7-2追うほどに遠のいて行く真実
夜間バスに乗り込みやっと携帯の充電が出来た三人。
そのまま睡眠に入りカーテンの隙間からの朝日で目を覚ました。
「もうすぐ着くわね…」
りんごは一人つぶやいた。
駅でバスを降りると南と言えど日本海側のせいか寒かった。
「もう少し着てくればよかった。」
「仕方ないわ。とにかく行きましょう。」
りんごは吾が受け取ったメモの住所近くまでのルートを駅員に聞く。
すると電車に乗りバスで船着き場へ、そこからフェリーだと言われた。
「どれだけ遠くの病院にやったんだよあの医者…」
ゆすらは顔見知りの医者に文句をいう。
「仕方ないわ。お父さんに連絡してくる。」
あまり携帯の充電を減らしたくなくりんごは公衆電話に入る。
しばらくそれを見ていた三人のもとにりんごが戻る。
「お父さんなんだって」
「月曜は休みにしたからフェリーで戻ってきたらまた連絡しろだって」
吾に聞かれ返す。
その後電車を乗り継ぎバスに乗り換えやっと海の見えるところに着いた。
「あの、一番遅い便って何時ですか?」
船着き場の係員にゆすらが聞く。
「これが最終だ。島に一泊するか、今日は止めておくかだな。」
と言われる。
「一泊ぐらい問題ないわ。」
そうしてフェリーに乗った。
秋晴れの空の元、海がキラキラと光るもそれを楽しく眺めるほど四人には余裕はない。
一時間ほど揺られ島に着いたのは昼過ぎの事であったがふと何も食べずにここまで来たことを思い出す。
「一先ず宿ね。」
桃子は島民に話かけた。
「あの、この島に宿とか泊まるところってあります?」
そういうことはちゃんと調べてから来るべきであった。
「病院の近くにあるよ。なに、家出かなにかか?」
と言われるも
「病院の知り合いに合いに来たんです。」
と桃子は話す。
「ならちょうどいい。あの宿に泊まるのは大抵患者の家族だからな。」
道を聞き島民と分かれた。
その間りんごは興味深く当たりを見渡し散策していた。
「りんご! 病院と宿わかったから行くよ。」
「うん。」
りんごはふと誰かとぶつかる。
「すまない。」
「いえ、私こそよそ見してて、すみません。」
優しそうな男でよかった。
だが、島民はなまりのある口調だが、男は標準語であった。
それに寒いとはいえまだ早そうは手袋に目深に被られた帽子、髪は長いが声は男である。
りんごはそれを気にしつつも患者の家族かもしれない。
と、癇癪して桃子たちの元まで行く。
小高い丘と言うか岩壁の上の病院はあった。
そこまで舗装された道を歩く。
道中に小さな宿を見つける。
「すみません。」
桃子が声をかける。
「はあい。」
と奥から年配の女性が出てきた。
「突然なんですけど、部屋有りますか? 四人なんですけど」
「有りますよ。四人一緒にします、それともお二人ずつ?」
女性はりんご達が男女二人ずついるのを見て聞く。
「どうする?」
りんごがゆすらと吾に聞く。
「どっちでもいいけど」
と吾が答えるも
「別々が良いだろ、普通…」
と言うため二部屋取ることになった。
民家と言ってもおかしくない宿の二階に通される。
「こちらと、あと向かいのこちらをお使いくださいな。」
食事の時間やお風呂について話すと女性は一階に下りて行った。
片方の部屋に集まり
「病院には今から行く? それとも明日?」
桃子がりんごに聞く。
「ここまで約二十時間。月曜日までに帰るのを考えると明日のこの時間に出ればいいんだけど帰りは車、電車に比べて時間かかるわ。」
「電車で寝過ごすのを考えると車がいいもんね。」
りんごが持ち物からノートを出し説明する。
「ならここを午前の便で出ないと間に合わないな。だが病院に今から話を聞きに行っても面会時間をオーバーするかもしれない。」
ゆすらもノートに書き込む。
「なら今から一先ずおばさんがいるか確かめて、朝一で面会、時間までに話を聞いて帰るってルート?」
「その時間までに聞き終わればいいんだけど…」
りんごが吾の考案に不安を唱える。
「だが今から居るかどうかの確認だけでもしておいた方がいいだろうな。」
ゆすらが立ち上がるためそれに続いて三人も立ち上がった。
一階に下り女性を見つけると
「病院に行ってきます。」
と声をかけると、お気をつけて、と返って来た。
再び緩やかな坂道を登って行く。
「この坂ってお年寄りにはきついわよね。」
「仕方ないさ、海辺では高波の心配がある。山のような地形のここは斜面が多いからそこに立てるよりも平地である丘の上の方が安定した地盤があるからな。」
「ゆすらってなんでそんなことまで知ってんの?」
桃子が訪ねる。
「地理の授業で話題に出たから先生が説明してくれたのよ。昔、斜面は地すべりの可能性があるから主要施設を建てるのに適さないってことで無理にでも平地に立てるようにしていたって、それを聞いてしばらく携帯で調べていたみたい。」
「よくやるわね。」
ゆすらは黙ってもくもくと坂道を登って行ってしまった。
坂を上りきると空が近く感じた。海が低い位置に見えるせいだろうか。
病院に入ると一般診療の受付にはほとんど人はいなかった。
この辺の島からフェリーで来る人がいるが今日の最終フェリーは出てしまった。
患者は少ない時間なんだろう。
「どうかしましたか?」
若い人が珍しいのか看護師が話しかけてきた。
「あの、精神科病棟に立花という女性が入院しているって聞いてきたんですけど」
吾が聞くと看護師は驚いた顔をする。
「立花さんの面会ですか……ちょっと待っていてください。」
そういうと診察室に入って行った。
しばらくして出てきた男性医師。
「もしかして立花さんのお子さんですか?」
「いえ、立花さんの子供の同級生です。」
医師は困った顔で
「そうですか…。それが立花さんは若年性の認知症を発病されていましてご家族でないのなら」
と言われるも
「認知症の度合いは?」
ゆすらが聞く。
「俺、立花さんがここに来る前の病院の医院長の孫で彼女の事よく聞いていたんです。」
嘘である。
ゆすらは関わるのを拒絶していた。
「そうですか…。こちらでお話しましょう。」
そう言って談話室に通される。
「個人の事のためあまり詳しく話せないのですが今日はどういった用事で立花さんに会いに来られたのですか?」
「彼女の子供は七年前、誘拐に合い数日後に死体で見つかりました。彼女その頃から精神的な衰弱が見られていました。双子の子供を望むことで何度も妊娠しては中絶を繰り返していたのでそれも悪化させる結果につながったと思われます。」
スラスラとゆすらが当時の双子の母親のことを述べていく。
「そうですね。こちらへ来る際にある程度の訳を聞いているんです。ですがお子さんが亡くなっていたとは…」
「聞いてなかったんですか?」
りんごが聞く。
「はい。双子の子供がほしいという強い欲求から何度も妊娠と中絶を繰り返しこのままでは命の危機も迫っている。隔離を目的としたリハビリをお願いされました。」
「誰に?」
医師の話では家族の同意がなくてはできない行動が含まれている。
「立花さんの弟さんにです。合ったことありませんか?」
皆目を合わせるも記憶にない。
「私達はちょっと…」
りんごが答える。
「それで立花さんは回復したんですか?」
吾が聞いた。
「回復はしました。ですがここ数年若年性の認知症の症状がみられる日が日に日に増して行きまして今では看護師や医師の顔もよく理解していないようなんです。」
そうなると聞きたかったことが聞けない。四人はそう思った。
「立花さんは今まで子供について話すことは有りませんでしたか、旦那さんの事でもいいんです。」
桃子が聞くと看護師が
「お子さんにはよく謝るようなことを言っていたのを何人も聞いたことあるそうよ。だから自分を責めているんでしょうねって話をしていたことがあったわ。でも旦那さんについて聞くとすごい形相でなにか言っていたんだけど聞きとれなくてね。」
と言った。
「もしかしたらおばさんおじさんが犯人だって知ってたんじゃ」
「そうかもな。そもそも妊娠と中絶を繰り返していたって言うがその時にはおじさんはもう左遷で離れ小島だ。中絶された子供の父親が解らない。」
若いわりに真剣に考える姿に
「一目でもあって行きますか?」
と医師が言い出す。
「そうですね。ここまで来たことですし」
吾がそう言って立ち上がるのに皆もついて行くがりんごだけはワンテンポ遅れて動く。
病室は個室らしい。
ほかの患者へ危害に加えることがあるという。
もともと重度の精神治療中の患者が多いところ、ストレスをできるだけ感じないように町から離し、自然の多い環境にいるのだ。
そのため個室も狭いながら多く設置されている。
「こちらです。」
室内にはぼおーっとした顔の双子の母親がいた。
だがその顔はりんご達を見るなり凶変、ベッドから降りりんごの首に手を伸ばす。
「お前が殺したんだ!」
りんごは驚き動けない。
隣にいたゆすらがそれを見てりんごを引き寄せる。
「おちついてください立花さん。」
看護師がベッドに無理やり戻す。
医師が
「今のうちに外へ」
と誘導する。
「時々看護師にもああいう行動をとることがあるんです。顔見知りなら大丈夫かと思ったんですがすみません。浅はかでした。」
医師は頭を下げた。
「いえ、彼女は前から私のことをそう言っていたので、私、彼女の子供がさらわれるところを見て置きながら頭を打ったショックでそのことを忘れていたんです。」
「でも、りんごが目を覚ましたのは双子の死体が見つかった後だ。りんごが責められる理由はない。」
ゆすらがフォローする。
その横でりんごはカバンからメモを取り出し何かを書き込む。
「これ私の番号です。立花さんのことで子供や旦那さんについて何か言っていたら連絡貰えますか?」
「わかりました。念のため私のも」
と医師の名刺をもらう。
この医師は山根というらしい。
「それじゃあ、なんか疲れたし宿に戻ろうか。」
「そうだな。おばさんから話聞けそうにないし、明日は午前のフェリーに間に合いそうだな。」
桃子と吾がそう話すの聞き山根は
「そういえば君達だけで来たのかい?」
それにゆすらが答える。
「はい。一昨日、立花さんの子供、俺達の同級生を殺した犯人が捕まったんです。でも、話によるとその殺人を依頼したのが立花さんの旦那さんで、もしかしたら立花さんはその事を知っていたのではないかと思って訪ねたんです。」
「立花さんは旦那さんに裏切られた被害者で旦那さんが加害者ではないんですか?」
「犯人は立花さんの旦那さんから聞いたようなんです。『裏切られた』と」
りんごが答える。
「そうなんですか。それで旦那さんのことになるとああなってしまうんですね。」
山根はどこか納得したような顔をする。
そこにエリーゼのためにが流れた。
「これは?」
桃子が聞く。
「面会時間終了の音です。まあ、この時間までいるのは週末に泊まりで来る人ぐらいで島民もほとんど帰った後なんですけどね。」
りんごはふと小学生の時のことを思い出す。
すると
「学校の下校の合図のこれだったね。聞くと帰らなくっちゃって思っちゃう。」
と桃子も同じことを考えていたようだった。
「それじゃあ、俺達もこれで」
そういうゆすらと共に歩き出す。
病院を出ると夕日が海に沈むのが見えた。
「どうする、明日も来る?」
桃子がゆすらに聞く。
「いや、おばさんから話が聞けないなら意味ないだろ。症状も聞くことができた。残りの人生はここで過ごすことになるだろうな。」
りんごがゆすらの隣りに並ぶ。
「じゃあ、今日はこのまま宿で休んで、明日一番のフェリーで本島に、そこから高速と一般道で約二十時間かけて帰れば朝には着くわね。」
「ねえ、思ったんだけど高速で帰ればそんなに時間かからないんじゃない?」
桃子が聞いてくるも
「バカ、日曜の昼間から夕方にかけて高速の上りは混雑するだろ。一般道も使わないと朝までには帰れない。お前バスとかで移動とかあるだろ。」
吾に言われ桃子は早歩きで坂を下る。
「移動中は台本か、寝てるかでどのくらいかかった何で覚えてないわよ。」
そう言って先に宿に入った。
少し遅れてりんご達も宿に入ると
「お帰りなさいまし、夕飯までお風呂やお部屋でお待ちください。」
と言われた。階段を上がりそれぞれの部屋に戻る。りんごはドアを開けたタイミングで桃子が
「お風呂行こう。露天風呂!」
「そんなのあるの?」
「うん、男湯にね。でも、今日私達しかお客いないからどうぞって」
りんごはしばらく黙ってしまった。
「どうしたの?」
桃子が聞く。
「それって男湯で脱衣しろってことよね。ゆすら達に言ってくるわ。」
「ああ、お願い。」
りんごは開けっ放しだった自分達の部屋の戸を一旦閉め、向かいの部屋をノックする。
「何?」
吾が出てきた。
「桃子が露天風呂に入りたいらしいから二人は後から入って」
吾はよくわからないという顔をして
「へ?」
という。
そこにゆすらも来る。
「どういうことだ?」
「露天風呂が男湯にしかないらしいの。桃子が入りたいらしいから私もそれに便乗するの。」
「だから後から入れってことか?」
りんごは頷く。
「わかった。夕飯までには出ろよ。」
了承をもらいりんごは部屋に戻る。
「良いって」
桃子に言うと
「洗濯機と乾燥機使えるって言ってたから着替えも洗っておこう。」
そう言って浴衣を渡された。
「そう、良かったわね。」
タオルはお風呂場にあると言っていたと桃子は言ってりんごを引っ張って行く。
男湯ののれんをくぐる前に宿の女性に声をかける。
「ごゆっくり」
と言われのれんをくぐる。
「洗濯機ってこれね。」
ドラム式の洗濯機が置かれていた。
「どのくらいかかるんだろう?」
「私達が上がってゆすら達が入るまでにご飯もあるし、その間に終わるんじゃない。」
「そうよね。」
と適当な予想の元脱いだ物を洗濯機に入れスイッチを押す。
そしてりんごと桃子は浴室に入る。
「ここ温泉じゃないんだって」
「今度は温泉行きたいわね。」
「そうなると三年になる前がいいよね。受験控えてると思うと行っても楽しくないし」
「そうね。」
そんな話をしながら髪と体を洗う。
露天風呂への戸を開けたときふとりんごは思う。
「そういえば港でぶつかった人ってどこ泊まってるんだろう?」
こんな小さな島に何件も宿があるとは思えない。
「どうしたの? 海綺麗だよ。」
遠くにほんのり明るい空が見える。
その下に薄っすらと海も見える。
「そうね…。」
島民だったのかもしれない。
とりんごは考えるのを止める。
海面と同じように湯船が潮風に波をたてる。
しばらくしてのぼせる前に二人は上がった。
「あ、ノーパンノーブラ…」
桃子は今更気が付いたような声を上げる。
「まあ、後一時間で終わるみたいだからその間だけの辛抱ね。気になるなら吾に会わなきゃ済む話でしょ。」
「そっちもね。」
素肌に浴衣という百数十年前の人のような恰好で出た。
「言わなきゃ解らないわよ。よかったわね。ここに私達だけで、あの林って記者が居たら大スクープよ。」
何せ女優がノーパンノーブラで友人と小島に来ているのだから、小島と言えど観光地ではないが
「ついて来てたりしないわよね?」
「フェリーに乗るまでの私達の無理やりなタイムスケジュールに合わせるのは至難の技よ。」
電車はほぼ分刻みの乗り換え、夜行バスも予約なしでどうにか頼み込み乗せてもらったという感じ、それに便乗するのは難しい。
フェリーの客の最後であった。
部屋に戻り携帯の充電を始める。
りんごの携帯画面には二十件の着信と五十を超えるメールが来ていた。
「兄さんたらストーカーレベルね。」
りんごは桃子に見せながらいう。
「ここまで来たら連絡取ってもいいんじゃない?」
「そうよね。」
携帯を耳にあてる。
するとコールが聞える前に
「今どこにいる!」
と怒鳴る声が聞えあわてて耳から放す。
「立花のおばさんの入院している病院のある島よ。」
のんきな声で答えるりんごに杏は
「そういうことはもっと早く言え!」
「言ったところで解決するまで待てって言いかねないからね。安心して、帰りはお父さんに送ってもらうから」
「…そうか、何時頃こっちにつくんだ?」
「多分月曜日の朝」
杏がしばらく黙る。
返事を待つりんごも黙る。
「学校には間に合うな。」
「そうね。だからその後そっち行くわ。気になることも増えたし」
「気になること?」
「おばさんが中絶した子供の父親が誰なのか。おじさんはリュウのお父さんに裏切られたって話したらしいから、もしかしたら何か関係あるのかもしれない。」
杏は解った。
気を付けて帰ってこい。
というと電話を切った。
「杏さんなんだって?」
「気を付けて帰ってこいだそうよ。」
そこに戸の外から声がする。
「失礼したします。お夕飯なのですが四名様ご一緒にされますか、それとも別々に?」
とゆすら達に聞いているようだった。廊下の声は筒抜けのようだ。
「一緒で」
とゆすらが答えた。
「ではお運びいたしますね。」
女性が階段を下りていく音と廊下に新たな足音
「戻って来てるんだろ?」
ゆすらが戸を開ける。
「夕飯でしょ。聞こえてたわ。」
りんごと桃子は立ち上がり気付く、思ったより早かったと
「着くずれ直したらそっち行く。」
と桃子が言ったためゆすらは戸を閉めた。
「りんご、出来るだけきつく締めて」
「食べ物はいらなくなるわよ。」
そういいながら表の合わせ目を確認して帯を締める。
食事は運ばれている音がした。
りんごも襟を直して隣りへ移動した。
夕食後、ゆすらと吾がお風呂へ行くと聞きりんごと桃子は急いで服を回収。
就寝した。




