表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/152

魔王の孤独な休日と、二つの鍛錬

今日から四日間、正確には三日間、この魔王城には我一人だ。

静寂は思索を深めるのに良い。


この孤独な時間を使い、平時では疎かになりがちな二つの鍛錬に励むとしよう。

一つは「身体」、そしてもう一つは「叡智(勉強)」だ。


しかし、叡智の鍛錬をしようと古代魔術の書を開いてみたものの、どうにも集中力が続かない。

我にはまだ、まともな勉強に耐えうるほどの精神力が備わっていないようだ。


気分転換に、と身体の鍛錬に切り替える。

ゆっくりと肩を回すと、コキコキと不快な音が鳴った。

これは、古の戦いで受けた呪いの予兆だろうか。


その様子を見ていた、城の書庫から現れた竜の健太が、静かに言った。

「それは呪いではない、吹雪。単なる筋肉の低下と柔軟性の喪失だ。放置すれば、数百年後には間違いなく痛むだろうな」


「なんと…」

「人間界の老人たちが、今まさに直面している不具合だ。彼らにとってそれは『対処療法』。だが、まだ不具合の少ないお前が同じことをすれば、それは優れた『予防療法』になる」


健太の言葉に、吹雪はハッとした。

未来を見据え、今から布石を打つ。それこそ王の務めではないか。


「身体には650の骨格筋と無数の平滑筋、そして一つの心筋があるという。これらを健やかに保つには、結局、休息と栄養、そして運動に行き着くのだな」

「その通りだ。身体は正直だ。やった分だけ、必ず応える」


半永続的な健康は、金で買えるものは少ない。

日常の中で、いかに心地よく、あるいは必要に迫られて、身体を動かす習慣を取り入れるか。

それが鍵だ。


そして、再び叡智の鍛錬へと意識を戻す。

勉強の習慣は、5年後、10年後に直接的なスキルとして役立つ以上に、

「脳を働かせる習慣」

そのものを我が物とするために必要なのだ。


だが、これも楽しくなければ意味がない。


「我がこの魔導日誌ブログを6年以上も続けてこられたのは、集客も収益も考えていないからだ。ただ、書くという行為自体が、我にとって必要で、楽しいと感じられるからに他ならない」


吹雪は、自分の内なる声に耳を澄ます。

「勉強も、それと同じなのかもしれぬな」


ストレスのかかる勉強は、自分を老けさせ、消耗させるだけだ。

人間界の「デュオリンゴ」という遊戯のように、遊びの延長として続けられるものなら、きっと続くはずだ。

その時、アリアがボールをぽんぽんつきながら、部屋に入ってきた。

彼女はただ、ボールが弾む感触を楽しんでいる。

そこに義務もなければ、目標もない。


「ふぶきん、難しい顔してる。これ、面白いよ」

アリアの純粋な楽しみの姿を見て、吹雪は道筋を見出した気がした。


そうだ。

まずは遊びでいいのだ。

遊びのように続けていれば、いずれ本当の興味を持つタイミングが来る。


その時に、決して無理をせず、ほんの1ミリ前に進めばいい。

今、我があの異国の言語のヒアリングができるようになりたい、と願い始めたように。


そうやって少しずつ進化させていけばいい。

楽しく続けられる鍛錬は、自己肯定感も、自己満足感も、そして達成感も与えてくれる。


「健太先輩、アリア。この連休の目標が決まった」

吹雪は、開いていた魔術書を静かに閉じた。


「身体の鍛錬は、日常に溶け込ませる『楽しい儀式』として。叡智の鍛錬は、無理に頂を目指すのではなく、『遊び』の中から進化させる方法を、それぞれ模索してみようと思う」


健太は、満足げにわずかに口角を上げた。

「身体も脳も、鍛えれば応える。そして何より、楽しむ心を忘れるな。それこそがお前を最も強くするだろう」


アリアが、ぽーんとボールを高く弾ませる。

その放物線が、とても自由に見えた。


魔王は、孤独な休日の初日に、静かな決意を固める。

半永続的な健康も、尽きることのない叡智も、日々の小さな楽しみと、続ける工夫の中にこそあるのだと。


彼の自己変革の旅は、静かに、しかし確かに続いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ