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人外勇者の魔調合  作者: 木ノ下
12/31

10 森の中の出会い

 帝国を目指すため拠点を出発して三日。俺はいまだ出口に辿り着くことなく森の中を彷徨っているのだが、少々困ったことになっていた。

 どうも上流に向かって進むにつれて魔物の強さが急激に落ちてきている様で、そのせいなのか大量に倒しても中々レベルが上がらなくなったのだ。

 これでは帝国に着くまでに充分な力を蓄えるという当初の予定が達成できない。

 やはり引き返して以前の拠点周辺で魔物を狩っている方がいいのか?

 どう行動するのが一番効率がいいのかと、うんうん悩んでいたその時――俺の〈魔力感知〉が複数の魔力反応を捉えた。

 気晴らしに取り敢えず反応のあった場所に行こうとしたのだが、その時点でいつもの魔物の反応とは違うことに気付いた。

 警戒心が刺激された俺は、〈魔力遮断〉を使いながら慎重に反応のあった地点へと向かい、その正体を探った。

 すると、そこで俺が見たのは妙な集団だった。いや、妙と言うのは語弊があるかもしれない。

 その集団は年の程は俺と同じ位の男三人に女が一人の四人組だった。男達の方は剣や槍を装備していて女は杖を持っていることから魔物を討伐しにでも来ていたのだろう。

 俺達が帝国に召喚されてからは城から出ることは許されず、訓練ばかりでこの世界の情報なども全く教えてもらえなかったために推測にしか過ぎないが、彼らは小説などによく出て来るギルドに登録されている冒険者のパーティーで、魔物を狩ることで生活の糧にしているのかもしれない。それならば森に来ていることも納得出来るし不思議なことではない。なら、何が妙だと思ったのかと言うと……それは彼らの顔立ちだ。

 俺はこっちの世界では帝国の人間しか知らないが、デミットや皇帝、他の帝国兵もどちらかと言えば西洋風の顔立ちをしている。だが、彼らはどう見ても東洋――いや、俺と同じ日本人の顔立ちをしていた。それに髪の色も気になる。

 男三人は全員金髪だが……あれは地毛と言うより染めている様に見える。それに女の子の方は艶のある綺麗な黒髪をしている。こっちの世界で黒髪をしてる人間を見たのは初めてだ。

 最初は俺と一緒に召喚されたクラスメイト達が実戦訓練をしている所に遭遇したのかと思ったが、すぐに違うことに気付いた。あの四人の中の誰一人として俺の見知った奴はいなかったからだ。それに、もしそうだとしたなら監視役の帝国兵が最低一人はいるはずだ。なのにどこを見ても彼らの近くにそんな奴はいない。

 やはり日本人というのはおれの勘違いで、この世界にも俺達の様な顔立ちの人種もいるのかもしれない。そう思ったのだが……俺は何となく彼らのことが気になったのでしばらく後を付けて様子を見ることにした。

 俺は魔物になったことで視力がかなり上がり、三百メートル位なら人の顔も識別できる。まあ、そこまで離れなくても〈魔力遮断〉のスキルがあるので近付き過ぎなければバレはしないだろう。

 それに、見つかったら逃げればいいだけだ。

 むしろ問題なのは彼らとの間に鬱蒼と生茂る木々だろう。視界が凄まじく悪いので見失わない様に常に注意しなければならない。

 俺はそのことにだけ注意しながら一定の距離を保ち、軽い気持ちで彼らの追跡を開始した。

 追跡を始めてから十数分。どうやら魔物と遭遇したのか全員武器を構えて戦闘を開始した……のだが。

 俺は彼らの戦闘の様子を見て溜息を吐いていた。

 今彼らはオークの群れと戦っている。

 個人の技量は中々高い様で、オーク単体との力量差を比べれば彼らに軍配が上がるだろう。

 だが、個人技に頼り過ぎていて連携も何もあった物じゃない。前衛の男三人はオークに突っ込んで行って目の前の敵にだけ意識を向けているし、魔法職と思われる女の子を守る盾役がいないので、近付いて来たオークに対処を追われて詠唱に集中出来ていない。例え詠唱出来たとしても前衛の三人は位置取りを全く考えないで戦っているため、敵味方がごちゃごちゃに入り乱れてしまっている場所に魔法を撃ち込めば味方もろ共吹き飛ばしてしまうだろう。

 あっ……今前衛の一人がオークに背後を取られて慌てている。何か叫んでいる様だが周りで戦っている男達も側面や背後に回り込まれそうになっていて仲間に気を配る余裕がなさそうだ。

 結局オークを討伐することは諦めて、強引に切り開いた隙間からオークの包囲を抜け出し撤退を選んだ。

 なんというお粗末な……。

 あまりに酷い戦いっぷりに呆れて物も言えない。まさかあのパーティの実力がこの世界の平均じゃあるまいな? もしそうだとしたらまともに訓練された兵士や騎士のいない、辺境の街や村などはあっと言う間に魔物に蹂躙されてしまいそうだ。

 彼らが駆け出しの新人であることを切に願う。

 俺は命からがら逃げだした彼らの尾行を続ける。

 その前に彼らを追いかけようとしていたオークの群れは全滅させておいた。別に助けようと思った訳じゃなく、単に俺の経験値稼ぎのためだ。

 今の俺にとってオークを――それも、ここらのレベルが急激に下がっている魔物を倒した所で経験値なんて大した糧にはならないが塵も積もればなんとやらである。

 逃げ出した四人はその後必死に走り続け、周りの木々が少なく少し開けた場所に着くと、肩で息をしながらその場に座り込んだ。どうやら充分距離を取ったと判断し休憩にする様だ。まあ、あのオーク達はもうこの世に存在しないのだが。

 やがて呼吸が整い落ち着いて来ると、突然男の一人が立ち上がって喚き始めた。ここからでは声はよく聞こえないがあの様子からしておそらく怒鳴っているのだろう。

 怒鳴られた周りの男達も怒った様子を見せて、最初に声を上げた男に向かって何か言っている。男達の言い争いはどんどんヒートアップしていき、一人が相手の胸倉に掴みかかった。

 今にも武器を抜いて殺し合いが始まりそうな険悪なムードが漂っている。

 女の子はそんな男達の争いをオロオロしながら見ていたのだが、言い争いを続けていた男の一人が突然女の子に矛先を変えて責め始めた。

 いきなり矛先を向けられた女の子は肩を震わせて縮こまっていたのだが、他の男達も加わり責め始めたことで、ギュッと目を瞑ってさらに縮こまってしまった。

 俺はもう少し接近して声が聞こえる所で身を潜めると、どうやら男達は彼女が魔法で援護しなかったことを責めている様だ。

 さっきから「何で魔法で援護しないんだ」とか「お前がしっかりしていれば」とか「役立たずが」とか聞こえて来るから間違いないだろう。

 そもそも魔法を使えなかったのは男達が誰も彼女の護衛に残らなかったからなのだが……自分達のことを棚に上げてパーティメンバー一人のせいにするとは情けない奴らだ。あの子は何故こんな奴らとパーティを組んでいるのだろうか?

 それと……俺にとってはどうでもいいことだが、俺がいる場所まで届く程大声で叫んで魔物が寄って来ても知らんぞ? 

 と、そこまでは他人事の様に(実際他人事だが)呑気に眺めていたのだが、段々看過できない事態になって来た。

 男の一人が女の子の顔を殴ったのだ。

 殴られた女の子は地面に倒れて頬を押さえて蹲っている。

 さらに他の男達も倒れた女の子を罵倒しながら、上から蹴り付けたり踏みつけて痛めつけ始めた。


「おいおい……やり過ぎだろ」


 不快な光景ではあるが所詮見ず知らずの人間の揉めごとだ。そのうち男達も飽きて解放されるだろうし、これがきっかけで女の子があのパーティで活動することを考え直せばそれで解決するだろう。

 俺には帝城に戻って仲間の救出をするという目的があるのだ。あの女の子には悪いと思うが、命を奪われようとしている訳でもないし、余計なことに関わって面倒事に巻き込まれたくはない。

 今の俺は種族は魔物に分類されるだろうが、見かけだけなら人と魔物が合わさった様な奇妙な外見をしているからな。迂闊に人前に出れば奴らが街に戻った時に間違いなく問題になる。それがきっかけで騎士や兵士なんかの討伐隊が派遣されたら堪らないからな。

 そう思い、俺は彼らの様子を窺うだけにしてそろそろ退散しようと思っていた。だが――


「まともに戦えもしねえんだったら俺らの奴隷(・・)にでもなってろよ!」


 男の一人が発した「奴隷」という言葉に、気にしなければいいものを俺はつい足を止めてしまった。

 俺はその言葉を発した男と、その言葉に笑い出しながら女の子を見下している残りの男達をジッと見詰める。

 全然顔立ちは違うはずなのだが、今の俺には男達の顔が、奴隷となった俺達を見下していた帝国にいる皇帝やデミット達と同じ様に見えていた。

 ……あいつらは本当にわかって言っているのだろうか。その言葉の意味を、重さを、理不尽さを。

 奴隷となった者がどういう扱いを受け、どういう末路を辿ることになるのかを……。

 俺は無意識のうちに爪が深く食い込む程、自分の拳を強く握り締めていた。

 過去に自分の身に降りかかった理不尽な出来事を思い出しながら暗い感情を秘めた瞳で見詰める先では、男達が地面に女の子を押さえつけて彼女が来ている衣服を剥ぎ取ろうとしている。

 どうやら彼女を下種な欲望の捌け口にしようとしている様だ。

 女の子は必至に抵抗しているが、前衛の男に三人がかりで押さえつけられては拘束を解くことは出来ないだろう。すでに表情はこれから自分の身に降りかかることを想像し絶望に染まっている。

 男達は彼女が嫌がり必死に抵抗する様が余計に嗜虐新を煽るのか、その顔を下品に歪め舌なめずりしている。

 奴らの頭の中にはこれから彼女を辱めることしかないのだろうが――


「……運が悪かったな」

 

 あの男達は深く考えず軽い気持ちで奴隷という言葉を口にしたのだろうが……この世界でその言葉の重さを知った俺は、数瞬前とは打って変わって目の前で俺達の様に理不尽な目に遭おうとしている女の子を見捨てる気はなくなっていた。

 俺は彼らに気付かれない様に気配を殺しながら接近すると、彼らから十五メートル程離れた場所に生えている巨木の枝に跳び移り身を隠す。ここからなら奴らの居る場所までは障害物もなく一足で奇襲をかけられる。一応鑑定を使って彼らがどれ位の実力者なのか見ておきたいが、この距離ではまだ鑑定の効果範囲に入らない。

 まあ、たかがオークの群れにあれだけ苦戦するなら問題ないだろう。

 さて、そろそろ仕掛けよう。すでに奴らは女の子のローブを剥ぎ取り、その下に着ていたシャツを引き裂こうとしている。

 俺は枝から跳躍し、女の子に馬乗りになってシャツに手をかけている男の背後に音を立てて降り立つ。


「「「っ⁈」」」


 突然背後に現れた俺に、馬乗りになっていた奴だけでなく女の子の腕を押さえつけていた二人も目を剥いて驚いている。


「なっ、何だてめ――」


 バゴンッ!


 馬乗りになっていた男が何か言いかけていたが、俺は無視して腰の高さにあった男の頭部を振り子の様に薙ぎ払った裏拳で強打し真横に殴り飛ばした。

 手応えからして今の一発でおそらく死んだだろう。まあ、俺の目撃者を生かしておく訳にはいかないし、こんなクズ共なら構うまい。女の子の方は……後で考えよう。

 吹き飛んだ男は十メートル程離れた場所に生えていた大木に衝突し、ゴンッ! と、いい音を立てて頭から地面に落下していた。

 まだ残っている男二人は吹き飛んだ男の方を唖然として見ている。

 俺を前にして、いまだ武器も構えないなんて殺してくれと言っている様なものだ。

 もちろんご要望にお応えして始末するが。


「ファイアーボール」


 俺は両手の指先から一つずつ、人の頭部を余裕で包み込める大きさの火球を残った男達の顔面に向けて打ち込んだ。


 ドゴオォォン!


 かなりの魔力を籠めた火球が顔面に直撃した男達は、爆発の衝撃で女の子を押さえつけていた手を離し、二人揃って吹っ飛んでいった。起き上がってこないので様子を見に行くと、二人は首から上を爆散させ首なし死体となっていた。

 確かにそれなりの魔力は籠めたが以前よりもだいぶ威力が上がっている様だ。最近は素手でばかり魔物と戦っていたから気付かなかった。

 さて、邪魔者の掃除は終わった。

 俺はこと切れた三人の死体を眺める。


(……思ったよりも何も感じないな)


 俺は初めて人を殺した直後でありながらも殺人に対する嫌悪感や吐き気を催すこともなく、魔物を狩った後と同じ様な……「ああ、死んだな」という、特に何の感慨も湧かない状態でいた。

 思えばこいつらを殺すという決断もやけにあっさりと……一切の迷いもなく自然過ぎるくらい簡単に決められた。

 確かに複数人で女の子一人を強姦しようとした救いようのない屑共だった。別に彼らが死んだ所で何とも思わないし興味もない。

 だが、どんな相手であれ、その命を自らの手で奪うとなった時もそんな心境でいられるのだろうか? 普通の人の心を持った者が初めて人を殺して恐怖も何も感じずにいられるのか?

 そんなはずがないだろうと思いながらも俺の中にはそういった揺らぎは一切起こらなかった。あったのはあまりの心の変化のなさに対する僅かな戸惑いだけ。

 その戸惑いもすぐに消えていき、自分の中でそういうものなのだと納得している俺がいた。

 俺は自分の体を見下ろす。

 そこには魔物へと生まれ変わった肉体がある。だが……変わったのはどうやら肉体だけではなかった様だ。

 もし、今の俺の姿を唯達が見たら――


「っ⁈」

 

 俺は頭を振って余計な考えを振り払う。今考えるべきことはそんなことじゃない。

 俺は気持ちを切り替えてさっきまで襲われていた女の子を振り返る。

 彼女は上半身を起こして口をポカンと開けた、ちょっと面白い顔でこっちを凝視していた。

 見たところ男達に殴られた頬以外は目立った外傷はない。回復薬でもかければすぐに治るだろう。

 見た目は黒縁メガネにおさげという、いかにも文学少女だった。きっと地球だったら図書委員をやっていたに違いない。一見地味な印象を受けそうだが、よく見ると素朴で少し幼げな顔立ちは充分に可愛らしい。遠目で見た時は俺と同い年位に見えたが、近くで見ると顔立ちのせいか若干年下に見える。

 俺は彼女の姿をひとしきり眺めた後、傷は大丈夫か聞こうと彼女に向かって一歩踏み出したのだが――


「ひっ……⁈」


 滅茶苦茶怯えられてる……。

 両目には今にも溢れそうな程涙を溜めて、小動物の様にビクビクと肩を震わせていた。

 いや、わかってたさ。わかってはいたんだけども……実際に誰かに怯えられる場面に直面すると中々ダメージがでかい。

 ……なるべく気にしない方向でいこう。

 問題はこの子をどうするべきかだ。

 完全に顔を見られているしこのまま街に帰すのは俺的に困る。だからと言ってわざわざ助けておいてやっぱり殺しますってのはな……。

 目の前で怯える女の子の対応に頭を悩ませていたのだが、俺はこの子に対していまだ鑑定を使っていないことに気付いた。

 そこで、一先ずはステータスだけでも調べさせてもらうことにしたのだが――




 名前:白井 恵理(しらい えり)

 種族:人間

 職業:魔導師

 LV:8

 体力:240

 魔力:790

 攻撃:155

 防御:155

 魔功:600

 魔防:600

 敏捷:240

 魔法:光魔法、闇魔法、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法

 スキル:魔力回復速度上昇、消費魔力軽減、魔法威力上昇、全属性耐性、状態異常無効、言語理解




「っ……⁈」


 使える魔法の種類やレベルに比して以上に高いステータスなど、色々気になるものが出て来たが……そんなものが瑣末に思える衝撃的な情報が載っていた。


「白井……恵理。まさか……本当に、日本人……?」

「え……?」


 つい零れてしまった俺の呟きが聞こえていたのか、白井 恵理という名の少女が驚いた様に目を見開いている。

 果たして魔物の様な姿をしている俺が喋ったことに驚いたのか……自分の名前を知っていること、はたまたこの世界に存在するはずのない国の名を口走ったことに驚いたのかはわからない。

 だが、確実にわかったことがある。

 目の前にいるこの白井 恵理という少女は間違いなく俺と同じ日本人ということだ。

 受けた衝撃の大きさに俺が目を逸らすことが出来ずに彼女を凝視していると、彼女もまた同じ様に俺から目を逸らさずジッと見詰めていた。さっきまで恐怖一色に染まっていた瞳の中には、困惑と疑問、そして僅かな興味が宿り始めている。

 このままいつまでも見つめ合っていられそうだが、そんな訳にはいかない。それに今の彼女ならさっきまでよりは落ち着いて俺の話を聞いてくれそうだ。

 そう思って今度こそ声をかけようとしたのだが――


「⁈ チッ……!」


 俺の〈魔力感知〉のスキルが、複数の魔力がこっちに向かって接近して来るのを捉えた。


(こんな時に……!)


 俺の様子が急変したのに気付いたのか、少女……白井さんでいいか。白井さんが不安そうに戸惑っている。

 いや、それよりどうする……? この距離だとあと数分もしないうちにここまで来てしまう。それに……この魔力の感覚はおそらく人間だ。

 奴らがここに来たら周囲の状況的に俺が男達を殺して白井さんにも手をかけようとしている風にしか見えないだろう。

 俺が人間だったら話を聞いてもらえる余地もあったかもしれないが、魔物となった今の姿じゃ問答無用で斬りかかられる可能性の方が遙かに高い。特に近付いて来る奴らがこの子の仲間だったら間違いなくそうなる。

 おまけに相手の実力がどの程度かもわからない上に確実に十人以上はいる。滅多なことでは負けないとは思うが、迂闊な行動は避けたい。

 やはり、さっさとこの場を離れるのがベストなのだが……。

 目の前の少女には色々聞きたいことがあるし、俺の姿をこれだけジックリと観察してしまった彼女をここに置いて行く訳にはいかない。

 仕方がない……。

 俺は座り込んでいる白井さんの元に、もはや遠慮なしに歩み寄る。


「っ⁈ ……あ、あ、あのっ……!」


 俺がいきなりズカズカと近付いて行ったせいで白井さんが真っ青になって取り乱しているが、そんなことに気を回す余裕はない。

 俺は白井さんの元まで行くと、背中と膝の裏に腕を回し抱え上げる。わかりやすく言うとお姫様抱っこ状態だ。

 まあ……王子役が俺のせいで絵面的には攫われていく姫君だが。いや、実際ここから攫っていくつもりだから間違ってはいないな。


「ひゃんっ!」


 ……やばい、可愛い。

 なんだかこれから攫って行くことに猛烈に罪悪感が沸いて来るが……今更引き返せん!


「……舌を噛むなよ」

「えっ、えっ? 一体何をっ――⁈」


 俺は一言だけ注意し、次の瞬間には全力でその場を駆け出した。

 一歩目の踏み込みで大地を踏み抜き、たわんだ膝のバネを伸ばす勢いを利用して二歩目からは一気にトップスピードに乗る。


「きゃああああぁぁぁーーーー⁈」


 木々による障害物が密集している森の中を恐ろしい速度で駆け抜ける俺の腕の中で白井さんが絶叫を上げている。

 俺が走り出した直後、自分から思い切り俺の首に抱き着いて来たので落とす心配は減ったが……耳元で叫ばれるとうるさくて敵わない。

 まあ、いきなり攫って来た上にこんな絶叫マシンに乗っている様な目に遭わせている俺が文句など言えるはずもないが。

 「魔力感知」にかかった人間たちは俺達がさっきまでいた場所で動きを止めている様だ。今のうちに距離を稼ぐために、俺は脇目も振らず森の中を駆け抜けた。


 次回は来週の火曜日か水曜日に投稿します!

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