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魔王、市場の心理を読む

「フッ…見たか健太。我が予言通り、28日は市場が緑に染まったな」


魔王吹雪は、タブレットに表示された株価チャートを眺めながら、満足げに腕を組んだ。


「予言って、ただアメリカのエヌビディアの決算が良かったから、半導体関連が上がるって言ってただけだろ。まあ、その通りになったけどな」


ソファに寝転がりながら、ドラゴンの健太が冷静にツッコミを入れる。


「それを先見の明と言うのだ。我が覇道のためには、世界の金の流れを読むことなど造作もない」


吹雪がそう言って得意げになっていると、床で切り絵をしていた幼馴染のアリアが、ひょいと顔を上げた。


「ふぶきん、見てー! 緑色のドラゴンさん作ったよー。株が上がったから!」

「うむ、アリア。良い出来だ。我が魔王軍の財務を司る竜として迎え入れてやろう」


「だが吹雪、問題は29日だ。せっかく上がったのに、今度は赤じゃないか。お前の先見の明とやらはどうしたんだ?」


健太がタブレットの画面を指差す。

そこには、前日とは打って変わって下落を示す赤い数字が並んでいた。


吹雪は慌てず、ふっと口の端を上げた。

「健太よ、貴様はまだ人間の心理というものを理解していない。これは必然の結果なのだ」

「へえ、どういうことだよ」


「いいか。28日は皆が『おお、半導体はすごいぞ。まだまだ上がるに違いない』という期待感で株を買った。いわば、イケイケどんどんのお祭り騒ぎだ」


「ふぶきん、お祭り?」

アリアがキラキラした目で尋ねる。

「そうだ、アリア。わたあめのように甘い期待が市場に満ち溢れていたのだ」


吹雪は続ける。

「だがな、賢い人間どもは考える。『この祭りで得た利益、いつ自分のものにしようか』と。そして迎えた29日は金曜日、しかも8月の最終日だ」

「週末と月末か…」

健太が呟く。


「その通り。人間どもは、週末に何か悪いニュースが出て休み明けに株価が下がるのを恐れる。だから金曜のうちに株を売って、利益を現金として懐に入れておきたいのだ。これを利益確定と言う」


「あー、せっかく儲けたのに、土日でパーになるのは嫌だもんな」


「それに加え、29日の夜にはアメリカの重要な経済指標の発表が控えていた。これが良ければさらに株は上がるかもしれんが、悪ければ暴落するかもしれん。いわば、大きなサイコロが振られるのを待っている状態だ。そんな時に、大金を賭ける者はおらん」


「なるほど。みんな『結果を見てからにしよう』って様子見ムードになるわけか」


「ふぶきん、サイコロふるの?」


「そうだアリア。だから皆、一旦ゲームから降りて安全な場所で見ていただけなのだ。その結果、買う者より売る者が多くなり、市場は赤く染まった。すべては、人間の臆病さと慎重さ…実に愛すべき心理の動きよ」


吹雪はそう言って、再びチャートに目を落とした。


「なるほどねぇ…」


健太が感心したように頷いていると、アリアが赤い折り紙で何かを作り始めた。

「アリア、今度は何を作ってるんだ?」


「えへへ。サイコロの目だよ。次はきっと、良い目が出るよね、ふぶきん!」


その屈託のない笑顔に、魔王とドラゴンは顔を見合わせて、少しだけ笑うのだった。

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