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魔王インペレトリス

「魔法というもののルーツは魔界だという話があります。魔王も当然それを使ってくるでしょう。なので、とりあえずそれの情報を少しでも集めるためにまずはカストゥルム国へと向かうというのはどうですか?」

 と、新たに仲間に加わったサヨの提案で一行の次の目的地はカストゥルム国に決まった。

 が、すぐに出発という訳にはいかなかった。

 サヨは荷物を全て砂漠に置いてきていたのでそれを取りに行かなければならない。

 ただ、ここ数年間でオアシスやボーガ王国が手入れをしていた貯水池は相当数干上がってしまったらしく、そんな状態の砂漠に日中繰り出して行ける者など一行の中ではサヨくらいしかいないので夜まで待つ事にした。

 旧高級住宅街にあったぼったくり料理屋で食事をしたり、愚者の城と呼ばれている城を見物したりして時間を潰していると、やがて夜になった。

 サヨは何度も行き来しているからか砂漠に慣れており、エレグも人馬一体というレベルまで乗馬技術を研ぎ澄ませているので砂砂漠(すなさばく)となっている場所も問題なく進んで行くが、カイは馬を進ませる事に少し手こずった。

 一応、エレグがアドバイスをしているが、砂に馬の足を取られないようにするコツは感覚に依るところが多く説明し難かったので、結局一行はやや遠回りにはなるがボーガ王国が整備した道を進んで行く方針に途中で変えた。

 紆余曲折あったものの、途中で魔物などにも遭遇する事はなく、三人は無事にサヨが寝泊まりしていた洞窟に到着した。

 サヨは元々もうすぐここを発つ予定だったらしく、事前に荷物を纏めていたので、すぐに出立可能である。

 が、彼女は二人に洞窟に隠れるように言うと自身は洞窟の前に立ちはだかるように佇立した。

「どうしたんだ? 姉さん」

 カイが尋ねると、

「何かがこっちへ向かっているらしいんですよ。それも結構強そうな気配です。殺気を放っているところを見ると十中八九戦闘になりますね」

 との事であった。

 それは本当の事らしく、地響きと地面を何かが潜行しているような音が徐々に三人へと近づいて来ている。

「俺も戦う」

 エレグはそう言うが、

「今回は全て私に任せて下さい。エレグ君の馬術は大したものですが、流石に砂漠じゃあそれを発揮仕切れないみたいですからね」

 と、断られた。

「それなら、俺の武器は剣だから徒士立ちで戦える。王家の剣の効果を早速試してみたい」

 と、カイも言うが、

「カイ君は確かに国にいた頃よりは遥かに腕を上げていますが、さっきの手綱捌きを見た感じだと砂漠での戦いは難しそうなので、今回は私に任せてください」

 と、返されて結局サヨが一人で応戦する事になった。

 数十秒後、砂塵を巻き上げながら地中から巨大な土竜のような魔物が出現した。

 その魔物はカイ達が今まで見て来た魔物よりも知能が高いらしく、

「水場が見つからなくてイライラしていたんだ。丁度いいからてめぇ等で憂さ晴らしをしてやるぜ」

 と人語で発言しつつ、魔法で洞窟を攻撃して来た。

 巨大土竜の魔法は土属性の魔法らしく、大量の砂が流砂となって波のように洞窟に押し寄せる。

 が、サヨは地面を凄まじい勢いで蹴りつけ、同じ規模の流砂を発生させてそれを相殺した。

 魔法などではなく蹴りの衝撃だけで発生させたものである。

 が、巨大土竜は勘違いをし、

「貴様も土魔法を使えるのか!?」

 と、少し戸惑った。

 が、隙ができたとは言い難い。土竜は手を抜けない相手であると認識を改めて気持ちを切り替えると、砂を操ってサヨを捕まえようとしたのである。

 それは、コルムの魔法よりも数十倍は砂の量が多く、スピードも速かったが、彼女の速さと身のこなしには着いて行けずカスリもしない。

 気づけば、彼女は自分の間合いまで接近していた。

 そして、

「殺すのが惜しい実力を持っていますが、このままだとオヅロッグを壊滅させそうですし、魔物の討伐を手伝うという約束なので申し訳ありませんが始末させて頂きます」

 と言い、巨大土竜の爪を蹴りで一本叩き折ると、それを心臓と思われる箇所目掛けて勢いよく投げ飛ばした。

 爪は亜音速に近い速度で飛んでいき、巨大土竜を貫く。

「……化物め」

 と、一言遺して巨大土竜は力尽きた。

 この魔物はプロデスト共和国方面へと魔王が派遣した幹部級の魔物であるが、あまりにも呆気なかったので三人はそうとは気づいていない。

 後方に待機していたその魔物の配下はボスが速攻でやられてしまったため、低い知能ながらまずいと感じたらしく、散り散りに逃げてしまった。

 そのため、三人が追撃を受ける事はなかった。

「行きましょうか」

 何事もなかったかのようにサヨはそう言いながら荷物を背負い、再びオヅロッグへと向かって行く。

 その後ろをついていくカイとエレグは、

(以前の姉さんならあんな速度で投擲できなかった。まさかここまで強くなっているとは)

(俺達は魔王とは別の魔王を味方に引き込んでしまったんじゃないか?)

 と、先程の魔物ではなく彼女への恐怖を感じていた。


 魔王インペレトリス・デウマルムの魔力は地上に跋扈する全ての魔物とリンクしており、それ等に気付かれる事なく行動を操作する事ができる魔法を常時使用していた。

 流石に幹部級の魔物は魔力も野心も強いため完全には制御し切れないが、どこに向かわせてどこを纏めさせるかを決める事くらいはある程度制御する事ができる。

 彼はその能力を使って巨大土竜をオヅロッグへと向かわせていたのだが、急にリンクが切れたので少し気になった。

 確かに、そこに住んでいる人間は血の気が多いという情報を斥候に使っている低級悪魔から受け取っているので、あれくらいの魔物は倒す事ができるだろうが、あまりにも対応が早かったので気になったのである。

「俺がいた頃よりも人々が強くなっているのであれば嬉しい限りだが……」

 ふと彼はそう魔王らしからぬ事を呟く。

 それもそのはずで、彼は元々人間であり、それも魔王の前任者を倒す為に派遣された勇者その人である。

 彼は以前の魔王を倒した際、その今際の際に自身が消えても魔物は地上を跋扈し続けるという事を聞いたので、苦肉の策で魔王の魔力を根こそぎ奪い自分が魔王になると、魔物達と自身の魔力を繋げて運命共同体とし、仲間に頼んで自身を魔界に封印してもらったのである。

 彼は魔物達と共に魔界へと送られて以降数え切れないほどの年月をそこで過ごしてきたが、今でもこの元いた世界の平和を望む心は失っておらず、封印が解かれてしまった今も人間側が対応する為の時間を稼ぐ為、魔物達にわざと効率の悪い攻め方をさせていた。

(今後、より効率の悪い攻め方をする為の参考になるかもしれない)

 今回の事を受けてそう思った彼は低級悪魔を呼び、それに意識と知能が芽生えるほどの魔力を注ぎ込むと、

「プロデスト共和国の砂漠へと向かえ。やられた奴の検分や戦闘が行われた地形の調査をしろ」

 と、指示を出して調査に向かわせた。

 低級悪魔はこれで一時的に幹部級の力を手に入れるが、あくまでインペレトリス自身の魔力で動いているので完全に制御する事ができる。

 それだけに留まらず視界も共有する事ができるため、まるで自身がその場にいるかのような調査が可能である。

 低級悪魔は魔王の城を飛び出した後、数日かけて巨大土竜が倒された地域へと到達した。死骸は既に土に還り始めていたので死因はイマイチ分からなかったが、戦闘があったと思われる場所からは様々な情報を得る事ができた。

 魔法を発動させた跡や、折れて地面に突き刺さった爪、人間側は大勢で戦った形跡がないので少人数で魔物に対応したであろう事などである。

 とりわけ、爪には溶けたような跡があり、それは重要な資料になりそうだった。

 が、どういった経緯で溶けたのかは分からない。

(鋼鉄並みに頑丈な爪が折られているだけでも不可解なのに、それが溶けているってのはどういうことだ? 炎の魔法を操る腕の良い魔法使いが相手だったんだろうか?)

 一応それならば爪を溶断し、熱線か何かで魔物で倒したというのであれば説明がつくが断定はできないため、とりあえず爪を持って帰る事にした。

 数日かけて低級悪魔を呼び戻し、改めて自分で爪の状態を確認してみると、インペレトリスはその予想外の状態に少し驚いた。

 爪には溶断された跡が全くなかったのである。

(この状態を作り出すには爪を叩き折ってその後に何らかの方法で断面以外を溶かすしかないだろうな。どうやったのかは知らないが、下手したらこいつを倒した人間は魔法使いですらない可能性がある)

 強すぎる人間というものは魔物と大して変わらない。

 インペレトリスは自分達が討伐される等して消えた後、再び世界に平和が訪れるのかが少し心配になった。

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