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カストゥルム国へ

 カストゥルム国は地上に魔物が蔓延ってしまった原因を作った国であり、唯一魔法を研究している国である。

 そのため、多くの魔物がそこが世界最強の国だと思っており、そこを落とせばこの世界が盗れると考えてそこに集まっていた。

 その幹部級の魔物達が抱くこの世界である程度の地位を獲得したいという感情はインペレトリスも完全に抑え切る事ができないので、カストゥルムを目指す魔物は多い。

 自然、そこに近づくに連れて出現する魔物は強力になっていき、且つ数も増えていった。

 しかし、三人は滞りなく進んで行く。

 強力な魔物が出てきても、まずカイが王家の剣で攻撃してその力で魔物を弱らせ、そこをエレグが毒矢を放つという手筈で大抵の魔物を撃退する事ができた。

 多勢で攻められた際は流石にその二人ではどうにもならないが、そういった場合は普段は二人の技術の向上の為に手を出さなかったサヨが出てきて、殴る蹴るなどの暴行で魔物の群れを壊滅させていた。

 結果、半月程でカストゥルム国の入り口付近へと到達した。

「あのトカゲや土竜程の魔物は出てこなかったな。俺達の腕を上げるには丁度良いくらいの強さだが、サヨは一度も剣を抜いていないし腕が落ちたんじゃないか?」

 エレグがサヨにそう言うが、正直微塵も心配しておらず、むしろ少しくらい弱くなってくれていた方が可愛げがあると思っていた。

「確かに剣は抜いていませんが、剣技に必要な技術は結構使っているのでたぶん大丈夫ですよ」

「そういえば何で剣を使わないんだ?」

「誰かと決闘する際に斬れ味が落ちていたら申し訳ないと思いましてね。だから、自己防衛の時や戦争等の決闘以外の戦いでは極力体術や他の方法で戦うようにしているんですよ」

「しかし、そんなことをしているから魔法使いに負けたりしたんじゃないか?」

「彼女と戦った時は剣を抜いて戦いましたよ。まぁ、再戦がしたかったので峰に返して戦っていましたけど……。それに、他の人達と戦っている際も手を抜いている訳ではなくて神経だけは研ぎ澄ませていますよ。何せ、……」

 と、言ったところで彼女は何かの気配に気づき後ろを振り返った。

 そこには大蛇のような魔物がいたのである。

(直前まで気配が感じ取れなかった……。私に気づかれずにここまで接近するとは出来ますね)

 彼女はすぐさま身体を翻して大蛇へと向かうが、すでにその魔物は魔法を発動し始めている為、攻撃が間に合わない。

 そのため魔物を瞬殺する事から仲間二人を魔法から守ることへと方針を切り替え、カイとエレグを弾き飛ばした。

 怪力女に吹っ飛ばされたためかなり痛かったが、それにしても彼女は力を抑えていたので二人に怪我はなく、且つ魔法から逃れる事ができた。

 ただし、サヨは大蛇の魔法に捕まってしまい動けなくなった。

 彼女が受けた魔法は麻痺属性という珍しい種類の魔法であり、これはカスリでもすれば格上相手でも数分間は動けなくする事ができるという代物である。

「あと、二人」

 大蛇は巨大土竜と同じく人語を話すらしくそう言った。

 切り札の早々の喪失にカイとエレグは絶望しかけたが、

「……あと…三人…ですよ」

 と、魔法をもろに受けたはずの彼女は声を絞り出すようにしてそう言った。

 気力とパワーで魔法を解除しかけているのである。

「なんて奴だ、俺の魔法を受けても動けるなんて」

 大蛇は全力で魔法をかけ続けなければ負けてしまうと悟って、永続的に彼女に魔法をかけ始めた。

 流石にサヨもこれには対抗できず、再び一言も喋れない程に動きを封じられてしまうが、大蛇は彼女を封じることで精一杯なので、尻尾以外動かせない状態になっている。

 かなり強い魔物だがこの状態なら勝てると踏んだカイは王家の剣を抜刀し、大蛇へと突っ込んで行った。

 大蛇は尻尾を突き刺すようにして彼を攻撃してくるが、魔法を使っている関係で彼の方を見る事ができないため、うまく狙いが定まらず攻撃が当たらない。

(これはいける)

 そう思って大蛇の中心へと接近して行くが、突如大蛇は刺突から薙ぎ払いへと攻撃方法を変えた。

 カイはギリギリでそれを回避したが、剣の鍔に尾を引っ掛けられてそれを弾き飛ばされた。

 大蛇は尻尾で弾きとばした王家の剣を掴みそれを使おうとしたが重すぎてうまく振れないので断念して放した。ただ、それにしてもカイはステゴロで戦うことになってしまったのでろくに反撃することも防御する事もできず、攻撃を回避し続けるしかなくなった。

 剣を回収できればよかったのだが、大蛇はそれを取らせまいとそこの守りを重点的に固めている。

 先程からエレグが短弓で援護をしてくれてはいるが、矢の貫通力が低いため表皮で止まってしまう上に、今迄の魔物と異なり矢毒も効かないため、剣を回収するまでの隙を作るには至らない。

 八方ふさがりになってしまったので、どうしようかとカイが悩んでいたところ、突如エレグの放った矢が敵に通用するようになってきた。

 見ると彼は弓をコルムから貰った長弓に変更して射撃をしていたのである。

 こちらの方が威力が高い。

 大蛇は射たれる矢を嫌って尻尾でそれを叩き落とそうとする動作をし始めたため、やや隙ができた。

 そこへカイが駆け込んで、王家の剣を拾うと、そのまま大蛇の死角から頭部に接近してそこを貫いた。

 大蛇に刺突の威力の他に剣の持つ退魔の力が流れ込んだ結果、一瞬で絶命し、且つ消滅した。

 その事によってサヨにかけられていた魔法も数分後には解除された。

「今回は私だけではどうにもなりませんでしたね。二人ともありがとうございます」

 カイとエレグは彼女が敵に気づかなければとっくにやられていたため、少々複雑な気持ちだったが、あれだけの敵をサヨにあまり頼らず二人で倒す事ができたので嬉しい気持ちは大きかった。

 その後、少し休憩をとったあと再び進み数十分後、カストゥルム国首都クラットへと入った。

 そこに至るまで途中再び魔物が出てきたが、それは小型の悪魔のような風体の全く強くないもので、エレグが騎射で瞬殺した。


 魔王インペレトリスもカストゥルム国周辺には魔物が集まり易い事を知っている。

 そこには一筋縄ではいかない魔物も数多く集まるはずだったが全て撃破されているらしく、彼と魔物達のリンクがどんどん消滅して行くので彼は様子を見るために低級悪魔をそこに派遣していた。

 先程の大蛇とカイ達の戦闘も一部始終見ている。

「なんて奴だ……」

 と、インペレトリスは驚嘆した。

 彼を驚かせたのは勇者が持つことができる剣を所持していた青年でも、偵察に使っていた低級悪魔を射殺した騎兵でもなく、魔法を受けて始終動けなくなっていた女性であった。

 彼女が受けていた魔法はかなり強力なもので、魔王でもまともにあれを受けたらしばらく動けなくなる。普通の人間が受けたら動けなくなるなんてものでは済まず、心臓が麻痺して死んでしまうだろう。

 彼女はそれを受けて僅かに動いていただけではなく、微かに笑っていたのである。

 インペレトリスにはその微笑に覚えがある。

 勇者をやっていた頃に出会った戦闘狂のものであった。

(奴と同じで相手が強ければ強い程嬉しくなる質なのかもしれんな。加えてこの女は奴よりも遥かに強い)

 危険な奴だ、と魔王であるインペレトリスがそう思った。

(この女の一行には聖剣に選ばれた者もいるらしい。再び我々を封じて貰わなければならないので、彼を危険な目に遭わせるのはあまり得策ではないが、この女だけは殺さなくてはならない)

 そう考えると彼は自分の子であるネイブ・デウマルムを呼び出し、

「勇者の一行にお前に匹敵し得る力を持った者がいる。少なくとも俺では勝てんかもしれん。そいつの正体と故郷を調べてそこを叩きに行ってくれ。故郷を攻撃する事で奴を誘き出し、誘われてきたところをなんとか殺しておきたい」

 と、指示を出した。

「確かにそれだけの力を持っているとなると、魔界ならばともかく人間界では脅威にしかならないな。分かった、始末して来よう」

 そうネイブは魔物でありながら人々を憂う発言をした。

 彼は背中に禍々しい羽が生えており、肌の色も父が白に近い色であるのに対して紫色であるというインペレトリス以上に魔物に近い容姿をしている。ただ、父が元人間という事を聞き及んでいる上に、既に死んでしまったが妻を魔界に住んでいる数少ない人間の中からとっており、娘レジーナの容姿も人間に近いので、人にはかなり親近感を抱いていた。

 父の考えている魔物は魔界で過ごすべきであり、こちらの世界にはいるべきではないという思想にも一定の理解を示している。

「現在、連中はカストゥルム国にいる。その前にはプロデスト共和国にいたからそのどちらかで情報収集するといいだろう」

「しかし、それだけ強いとなると勝てないかもしれないな。まぁ、やれるだけやってみるさ」

 そう言ってネイブは飛び立って行った。

 彼は魔物の中では最も強く本来であれば心配はいらないはずだが、インペレトリスはこの時初めて彼の無事を祈った。

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