魔王、ながらの工夫と応援投資を学ぶ
『魔王、ながらの工夫と応援投資を学ぶ』
昨日はたくさんのことを学んだ。
健太先輩に教わったWOOPの法則、メタ認知という自己統治術。
忘れないようにと、夜更けまで魔導日誌に書きつけたはずだったが、今朝になるとなぜか、その書いた内容自体を思い出せずにいた。
しかし、今の我はそんなことで、もう落ち込んだりしない。
その日一日を夢中で行動すれば、ふと記憶の彼方に霞むこともある。
大事なのは、自分の声と経験を信じること。
そして、日々の暮らしに創意工夫を凝らす、自分自身の価値をもっと知ってやることだ。
例えば、今日も京橋の駅から魔王城(職場)まで歩いてきたが、強い日差しを避けるための日傘一つにも、工夫の余地はある。
途中、建物が続いて日陰になる区間では、畳んだ日傘をただ持て余すのではなく、強く握ったり、緩めたりを繰り返す。
それだけで、普段なかなか鍛える機会のない握力の、立派な自己鍛錬となるのだ。
人生で本来時間を割かない事柄でも、何かをしながらであれば、こうして組み込むことができる。
城に戻り、その話を健太にすると、彼は静かに頷いた。
「無駄な時間を作らぬ工夫。良い心がけだ。知識は一度忘れても、そうした経験と結びついた時に、真の知恵となる」
「ええ。腹筋台をストレッチに活用することも覚えました。これを習慣にすれば、先輩のメンテナンス(マッサージ)も、本当に調子が悪いと感じた時の、年1〜2回程度で済みそうです」
吹雪が自信ありげに言うと、健太は少しおかしそうに口の端を上げた。
そして、吹雪は今朝思いついた、新たな統治術について語り始めた。
「そもそも、我が投資に回せる軍資金はあまりない。だからこそ、自分の生活圏内で割引という恩恵(株主優待)を受けられるギルド(企業)の株を保有しようと思うのです」
節約と投資を同時に進める、一石二鳥の策だ。
以前、前園とかいう人間界の賢者が言っていた。
「自分が応援する株を買おう」と。
その言葉が、今になって腑に落ちた。
自分が日常的に使うサービス、心から良いと思える商品を扱うギルドを支援し、その発展の恩恵を自らも受ける。これぞ、王道にして賢明な投資術ではないか。
「ふむ。領民が使うギルドを自ら支援し、その利益を還元させるか。賢いやり方だ。王とは、ただ搾取するのではなく、領地全体を豊かにする者だからな」
健太の言葉に、吹雪はさらに確信を深めた。
「ですが、例の癒やしギルド『りらく』は非上場だった。残念です。あれば良かったのに。他にも探してみましたが、我が消費行動でお得になるものは、意外と少ないか、株価が高すぎて手が出せないかのどちらかで…」
吹雪が少し肩を落としていると、アリアが部屋に入ってきた。
彼女は大事そうに、ウサギのマークがついたお菓子の箱を抱えている。
「ふぶきん、健太さん、見て。新しい味が出たの。私、このウサギさんの会社、ずっと応援してるの。いつもおいしいお菓子を作ってくれるから」
その無邪気な言葉に、吹雪はハッとした。
そうだ。
応援するとは、アリアのような純粋な気持ちのことだ。
利益や優待だけではない。
本当に「好き」で、「これからも続いてほしい」と願う気持ち。
それこそが投資の原点なのかもしれない。
「もし、どうしてもそういうギルドが見つからなかったら…」
と吹雪は呟く。
「無理に株を買う必要はない。いつの時代も価値を失わぬ、魔金石(金・プラチナ)に資産を移せばいいだけのこと」
軍資金(自己資産)は、急に必要になることのないよう、最低ラインの100万ほどを残しておけばいい。無理せず、焦らず、じっくりと選んでいこう。
少しずつでいいから、前に進んでいけば。
証券口座も、株も、インゴットも、そして副業も。
「道は一歩からだ、吹雪。焦らず、だが止まらずに進め」
健太が静かにエールを送る。
アリアが、「はい、どうぞ」と吹雪にクッキーを一つ差し出した。
香ばしくて、甘い香り。
彼はそれを受け取り、微笑んだ。
このクッキーを作っている会社の株は、もしかしたら買えるかもしれない。
彼の投資と人生の旅は、こんな風に、ささやかで暖かい日常の中から始まっていくのだろう。




