表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/113

魔王の完璧な一日とアリアの冒険地図

その日の休日、俺、魔王吹雪は、聖地『京橋』の『雷撃フィットネス(チョコザップ)』にあったワークスペースにいた。


いつものフリースペースが満席だったための代替策だったが、むしろこちらの方がいい。

疲れたら気兼ねなくストレッチができるのだから。


「ふふふ…我が計画は、日々進化を遂げているぞ」

俺は満足げに、先日ダイソーで手に入れた新しい水筒を取り出した。

200円のシンプルなドリンクボトルだ。


「健太、アリア。この宝具の真価、見せてやろう」


俺はまず、水筒の口をラップで覆い、ストローがさせる程度の小さな穴を開けた。

そしてその上から、アルミホイルを被せる。


「見よ!これで蓋をいちいち開け閉めせずともコーヒーを飲め、万一転倒させても被害は最小限!さらにアルミによる簡易保冷効果まで!」


俺の発明に、ドラゴンの先輩、健太さんは冷静に分析する。

「なるほど。ラップを柔軟な膜として、アルミホイルを構造補強と断熱材として利用するか。低コストで合理的なハックだ」


「わー!ふぶきん、すごい!秘密基地の道具みたい!」

と幼馴染のアリアが目を輝かせる。


だが、課題はまだあった。

夏場は最低でも1.5L、できれば2Lの水分が必要だ。

何本も水筒を持ち歩くのは骨が折れる。

俺が唸っていると、賢者のジェミニが天啓を授けた。


「…なんと!人間界の『無印良品』なる店では、無料で水の補給ができるだと…?」


京橋と天王寺、 ビルにその店はある。

俺の頭の中で、完璧なルートが完成した。


「決まったぞ!朝は自前のコーヒーと茶で執筆に励み、昼に『無印良品』で水を補給!そして午後の拠点、天王寺のカラオケルームへ向かう!これぞ、我が編み出した完璧なる休日の陣立てよ!」


しかし、計画が完璧になるほど、新たな課題が顔を出す。

午後のカラオケの後、実家に帰る。

だが、その道中や実家での時間に「楽しみ」を見出さなければ、それは「義務」となり、俺の心を蝕む。


「スキルアップの時間だけでは、人生は潤わん。午後は、純粋な楽しみを見つけねば…」

俺は決意した。

これまでの「行き当たりばったり」の散策ではない。

明確な目的を持った探索クエストを開始するのだ、と。


「よし、聞け二人とも!今後の我らの任務だ!以下の拠点を、この街のどこかに見つけ出す!」

俺は指を折りながら、新たなクエストリストを読み上げた。


一、テニスボールを使った壁打ち修行に適した場所!

二、人目を気にせずストレッチができる聖域!

三、清潔にして無料の、至高のトイレ!

四、我が財政を潤す、激安ショップ!


俺が真剣な顔で語り終えると、アリアが「なあんだ、そんなこと?」

と言って、自分の小さなカバンから一枚の紙を取り出した。

それは、彼女がクレヨンで描いた、手作りの地図だった。


【アリアの冒険マップ】


「ふぶきん、それならもう見つけてあるよ!」

彼女は地図上のいくつかの場所に、得意げにバツ印をつけていく。


「見て!ここの公園の壁は、ボール遊びにちょうどいいの!それから、この神社の裏手は広くて静かだから、ストレッチし放題だよ!あとね、ここの路地裏のお店、お菓子が10円で売ってるの!」


俺と健太さんは、呆気に取られて顔を見合わせた。

俺が人生をかけて見つけ出そうとしていたクエストの答えを、アリアはいとも簡単にコンプリートしていたのだ。


「…アリア。一体どうやって、これほどの情報を…?」


俺が尋ねると、彼女はにっこりと笑って、秘密を教えてくれた。


「簡単だよ!街の猫ちゃんたちの後をついて行ったの!猫ちゃんたちはね、どこで遊ぶのが一番楽しくて、どこでお昼寝するのが一番気持ちよくて、どこに行けば美味しいものにありつけるか、ちゃーんと知ってるんだから!」


やれやれ。俺は天を仰いだ。


どんなに完璧な計画を立てようとも、どんなに論理的に思考しようとも、この世界の真理は、いつだって猫と、この天真爛漫な幼馴染が知っているらしい。


まあ、それも悪くない。

俺たちの休日は、まだまだ面白くなりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ