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魔の国へ

 水の国からの帰路、カイ達は兵の国を突っ切って帰るルートを選択したので途中サヨ達と合流した。

 兵の国と黄金の国の中間地点付近にある小屋で、彼女が洗濯の手伝いをしていたところ丁度三人が通りかかったのである。

 ここの主人である中年の医師は薬草を採取しに山へと行っているとのことである。

 左腕を包帯でぐるぐる巻きにし、鼻から頬にかけて縫合されているという彼女の状態を見てカイは驚いたが、

「左腕はまだほとんど動きませんけど、片手があれば戦闘は充分できますよ」

 と、普段と変わらない様子だったのでとりあえず一安心した。

 ただ、彼の打ち身もなかなか引かず、サンドラの魔力もまだ戻りきっていない上に、彼女がこんな状態ではとても魔王とは戦えないだろう。

 そのため小屋の中で今後の方針について話し合った結果、しばらく黄金の国で療養を取る事にした。

 ただ、黄金の国に入国するに当たって一つ問題があった。

 レジーナの存在である。

 水の国へと行っていた面々は彼女のこととネイブの事を一通りサヨから聞いてとりあえず了承したが、黄金の国の領民が子供とはいえ魔物を国内へと入れる事を了承するかどうか甚だ疑問であった。

 レジーナは一見すると人間だが、少し注意して見れば随所に魔物のような特徴を持っているため、途中で子供が捨てられていたから拾ってきたなどと言っても恐らくバレてしまうだろう。

「船長に水の国の港に向かうように伝えて、そこからこいつをカストゥルムへと一時的に避難させようか?」

 と、サンドラが提案した。

 もちろん生きたままの魔物の子供という稀有な研究材料を自国で研究したかったからに他ならない。

 ただ、

「いえ、この子の親から私に任せると直々に頼まれたので、流石にそこまで離れたところまで連れて行かれると……」

 とのことだったので諦めざるを得なかった。

 次に、

「魔の国まで同行させるしかないんじゃないか?」

 と、カイが提案したところ、

「しかし、親の最期の言葉に魔の国へ連れて行かないでくれってニュアンスが含まれていたんですよねぇ」

 と、これも却下される。

 その時、丁度小屋の外で物音がした。

 医師が戻って来たらしい。

 そこでエレグが

「医者のおっさんにこいつを預かって貰えるかどうか聞いてくる。一応、こいつの正体とかも全部明かすが構わないな」

 と、言って外に出て行った。

 彼は医師に自分の正体を明かした後、レジーナの事を自分が分かる範囲で説明し、それを理解した上で預かって貰えるかどうか尋ねてみたところ、

「構わねぇよ。魔物とはいえどもまだ子供だし誰かがついてやらなきゃならんだろう。それにこの見た目であれば将来は人として普通に生活できるかもしれねぇし、しばらくは人と同じように育ててみるよ」

 と、あっさりと了承したので、一行が魔の国へと行っている間は彼に頼む事にした。

 サヨは医師に世話になった礼を言うと、水の国へと行っていた三人と共に再び黄金の国へと向かい始める。

 到着すると、黄金の国では魔物達が少なくなったという話で持ちきりだった。

 なんでもラヴィスヴィーパの方角へとかなり多くの魔物が向かって行ってしまったので国内から魔物の数が減ったということらしい。

 サンドラはその事について、

「本当にラヴィスヴィーパの方へと向かっているのか?」

 と船長に問い質したところ

「ええ、かなり正確に向かっていると思います。他にも大陸はあるだろうにそっちには目もくれずラヴィスヴィーパを目指しているという情報をさっき入港した船から聞きましたので」

 とのことであった。

 この事によってサンドラは内心少し焦った。

 今、ラヴィスヴィーパに滅んでもらっては困るのである。

 現状、世界であの国ほど影響力のある国もない。

 技術の発信国であり、ありとあらゆる面で世界一の市場規模を誇っており、国土が広すぎるため国防は若干疎かになっているが、兵数自体と国防にかけている費用は飛び抜けて高い。

 要するに技術を習得しに行くにも、何かを売り込みに行くにも、とにかく何をするにも都合のいい場所だった。

 彼女は一連の騒動が終わったあと、あの国を使って魔法の有用性を売り込もうかと考えていたのだが、あの国が倒れてしまったらその計画が水泡に帰す。

(こうなってしまっては療養どころではないな……)

 そう考えると、

「カイ、どうする? このままではいくらラヴィスヴィーパでも流石に持たんぞ。もしあそこが壊滅してしまった場合、蒸気船の整備ができなくなる関係上私とエレグは帰れなくなるし、最強の国が落とされた事によって周辺諸国の抵抗力も落ちるかもしれない」

 と、彼女はカイにいかにラヴィスヴィーパが落とされてはいけないかの説明をした。

 船の所有は彼女であるが独断で出航する訳にはいかず、彼女もエレグもサヨも彼について行くというスタンスをとっているので、出航の是非を決めるのは最終的に彼になるためである。

 ちなみにエレグは、

「せめて、サヨの左腕がもう少しまともに動くまで待った方がいいんじゃないか?」

 という意見であり、サヨは

「カイ君の判断にお任せしますよ。右腕だけでも戦えるので君が戦うと決めれば私も戦いますし、もう少し待つのであれば私も待ちます」

 とのことであった。

 カイは少し悩んだが、

(今はラヴィスヴィーパが襲われているが、標的は兵の国になり得たかもしれないと考えれば対岸の火事ではないな。今この瞬間も魔物から必死に国を守っている人間の事を考えればなるべく早く出航する以外ないだろう)

 と心に決め、

「姉さんの全快を待っていたら数ヶ月はかかるだろうから流石にそれは待てない。しかし、今日出航すると途中で夜になるだろうから明日の朝出航しよう。あんな灯りがないところに夜に向かう気にはなれない」

 と言った。

 その日、一行は黄金の国領主ヨシナリの屋敷へと宿泊して翌朝出航した。

 出航して数時間で魔の国には到着した。

 国と言われてはいるが、少し前までは年中霧が深く、木々が生い茂っているだけの島であった。原生林が多く残っている島として有名だったが、現在は中心に建物が建っている。

「あれが魔王の宮殿らしい。実際にあそこに潜入させていた奴の証言よりは少し大きい気がするがな」

 と、サンドラが島のことを少し説明し始めた。

 今、宮殿があるところに以前魔界の門と呼ばれている場所があったこと、あそこに住んでいる魔物は外海に出て行く事が出来ないものばかりなので基本的には弱いが、宮殿内部は間者も見た事がないのでそこについては分からないことなどを説明し、

「もっとも、最後に伝書鳩が飛んで来てからかなり時間が経っているから、かなり古い情報だがな。こちらから連絡を入れようと鳩を飛ばしても帰省本能よりも恐怖心の方が勝ってしまうのか、鳩がカストゥルムに戻って来てしまって上手く連絡出来ないんだ。まだ奴が無事だったら連れて帰ろう」

 と締めくくった。

 それを一通り聞いた後、

「潜入させていた奴は生きている可能性はあるのか?」

 と、エレグが尋ねると、

「ここは元々植物の多い島だ。当然、可食な実をつける木も多い」

 とサンドラは答えた。

「ついでに独自の生態系も出来始めている自然豊かな島だ」

 という冗談が喉元まで出かかったが、場を和ませるには不適切だと直前になって気づいたのでそれは引っ込めている。

 港などはないので一行は沖から小船に乗り換えて上陸した。

「お気をつけて」

 と、少し離れたところから船員たちに見送られてカイ達は魔王がいるらしい宮殿へと向かって行った。

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