ソウマの試合とマミさんのオムレツ
電車へ乗って目的地へ到着した。総合体育館の周辺には練習試合にきた中学生たちが集っていた。あちこち見まわしたら、ソウマの学校のジャージを見つけた。
「おはようございます、これ差し入れです」
保護者の輪へはいったユウマが華やかな笑顔をうかべた。俺には向けられることのない笑顔だが、あの顔で話しかけられても怖いしそれでいい。ユウマは途中で購入した飲みものを差しいれ、顧問の先生へあいさつする。
「あらぁユウマ君、弟さんの試合見にきたの? そっちの子はお友達?」
観戦していた保護者が話しかけてきた。知らない人ばかりで緊張したけど、ユウマは愛想よく会話を繰りひろげる。
バスケのコートを見わたせる2階席へ座った。輪になって指導をうける生徒のなかにソウマを発見した。ほかにも大きな選手がいて、ソウマが普通サイズにみえる。
試合がはじまった。ボールが飛びかい体がぶつかりあう、会場は熱気に包まれていた。ソウマは家にいるときの不遜さはなく、汗だくで走りまわっていた。ラインぎりぎりで放ったシュートを外してしまったが、フォローした選手がボールをリバウンドしてゴールを決めた。見ていた俺は拳をにぎりしめ、歓声を上げた。
終了の合図が鳴る。選手たちは集まって挨拶し、ロッカールームへ入った。
ユウマも席を立ち、顔見知りの人たちへ挨拶して会場をでた。
「ソウマに声かけなくていいのか?」
「いいんだよ。自分は一人前だと思ってる生意気なヤツだから、俺が声かけても恥ずかしがるだけだし」
「ユウマって、お兄ちゃんしてるんだな」
「いちおうね」
仲良くしてるところを見ないから、坂木兄弟に接点はないのだと勝手に勘ちがいしていた。その後もいくつかの試合を観戦した。ソウマの学校が試合に勝ちのぼり、その日の晩はトンカツになった。
しかし大好きなトンカツを平らげたソウマは仏頂面だ。
さすがのユウマも気になった様子でたずねた。
「……」
「ソウマ、なに怒ってるんだよ?」
「どうして急に連れてきた?」
「あ~、あのときカエデに気がついてシュート外したんだ? 心の準備ってやつ?」
「ちゃんと得点になった! カエデ、来るときは先に言え」
「えっ、うん、なんかごめん。今日は急に行くことになったけど、次からは先に言う」
キッチンを片づけていたら、兄弟の会話がこっちへ飛び火する。兄弟は反発しながら1つのソファを占拠していた。手を拭きリビングへ行くと、ヤツらは移動して微細なすきまをつくった。
「俺が真ん中かよ。って言うか俺のスペースせますぎ!」
ソウマが無言で座面をたたき誘導する。足を手すり側へもちあげ、俺をまくらにする気満々だ。腰をおろしたら容赦なくはさまれた。ユウマも夕食後はさっさと部屋へいくクセになにも言わず体重をかけてくるから性質が悪い。
この日を境に夕食後、俺はソファーで兄弟にはさまれて過ごす習慣ができた。
連休の2日目は朝からにぎやか、父もマミさんも仕事は休みだ。ソウマは朝ごはんを食べ、クラブへ直行した。
ソウマを玄関まで見送りもどると父とマミさんの会話がきこえた。父は俺のつくるタマゴサンドを話題にだし、今朝は坂木家のサンドイッチが食卓へだされた。マミさんがつくるのはふわふわのオムレツをはさんだ温かいタマゴサンド、ケチャップをかけて食べるスタイルだ。
「カエデくん、どうだった?」
「美味しかったです。マミさんのオムレツすごく柔らかいですね」
「ありがと。今度はカエデくんのも食べさせてね」
「はい!」
ユウマのオムレツは母直伝なのだと頭の片すみで思った。彼女はニュースを見ながら父と笑顔で話している。いつも隣にいるのは俺だけど今はマミさんがいる。ひとり取り残された気がしてチクリと胸が痛む。
「カエデくんもソウマの試合いっしょに見にいく?」
今日、2人はソウマが試合する体育館へ出かけるようだ。
すこし迷った。返事をしようとしたらユウマが肩へ手を置く。
「俺とカエデはきのう行ったから家でゆっくりする。2人で行ってきなよ」
ユウマが俺の気持ちを理解していたのかどうかわからない、けど助け舟だった。彼の言葉に安心したのは俺だけじゃない、父とマミさんもユウマが居るならと笑顔で出かけた。
ふり返るとユウマはもういなかった。




