魔王、生涯学習と10の資格を取ると誓う
確立されし我が休日のルーティンは、もはや芸術の域に達している。
朝は聖地『京橋』でブログを執筆。
その後、天王寺まで移動し、そこから心地よい距離を歩いて『雷撃フィットネス(チョコザップ)』のカラオケルームへ。
80分という絶妙な時間、歌で英気を養うもよし、戦略的仮眠で鋭気を蓄えるもよし。
俺、魔王吹雪の休日は、盤石の布陣となった。
その日も、俺たちはカラオケルームへ向かう道を歩いていた。
「健太、アリア。我は、次なる計画を始動させることにした」
俺の唐突な宣言に、隣を歩くドラゴンの先輩、健太さんが静かに顔を向けた。
幼馴染のアリアも「なあに、なあに?」と飛び跳ねた。
「我が人生の基本戦略…それは『生涯学習』だ」
「ほう。定年後を見据えて、か。賢明な判断だ」
「うむ。我が勉強の目的は三つある。第一に、生活のため。第二に、『老人だから覚えられぬ』という呪いを打ち破るため。そして第三に、認知症という名の精神の風化を防ぐためだ」
俺は熱弁した。
ただ楽しく学ぶだけではない。
しっかりと覚え、役に立ち、続けられて結果が出る、俺だけの最強の勉強法を編み出すのだと。
「まずは仕事の資格を…と思ったが、あれは一部の特権階級にしか許されぬ。ならば、我のような野良の魔王でも取得でき、経験を積めば自営業の武器となる資格が良い」
俺は考えうる候補を挙げた。
「例えば、日商簿記2級。あるいは、マンション管理士と管理業務主任者。宅地建物取引士も良いな」
「商業の基本、不動産と資産管理か。いずれも堅実な分野だ」
と健太さんが頷く。
「ぼき?マンション?ふぶき、お城の管理人さんになるの?」
とアリアが不思議そうに首を傾げる。
「だが、いきなりは難しい。まずは、全ての基本となる日商簿記3級から目指す。これを皮切りに、60歳になるまでに、10の資格を我が物とする!」
俺は高らかに宣言した。
「我が人生は、今後この五本の柱で支える!『健康』『開業』『友人』『小説』…そして『勉強』だ!」
この壮大な計画に、健太さんは感心したように言った。
「素晴らしい。だが忘れるな、吹雪。重要なのは、資格という名の紙切れを手に入れることではない。その知識を完全に理解し、『使いこなせる』ようになることだ。そこにこそ、真の力がある」
「無論だ!我はただの資格マニアではない!使いこなしてこそ意味がある!いわば『資格術師』を目指すのだ!」
俺の決意に、アリアが満面の笑みでぱちぱちと手を叩いた。
「わーい!ふぶき、すごい!じゃあさ、じゃあさ!」
そう言って、アリアは自分の小さなカバンから、あるものを取り出した。
それは、色とりどりの絵が描かれた、たくさんの札束だった。
「ふぶきの最初の資格試験はこれね!『百人一首マスター』!」
「…………」
俺と健太さんは、言葉を失った。
アリアは百人一首の札を数枚抜き取ると、俺の目の前に突きつけた。
「さあ、勉強の時間だよ、ふぶき!これは『ちはやふる』!得意な札から覚えるのが、楽しくて続けられる勉強のコツなんでしょ?」
俺の壮大な人生計画と、60歳までの学習戦略が、アリアの無邪気な笑顔の前で、雅な歌かるたへと姿を変えてしまった。
やれやれ。俺は天を仰ぎ、そして笑った。
「…望むところだ。まずは、その『ちはやふる』とやらを、完全にマスターしてやろうではないか」
そうだ。どんなに壮大な計画も、始まりはいつも、目の前の小さな一歩と、「楽しい」という気持ちからなのだから。




