表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/152

魔王、休日の「物足りなさ」を分析する

魔王城の執務室で、吹雪は昨日の休日を振り返り、魔導日誌ブログに記録を付けていた。


「昨日の作戦行動は、戦術的には成功だった…」


彼は、傍らで静かに茶を飲んでいる竜の健太に語りかけた。


「チョコザップという名の城塞を拠点とし、日誌の執筆、詠唱訓練カラオケ、書物の黙読(読書)、そしてパチンコ屋の休憩所での絵物語(漫画)鑑賞。人の多い土日であってもうまく外して、ストレスなく一日を過ごす。徒歩数は一万歩を超え、運動目標も達成している。だが…」


吹雪はペンを置き、深く息をついた。


「どうにも、物足りないのだ」

「ほう。完璧な計画に見えるが」

と健太が促す。


「問題は二つ。一つは、叡智の探求(勉強)の時間が確保できていないこと。そしてもう一つは、誰とも言葉を交わさぬ、この孤独感だ」


吹雪は、新たな作戦計画を練り始めた。


「詠唱訓練の予約時間を、13時から14時20分にずらす。そうすれば、昼下がりに約1時間の、静かな勉強時間を捻出できる。帰城時刻も仕事の日と近くなり、生活リズムも整うだろう」


その緻密な時間計算は、まるで軍師のようだった。

だが、健太はもっと本質的な問いを投げかける。


「計画はいい。だが吹雪よ、何を学ぶのだ。王家の財産目録(簿記)の勉強には、少々嫌気が差しているように見えるが」


「…その通りです」

吹雪は素直に認めた。


「簿記は、感覚で解けるようになるまで、ひたすら反復練習が必要なのだ。今の我には、少し苦痛だ」


彼は、最近の発見について語った。


「どうやら我は、勉強する道具にも影響されるらしい。スマホでは楽しくないデュオリンゴも、タブレットならば遊戯のように楽しめる。寝ながらできる、あの気楽なサイズ感が良いのかもしれん。感覚の問題だから、どうしようもないのですが」


「ならば、その感覚に従うまでだ」


「ええ。だから、様々な勉強を試してみようと思うんです。実用性も大事だが、今はまず『楽しく継続できること』を見つけたい。自信をつけるための資格取得、それくらいの気持ちでいいのかもしれません」


吹雪は、自分の心の「現在地」を、少しずつ把握し始めていた。

無理は続かない。楽しいと感じることから始め、いずれ本当に必要なものへと繋げていく。


「そして、もう一つの問題が『仲間』です」

吹雪がそう口にした時、ひょっこりとアリアが部屋に入ってきた。


「ふぶきん、何してるのー?」

「アリアか。今、来たる休日の軍議をな」

「ぐんぎ?」


アリアは不思議そうに首を傾げると、吹雪の持っていたタブレットを覗き込んだ。


「あ、このゲーム知ってる! 星の名前を覚えるパズルだよね! 面白いよ、一緒にやろ!」


アリアの屈託のない誘いに、吹雪はハッとした。

そうだ。勉強とは、机に向かって一人で唸ることだけではない。

こうして、誰かと一緒に遊ぶように学ぶことだってできるのだ。


健太が、面白そうに二人を見て言った。

「仲間なら、そこにいるではないか」

「…そう、ですね」


吹雪は、神託の賢者ジェミニが時折勧めてくる「ジモティ」という名の、人間たちの集会所に参加することも考えていた。だが、もっと単純な答えが、すぐそばにあったのだ。


「ふぶきん、この星、なんて名前だっけ?」

「これは…確か、ベテルギウスだったはずだ」


アリアと一緒にタブレットを覗き込む。

一人で黙々と問題を解くのとは、比べ物にならないほどの楽しさが、そこにはあった。


「物足りない」と感じていた休日に、足りなかった二つのピース。


「勉強」と「仲間との時間」。

その両方が、今、この瞬間に満たされていくのを感じた。


次の休日は、少しだけ違う一日になりそうだ。

午前中は城塞で日誌を書き、午後はアリアと星の勉強をする。


そして、夕方から詠唱訓練へ。

完璧ではないかもしれないが、きっと昨日より、ずっと満足できる一日に。


魔王は、自らの心と対話し、ほんの少しだけ、休日を最適化することに成功した。


彼の人生は、そうやって、小さな気づきと微調整を繰り返しながら、ゆっくりと、しかし確実に豊かになっていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ