覚えていたって言うのに」
「つまり幽霊だったって可能性があるの?」
楽しそうである…。
「そうですね…。私達はそう考えていましたがこんなふざけた話ないですよ。」
「記事にはかけないけどいいねそれ、私は好きだな。」
りんごはこの人で良かったと胸を撫で下ろす。
こんなふざけた話、嘘だと思われてもおかしくない。
「ほかに解ったらまた連絡して、次の取材あるんだ。」
そう言ってルンルンといった様子で林はレシートを持って行ってしまった。
「帰ろうか。」
「そうだな。」
喫茶店を出た。
その時りんごは誰かの視線を感じて振り返るも誰もいなかった。
「どうした?」
「うん…誰かに見られてたような…」
「蜜柑達かな?」
そうかもしれない。
監視しているのかも、そう思って帰路についた。