7-1追うほどに遠のいて行く真実
追うほどに遠のいて行く真実
誕生会が始まってしばらく杏の姿がない。
だがそれを誰も気にする様子もなく会は進んでいくためりんごは杏の奥さんに聞く。
「兄さんは?」
「みんなが来る少し前に上の人に呼ばれちゃって、すぐ戻るとは言ってたんだけどね。」
「そうですか。」
と話していると
「りんご!」
蜜柑が呼んでくる。
「何?」
そう答え杏の奥さんの隣を離れる。
「これ、プレゼント!」
そう言って渡してきた包みを受け取り
「ありがとう。」
「早く開けてみて」
蜜柑が急かすため包装を開ける。
中にはインスタントカメラと写真立てが入っていた。
「今日の写真いっぱい撮ろう。」
「良いわね。」
返事を返すとすぐにゆすらの元へ蜜柑は行き、同じようにカメラと写真立てを渡していた。
二つのカメラを杏の奥さんに渡し六人がフレームに入る。
次に桃子はりんごとゆすらの前に来て
「はい、これ」
と同じ包装をされた物を渡す。
が、
「あれ、もしかしてりんごとかぶった?」
桃子はゆすらの時計を見ていう。
箱を開ければメーカーやデザインは違うものの時計であった。
「ペアの物を送ろうと思ったんだけど…しくじったな。」
「余計なお世話。」
桃子の言うことにりんごとゆすらの返事が被る。
それを聞いてりんごは
「私のは安物だし桃子のを使うといいわ。」
りんごはそういいながらゆすらのもらった時計を見る。
それは以前ゆすらがつけていた物。
「りんごのは大事にしまっておくよ。せっかくのペアなんだし」
ゆすらはそういうも浮かない顔である。
「その顔は聞いてほしいって顔ね。このペアの時計、誰としてたの?」
桃子も罰の悪い顔になる。
「中学の時にもらった物で使い勝手がよかったから気に入ってたんだ。だけどペアの物だって知らなくって、壊れてから探してたんだよ。見つからないわけだな。」
と苦笑いする。
そこで桃子が
「りんごはゆすらから何もらったの?」
話を替えようとするも
「もらってないわ。」
と斬られる。
「何で上げてないのよ!」
桃子はゆすらに言い寄る。
すると
「実際の誕生日は明日だから帰りに渡そうと…今渡すよ。」
とカバンを漁る。
その中には紙袋に入りきらなかった自分宛のプレゼントが入っている。
「はい…」
ぶっきらぼうに渡される。
それを受け取りりんごは開けた。
「髪留め?」
中には赤いガラス玉と花をかたどった髪留めが入っていた。
「いつも邪魔そうに耳に掛けてたろ。」
桃子が髪留めをりんごの頭につける。
それをみて吾が
「よかった。俺とはかぶらなくて」
とりんごと吾にそれぞれ包みを渡す。
「ブックカバーとしおり、ゆすらのは色違い。」
「いつも思うけど小さい時から吾は色違いを選ぶわよね。」
「人に物を買うなんてこのメンバーぐらいだから何買っていいのかよくわからないんだよな。」
と吾は言った。
似たような趣向を持っているメンバーゆえにかぶることも多い。
そのため違うものを選ぶよりも効率はいい。
みんなの輪に果鈴が近づく。
そしてりんごの髪に振れたためりんごは視線を向ける。
「似合ってるよ。」
果鈴はそういうも次の瞬間りんごは
「痛い!」
と声を上げ視線が集まる。
果鈴がりんごの髪からゆすらが上げた髪留めを無理やり外したのだ。
そのため髪が絡んで何本か抜ける。
果鈴は髪留めを強く床に叩きつける。
髪留めはその衝撃で変形し、ガラスが飛び散る。
それを拾いうとりんごは屈もうとするも果鈴に肩を掴まれ引き寄せられる。
空気が止まる。
そのタイミングで
「もうりんご達着てるよな?」
と言う声には誰も反応を返さない。
杏は何かあったのかと皆の視線の方向を見る。
するとそこでは自分の妹とどこか見覚えのある男がキスをしているのだ。
数秒固まっていたゆすらではあったが急いで果鈴の手をりんごから離し体も引き離す。
「どういうつもりだ果鈴。」
珍しくドスの聞いた声でゆすらが聞く。
りんごは未だに状況がよくわかっていない。
「プレゼントってよくかぶるよね。」
果鈴はそういいながらポケットから一つの包みをだしりんごの髪につける。
それはゆすらがりんごに渡した髪留めと同じものであった。
「好きだよりんご。あの日、そう言いたかったんだ。」
あの日とは事件があった日の事だろうか。
果鈴はりんごに話があるから早く来るように言ったが予想以上にみんなが集まってくる時間は早かった。7
りんごと果鈴の間に杏が入る。
「人の妹に何してやがる。」
こちらもドスの聞いた声で杏が言うも果鈴は笑みを見せる。
だが、その笑みは口元だけで目は笑っていなかった。
「久しぶり、杏兄ちゃん。」
蜜柑が桃子の後ろから現れ杏の前まで歩いて行く。
「いいじゃん。りんごは果鈴の事好きなんでしょ? ゆすらだって蜜柑のこと好きならそんなにりんごとくっつかないでよ。妬いちゃう。」
蜜柑が淡々と話す。
「そんなの昔の話でしょ、今は…」
「そういう桃子は一途だね。でもそんなんじゃ吾は振り向いてくれないよ。」
吾はよくわからない。
と言う顔をする。
それに桃子は黙ってしまった。
「みんな本当に馬鹿だよね。それよりここに来て一番にみんなに言わないといけないことがあるんじゃないの?」
蜜柑は杏を見ながら言う。
「……蜜柑ってことはやっぱりお前、果鈴なのか?」
杏は驚きながら二人を見る。
そして振り返り
「お前らの隠してることってこれか?」
りんごは飛んで行っていた意識が戻ってくる。
「まさかとは思っていたがやっばりりんごが一回目にさらわれた時に言っていた蜜柑ってのはやっぱりこいつらの事だったんだな。」
皆だまる。
それをただ見ているだけの杏の部下たち、
杏は向きを戻し
「お前らの聞きたいことってのは馬鈴警察署に石田リュウの父親が吾の親父さんに連れられて出頭してきたって話か?」
蜜柑は笑顔になる。
もちろん目はそのままに
「やっと来た。これであの人も捕まる。あの婆も死ねばいいのに」
蜜柑が歩きだす。
それについて果鈴も部屋を出ていった。
唖然と見送ってしまったりんご達は二人を追いかける。
廊下に出ると二人の姿はなかった。
だがその代りエレベーターからリュウの父親と吾の父親が警官に連れられ降りてきた。
「父さん……」
吾はじっと自分の父親を見る。
りんごはまっすぐリュウの父親の前まで歩いて行くと乾いた音が廊下に響いた。
「貴方が蜜柑と果鈴を殺すことをとどまっていたらこんな事にはならなかったのよ。リュウだって死ぬことはなかったはずよ!」
りんごの言葉にリュウの父親は深く頭を下げ、吾の父親もそれに続き頭を下げる。
「すまなかった…」
小さな声で言われるも
「私にあやまったところで何も意味ないのよ。蜜柑も果鈴もリュウももう死んじゃったんだから! みんなあんな姿になっちゃったんだら……」
りんごは涙を浮かべる。
双子もリュウも腐敗が進んだ死体で発見された。
リュウなんて人だったと思いたくないぐらいの体だった。
それは冷凍され炎天下のプレハブに放置された結果である。
双子の体も腐り出していたと聞いている。
事件の資料にも写真が載っていた。
ゆすらと桃子がりんごを廊下の壁際に寄せるとその横を二人は歩いて行った。
吾は自分の父親から視線を外さなかった。
誕生会はお開きとなった。
だが、りんごの言っていたことや吾の父親と言うことから事情聴取と言うことで泊まることになった。
誕生会のために用意されたピザやから揚げなどがそのまま夕飯になったがあまり喉を通らない。
りんごはふと、
「これ全部桃子が用意したの?」
と空気に反した質問をする。
「違うわよ。杏さんがお金は出してくれた。ケーキの一部はあたしと吾も出したけど」
そういいながらコーヒー片手にケーキにフォークを刺す。
りんごはケーキを食べながら
「気になることがあるのよね。」
と漏らす。
誰も何も言って来ないためそのまま続ける。
「私誰に殴られたのかしら、吾のお父さんはリュウのお父さんと話をした後にすぐその場から居なくなったって言ってたわ。そもそも私を殴って気絶させる理由ってないわよね?」
いちごにフォークを刺すとその下の生クリームがつぶれていく。
「リュウを見つけたあの日に聞いたのか、吾のお父さんから」
「…ええ、警察にもあんまり詳しく話してないけどね。」
りんごは髪留めを外しているためまた耳に掛けるしぐさをする。
「髪そのまま伸ばして置け、なれてないだろ。それに長い方が見慣れてる。」
「そうするわ。」
二人の会話をジッと見る桃子。
「吾のお父さんって何の罪で捕まったの?」
桃子はドラマにいくらか出ているものの刑についての知識はない。
「逃走を手助けしたことになるんじゃないかしら、でもそれは双子の父親が仕向けたこと、釈放される可能性もあるわ。でも吾は別の事でまた気に病むことがあるかもしれない。」
吾はりんごの言葉に視線を向ける。
「吾の今のお父さんは双子のお父さんの元部下。元上司がなにをしたのか知っている。これは証拠隠滅の罪になる。」
桃子とりんごが吾の父親から聞いた話はゆすらと吾にはあまり詳しく言っていないものの吾の義父から聞いた話や資料をりんごは見せてもらっていた。
「これで双子のお父さんも捕まる。」
「さっき蜜柑が言ってた婆って誰だろう?」
ゆすらの言葉に桃子が聞く。
「蜜柑が死ねばいいなんて思う人…」
りんごの手が止まる。
「事件が解決したって双子のお母さんにも連絡行くのよね。」
「だろうな。」
ゆすらも手を止め肘を付く。
「それがどうかしたのか?」
吾がりんごとゆすらを見て聞く。
「双子に関係のある女性なんて私達の親か、学校や習い事の先生ぐらいよ。その中でも桃子のお母さんとはほとんどあったことがない。ゆすらのお母さんともそんなに合う機会はなかった。そうなるとよく遊びに行った吾の家や私の家、後は双子のお母さんに限られるわ。三人とも何かしらの形で事件にかかわっている。」
「りんごの親は事件後だがな。」
「吾のお母さんもある意味事件後だし直接的なかかわりじゃないわ。」
二人の話に桃子と吾は何も言わずに聞いている。
「そうなると被害者の母親ってだけだけど双子のお母さんが一番関わっているのよ。」
「事件で死ねばいいなんて思われるぐらいだ。何かしらの関わりがあるのかもしれない。」
だが、事件後に双子の母親はりんごを目撃しているにもかかわらず忘れてしまっていることについて嫌がらせをするぐらい双子を喪ったことで狂っている。
そのぐらい双子を愛していた人を蜜柑は死ねばいいというだろうか?
時計が十二時を回ろうと言うとき会議室のドアが開いた。
「あれ? お父さん。」
桃子の義父であった。
しかもその後ろには
「義父さん…」
吾の義父もいた。
「四人がまだ残らされているって聞いたから」
と心配してきてくれたようだったが吾の義父の手には封筒が、それはゆすらと吾が見せてもらい、のちにコピーをりんごに渡した吾の実夫を聴取したときの資料であった。
そこに杏が歩いてくる。
「お久しぶりです。」
と二人に頭を下げた。
桃子の義父とも面識があるようだった。
「お子さんをこんな時間まで引き留めてしまって」
「捜査のためだ。それにこれを持ってきた。今度こそあの人が捕まるようだといいんだが」
そういいながら吾の義父は封筒を杏に渡した。
そして
「これが立花さんのいる病院の住所だ。」
吾に直接メモを渡してくる義父。
「合いに行くと前に行っていただろ。」
吾はそれを受け取る。
病院は他県にあるようだった。
「気を付けるんだぞ。」
そう言って杏と会議室を出ていった。
「土日で行ってみましょう。」
しばらく誰もしゃべらすにいた中またりんごが一番に口を開いた。
「行くって言うが遠いぞ。」
ゆすらが心配気に聞く。
「当てがあるわ。」
りんごは電話をしようとして現在の時刻を思い出す。
仕方なくメールを打って送信した。
「当てって?」
「多分近くに今お父さんがいるはず、行きは電車でも帰りは車にできるわ。ギリギリ月曜日の学校には間に合うはずよ。向こうで時間を取られなかったらね。」
意外にもりんごの携帯にすぐに返信が来た。
「大丈夫そうよ。」
「じゃあ、明日は学校が終ったら荷物を持って集合だ。」
事情聴取で残らされているにも関わらす四人は何も話すことなく朝が来てしまい眠たい目を擦りながら杏と桃子の義父の車に別れ学校に行くことにした。
本当なら休んでおいた方がいいと言われたが皆気になることがあった。
「ありがとう。」
教科書を取りにゆすらの家に寄り、今、りんごの家の前で降ろされた。
登校する生徒の視線がりんごとゆすらに集まる。
りんごは下着とワイシャツを着替え再びマンションの下に降りてきたころには遅刻ギリギリであった。
「走るぞ。」
「うん」
徒歩五分と言えど走らなくてはいけない時間。
教室に駆け込んだところで予鈴が鳴った。
「ぎりぎりだね。珍しい。」
廊下にいた苺が話しかけて来た。
「いろいろあってね…」
息を整えながら席に着くと教師が入って来た。
だがその人物は果鈴ではなく一年の時に担当していた、移動したはずの教師であった。
それにはりんごとゆすらが目を合わす。
「森野、さすがに机のそれはしまえよ。」
と言われる。
教師や急いできたことで意識が散漫していたせいか目の前の物に今更視線を向ける。
「良いな。俺も誕生日祝ってほしい物だ。」
とぼやく教師。
結局ホームルームに果鈴は現れず、その後の授業にもいなかった。
携帯の充電の切れている四人は今連絡を取る手段がない。
「果鈴の存在が消えた。」
「記憶も元通り…」
当たり前の日常が戻ったのだが、それは今となっては当たり前と認識できないレベルのものとなっていた。
放課後、ここ数日のゆすらと同じように大量の荷物となったりんごは早々に、ゆすらと学校を出る。
集合は馬鈴駅である。
そのためゆすらとは一旦別れる。
りんごは動きやすい服に着替え荷物を持って家を出る。
ゆすらも家に帰り
「しばらく事情聴取があるから」
と嘘をつき着替えて出ていった。
それは桃子や吾も同じで駅に着くなり
「マネージャーに警察に呼ばれたって言ったら驚かれたわ。」
「でしょうね。」
吾の家より駅に近い桃子が先に来た。
「蜜柑がやっぱりいなかった。変わりに根暗な子が座っていたわ。」
「こっちは移動したことになってた教師がいた。」
二人が柱にもたれ掛り話しているとそこに
「桜井桃子さんだね。」
と男が寄ってきた。
「何か?」
不振がりながらりんごが聞く。
「そんなに警戒しないで、俺は週刊誌の記者をしている林っていう者です。」
そう言って名刺を渡してきた。
「で、その記者さんが何かよう……写真撮ってたの貴方?」
桃子はいつかのシャッター音を思い出す。
「援助交際や二股や芸能人としてはネタが多そうだからね。今はその裏取り」
その言葉にりんごは桃子を見るも桃子は首を傾げる。
「もしかしてお義父さんといるのを援助交際と間違えてません? あと二股ってあの時いたのはこの子の彼氏であたしの友達です。」
「彼氏ではないわよ…」
りんごは冷静に桃子に言い返す。
そこに
「おまたせ!」
と吾が来る。
「違う違う。二股はこの子とあの時の子。」
「誰だそいつ」
と今度はゆすらが自転車で来る。
「記者だって、なんか勘違いしてるから話してたの。二人とも友達です。あと、今あたし達の近くにいると警察に捕まるわよ。」
桃子がそういうと林は驚いた顔をする。
「なんで?」
それにはりんごが
「私の兄が警視庁の警部でこの子の父親が馬鈴署の署長なんです。」
りんごが吾を指しながら話す。
「援助交際と間違えてるあたしのお義父さんも警察関係者よ。それに今ちょっといろいろあってね。捕まりたくなければ記事は書かずにここから立ち去るのが賢明よ。」
そういうと少し悩んだ顔をして
「やっぱりガセか…」
と肩を落として歩いて行った。
「事件はもうほぼ解決だから警備はついてないけどね。」
りんごがつぶやく。
「とにかく行きましょう。新幹線が取れないと夜間バスは途中までしか行かないから」
桃子は携帯を見ながらいう。
「充電あるの?」
「学校で充電した。」
「盗電ね。」
そんな話をしながら電車に乗る。
都心に出るものの週末の新幹線は満席、この時間からなら電車で移動して違う駅から夜間バスに乗れば朝方までには目的地に着くことが解った。




