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新たな仲間

 廃墟に到着すると、サヨはまず老爺へと自身が煎じた薬草を渡した。

 彼女は兵の国にいた頃は、入手困難ではあるが即効性があるという代物ばかりを取り揃えていたが、カイが見たところ現在はごくごく平凡な薬草を取り扱っているようである。

 そのため、以前のように飲んだ瞬間から効果が表れるという事はないが、この日渡した分を一週間飲みきれば、あとは自然回復力でどうにかなるらしい。

「さっき、この爺さん咳き込んでいたぞ。本当に大丈夫なのか?」

 と、エレグが彼女に言うが、

「まだ完全には治ってないですからね。ただ、今週飲み続ければ大丈夫なはずですよ」

 と自信ありげに返すので、取り扱う物が変わっても薬師としての腕は衰えていないようである。

 その後、老爺はサヨにお礼を言い、自身の家へと帰って行った。

 その際、エレグが付き添いで彼について行ったので、廃墟にはカイとサヨの二人きりとなった。カイはエレグから

「俺が爺さんを送っている間にある程度説明を済ませておいてくれ」

 と、言われていたが、彼女と会うのが久しぶりすぎて何から話せばいいかわからなくなっている。

 そのため、彼からではなく、

「それで、ただ私に会いたいがために来たわけではないですよね。どういった理由があってカイ君は私を訪ねて来たんです?」

 と、サヨから話を切り出した。

「単刀直入に言うと魔王を姉さんに倒して貰いたい。魔王の存在は昔から知られているが、どういったものかははっきりしない。ただ、伝説通りだとそれを倒さない限り魔物は発生し続けるって話なんだ。俺が出立した時点で、兵の国はジリ貧になっていた。もしかしたら、城はもう乗っ取られているかもしれない。そうなった場合、取り返すには姉さんの協力が必要だ」

「なるほど、その侵攻がかなり進んでしまった結果、形成を逆転するには私が魔物の王を倒す以外無いと父上は考えたんですね」

「ああ、そういうことになる」

 サヨは少し考えた。

 弟の頼みである上に、母国の平和がかかっているので協力してあげたい気持ちも勿論あったが、少々勿体無い気がしたのである。

 魔王を倒せば魔物は消えるとのことだが、逆に魔王を残しておけば、敵を勝手に生み出して世界中に飛ばしてくれるため、延々と戦闘を楽しむことができる。さらに、これまで彼女は戦って倒した相手をわざと逃して、彼女への憎しみや怒りをバネに成長させ、成長しきって彼女に再戦を挑んで来たところを全力で相手するという方針をとっていたが、魔物の中には最初から常識外れに強い個体もいるためその手間がかからないのである。

 悩んだ末結局、どちらを取るかはカイに任せることにした。

 具体的には、

「この国には王家の大剣という物があって、それは王か英雄にしか扱えないという話があるんですよ。それをカイ君もしくはカイ君の友達が扱うことができれば英雄の仲間として同行しますよ」

 というものである。

「しかし、仮に剣を扱えたとしても持っていくことはできるんだろうか。この地域では数少ない観光名所になっているんだろ?」

「流石にあなた達のどちらかが剣に選ばれれば持っていく許可も貰えるでしょう。この国も魔物の被害は受けていますしね。それで、どうします? やりますか? やめておきますか?」

 これを承諾してしまえばカイも魔王と戦うことになってしまうが、背に腹は変えられないので承諾した。

 ただ、この日はもう遅いので、『王家の大剣』が突き刺さっている北の草原へと行くのは明日にした。

 その後、帰って来たエレグにもサヨは同じことを問うと、彼も承諾したので彼女はそのまま砂漠へと戻って行った。

 二人も翌日に備えてもう眠ることにした。

 敵が廃墟に侵入すると物音を立てて二人を起こすという仕掛けを設置したので、以前のように交代で見張りをするということはせず、この日は両人とも休むことにしている。

 ただ、月明かりがやけに明るいせいか、なかなか寝付けなかったので、

「しかし、砂漠となると寒暖の差や毒虫、水不足、食糧不足とか色々と過ごし難いはずだ。何でお前の姉はそんなところに戻るんだろうな?」

 と、エレグはカイに話しかけてみた。

「……危険度で言ったらこっちも大して変わらないと思うけどな。……人間の怖さか自然の脅威かを選んで姉さんは後者を取ったというだけだろう」

 眠る寸前であまり頭は働かなかったが、それでもカイには彼女の気持ちが何となくわかった。

 兵の国にいた時点で彼女は毒が効かない身体になっているため、他国が刺客を放っても彼女を暗殺することはできず、且つ、大抵一人で過ごしていたため他人の裏切りや悪事に巻き込まれることが少なかった。仮に巻き込まれたとしても一人で全て解決できてしまうほどの力がある。

 そのため彼女にとって人間の怖さ全般があまり脅威にならないのである。

 町と違って過ごし難い砂漠は鍛錬にちょうど良いと考えたのだろう。

「それにしても、お前の姉は毒にもなれば薬にもなるような印象だったな。一応、悪い人間には見えなかったが、どうにも危険な匂いがする。お前には悪いがな」

 エレグはそう言ったが、既に寝息を立てていたカイには聞こえていない。


 翌日の昼頃、サヨが二人がいる廃墟へと訪ねて来た。

 二人は彼女を出迎えると、早速北東の草原へと向かって行く。

 廃墟とボロ家が入り混じる町並みを抜け、昨日の橋へとたどり着いた。

 そこへ来たことによってエレグには改めて気になった事がある。

「なぁ、サヨは既にこの町で一般の人間には感謝を、危なっかしい人間には畏怖されているようだったが昨日の連中は何で襲って来たんだ? お前に勝てない事は周知の事実になっていそうなものだが」

「今までは一度に精々、一人か二人をあしらっていただけですからね。大勢で囲ってしまえば勝てるだろうって目算じゃないですか? まぁ、確かに多勢相手はちょっと苦手ですけど、烏合の集を十人やそこら集めただけじゃそう簡単には負けませんよ」

「そう簡単には…か。あんた負けたことってあるのか?」

 この質問にはあまり意味がないことにエレグは言ってから気づいた。

 負けていれば彼女はその時点で死亡しているはずであり、今彼女が生きているという事は常勝無敗である何よりの証ではないか。

 しかし、

「ありますよ」

 とのことだったのでエレグは勿論、カイも驚いた。

 彼女はさらに重ねて、

「そもそも、私が本当に常勝無敗であれば、兵の国はあの島を統一しているはずですよ。それに個人相手でも風の魔法使いに吹っ飛ばされて死にかけた事もあります。あれは完全に負けと言っていいでしょう」

 と、照れくさそうに言うのである。

 確かに、彼女が兵の国にいた時分も、彼女が一軍を相手に戦っている隙にもう一軍を拠点へと侵攻させられてそこを落とされるという事はあったが、まさか一対一で戦って負けた事があるとはカイも思わなかった。

 ただ、腕が落ちたという訳ではないらしく、

「魔法に対応するための柔軟性も少し身につける事ができましたし、負けた経験もまんざら無駄ではありませんでしたけどね。ただ、少し柔軟性が増したというだけで相変わらず魔法相手は苦手ですが」

 とのことであった。

 そんなことを話しながら橋を渡り、現在貧民や賊の溜まり場となっている旧高級住宅街を進んでいく。

 ここを進むにあたって、カイとエレグの二人だけなら何度かスリにでも遭うところだろうが、この日はサヨが同行しているからか、誰も近寄って来ない。

 そのまま、愚者の城の近くを通り過ぎて、町外れへと出て、数年前にこの国の英雄が奮闘したと云われている草原へと出た。

 その草原は草が伸び放題になっているが、一本だけ細い道が北の方へと伸びていたので三人はそこを進んで行く。

 しばらく歩いて行くと少しだけ草が刈り取られた拓けた場所へと出た。

 そこにはいくつもの小さな塚があり、その近くに慰霊碑のような物と地面に突き刺さった巨大な剣があった。

 この大剣が『王家の大剣』と言われている物らしい。

「何か祀られているようだが、本当に勝手に触っていいのだろうか?」

 そうカイが疑問を呈していると、近くにあった小屋から神父のような衣装を纏った青年がやって来た。

 曰く、

「ここの慰霊碑や剣、戦士達の墓の管理をしておりますアイザック・ガーディナーという者です」

 とのことである。

「風体から察するに、あなた方がここに来た目的は観光でも戦士達の慰霊でもなさそうですな。宜しければ、あの小屋で茶でも喫しながら事情をお聞かせ願えますかな?」

 と、アイザックが提案したので三人はとりあえず彼の提案を受け入れる事にした。

 神父の衣装とは違い、小屋の内装は小さな寺院に近いものだった。

 それもそのはずで、アイザックは元々はオヅロッグの平民出身の神父であったが、敗戦の折に戦士達の死を悼んでここに来たのである。

 なるべく色々な方法で冥福を祈ってやろうという彼なりの心遣いだった。

 その彼に剣を貸して欲しいなどとは言い難かったが、カイは一通り自分達の旅の目的とここに来た理由を説明した。

 彼は剣を貸す事は断られるものとばかり考えていたが、意外にも

「あなた方が剣に選ばれれば持って行って頂いても構いません。人を救う事に使って頂いた方がローランド殿も喜ぶでしょう」

 と言って剣についての事を説明してくれた。

 曰く、剣は元々初代国王が魔物に対抗するために作ったもので、王者か英雄にしか扱えないと云われており、王者には仲間の戦意を向上させる力を、英雄には魔物に対抗する力を付与するとの事であった。

 その効果はかなりのもので、王家の大剣を最後に振るったローランドという人物には前者の能力が現れ、寡兵でボーガ王国の兵士達を一時的に撤退させるほどに苦戦させた事もあるらしい。

 茶を飲み終わり、三人とアイザックは再び慰霊碑、及び王家の大剣が突き刺さっている場所へと向かった。

「それで、誰から剣を握られるのですかな?」

 アイザックが三人に尋ねると、カイやエレグではなく、まずサヨが剣の前へと立った。

「一応、私も剣士なのでちょっと興味があったんですよね」

 と、言ってそれを引き抜いた。

 ローランド以降誰も引き抜く事が出来ないほどの重量があったその剣は、あっさりと引き抜かれた。

 が、彼女が剣に選ばれたというような感じはない。

 彼女自身も自分に合った剣とは感じなかったらしく、

「流石にこれを振って戦おうとは思いませんね。重すぎるので達人相手に戦うとなった場合、どうしても見切られ易くなります」

 と、言ってそれを地面に置いた。

 次に、カイが地面に置かれた剣を持ち上げてみた。

 どういうわけか羽根のように軽い。

 あまりの軽さにカイが驚いていると、さらに、大剣だった剣はカイが使いやすいように長剣へと形状を変化させ始めた。

「どうやら剣があなたを選んだようですな。職業柄、私は神聖な力を感じ易い体質になっているのですが、その剣からはそういった力を感じます。王者ではなく英雄と判断されたようですな」

 アイザックはそう言ったが、カイには自分がこの国でトップクラスの名剣の持ち主になった実感が湧かない。

 が、

「初代国王や、ローランド殿と共に魔王を倒して下され」

 というアイザックの言葉には力強く答えた。

 何はともあれ、これで王家の大剣の持ち主になれば魔王討伐に力を貸すというサヨの提示した条件は果たした事になる。

「昨日あんたが提示した条件は覚えているな。俺かカイのどちらかがその剣の持ち主になればあんたがついて来るというあれだ」

 エレグはサヨに再確認すると、

「えぇ、覚えていますよ。個人で行動する事が好きだったけど、約束は約束ですからね。これから魔王を倒すまでよろしくお願いしますね」

 との事だったので、これで正式にサヨが一行に加わる事になった。

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