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魔王、リフィル処方箋に目覚める

「うぅむ…」


ソファの肘掛けに頬杖をつき、暇を持て余した魔王(?)こと吹雪が、唸り声を上げた。

その視線の先には、自身の足の裏がある。


「吹雪、どうしたの?また足の裏?」

不思議な雰囲気を持つ幼馴染のアリアが、心配そうに屈み込んで吹雪の顔を覗き込む。


「アリアか。ああ、薬とシップのおかげで痛みは引いた。だがな、なんだか内側から熱い感じがするのだ。魔王たる我が肉体の完全復活には、まだ程遠い…」


「大げさだな。痛くないならいいじゃないか」


テーブルの向かいで冷静に本を読んでいたのは、先輩であり、その正体はドラゴン(?)だという健太だ。彼は顔も上げずに言った。


「健太!貴様には分からんのだ!痛くないからと言って普通通り歩けば、また歪みが蓄積される。我はちゃんと姿勢を意識して歩く事で、この不調の根源を断つつもりだ。今後40年、この世界を支配…いや、生きると仮定してだな、人生において身体の不調は見逃せんのだ!健康に気を配る事こそ、人生の目標となり得るのだ!」


吹雪が立ち上がって高らかに宣言する。


その壮大な演説に、健太はやれやれと首を振り、アリアは

「ふぶきんが元気でいてくれるのが一番だよ」

と微笑んだ。


「そうだ!我は今、不健康の淵にいる!まず健康になるための行動を心がけねば!そうだ、病院だ!自己投資のつもりで、あらゆる医療を試すのだ!治療目的のあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師!すべて我が支配下に置く!」


「まあ、そういう施術費も医療費控除の対象にはなるがな」


健太の冷静な一言に、吹雪の目がカッと見開かれた。


「医療費控除だと?…そうか!我はアトピーの治療費なども含め、毎年7万は医療に投資している!その金が『控除』という形で還付されるというのか!素晴らしい!無駄金になることも珍しくはないと思っていたが、これは有効な資金回収術ではないか!」


「いや、待て待て落ち着け。その計算は少し違うぞ」


吹雪の期待に満ちた顔に、健太は冷や水を浴びせた。


「医療費控除は、年間の医療費が10万円を超えた場合に、その超えた金額に対して適用される制度だ。しかも戻ってくるのは、払った税金の一部だぞ」


「む?どういうことだ」


「仮にお前の年間の医療費が12万円だったとしよう。10万円を超えたのは2万円。その2万円に対して、所得税率が10%なら2000円、住民税が10%なら2000円、合わせて4000円くらいが安くなる、という話だ。払った2万円が丸々戻ってくるわけじゃない」


「よ、4000円だと…?たったそれだけか…?」


吹雪の肩ががっくりと落ちた。


「セルフメディケーション税制というのもあるぞ。ドラッグストアで特定の薬を年間12000円以上買ったら、超えた分が控除対象になる。もし32000円分買ったとしたら、超過分の2万円が対象になって…」


「…結局、4000円、ということか」


「そういうことだ。だから、控除目的で無理して病院に行くのは本末転倒だ。本当に必要だと考えるなら行こう、というスタンスが正解だろうな」


「くっ…人間の制度は、なんとセコいのだ…!ドラッグストアの薬は高いというのに!」


ソファに崩れ落ち、絶望する魔王。

その姿を見て、健太はふと思い出したように言った。


「だが、お前のような奴にこそ有効な節約方法があるぞ」

「なにっ!?」

「『リフィル処方箋』だ」


健太は続けた。

「お前、アトピーで毎月皮膚科に行ってるだろう。だが、処方される薬は毎回同じはずだ。そういう安定した症状の場合、医師に頼めばリフィル処方箋を出してもらえる。そうすれば、1枚の処方箋で合計3回まで薬局で薬を受け取れるようになる」


吹雪は身を乗り出した。


「…それはつまり、どういうことだ?」


「つまり、病院に行くのが3ヶ月に1回で済む。お前の病院代は1回590円から890円くらいか?それが3ヶ月で2回分、約1200円から1700円は節約できる。年間なら4800円から6800円の節約だ」


「ね、年間で最大6800円…」

吹雪は先ほどの控除額を思い出し、今度はその確実な数字に目を見張った。


「だが、それだけじゃない」

と健太は付け加える。


「薬がなくなってからでいいので、家に薬が余っている状態で病院に行く必要がなくなる。何より大きいのは、時間だ。毎月、病院のために予定を調整する手間が省ける」


「…ほう。我が貴重な時間を、人間ごときの病院に左右されずに済む、か」


吹雪は腕を組み、深く頷いた。

魔王としての威厳を取り戻したかのように。


「そうだ。その空いた時間で、我は世界の…いや、自己の健康について、より深く思索できる。悪くない。実に効率的だ」


吹雪が満足げに結論づけると、ずっと話を聞いていたアリアが、にこっと笑って言った。


「そっかぁ。病院に行く予定を考えなくていいって、なんだか心が軽くなるね!空いた時間に、みんなでお菓子食べられるもんね!」


その一言に、吹雪と健太は顔を見合わせ、ふっと笑った。


健康やお金について難しく考えるのも大事だが、それによって生まれた心の余裕や、大切な誰かと過ごす時間こそが、人生における一番の宝なのかもしれない。


暇を持て余した魔王は、足の裏の違和感から始まった今日の思索の果てに、ほんの少しだけ、人間の世界の真理に近づいた気がした。

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