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魔王の休日:外出のメリットと本能の等価交換

「……健太先輩。私は今、京橋の地で、文明の利器コンセントを借り受け、魂の充電を行っています。同時に、私の脳内では今、国家予算にも匹敵する重大なカロリー計算が完了しました」


大阪、京橋。


無料の充電スポットでスマホを繋ぎながら、吹雪はタブレットの画面に並んだ数字の羅列を健太に転送した。


「京橋か。またマニアックな場所で油売ってるな。で、なんだこの数字の山は。お前の体重移動記録か」


「いいえ。これは『魔王が家に閉じこもるデメリット』を視覚化した絶望の表です。私は今日、TikTokで流れてきた『きいろ』という食べ放題の店へ一時間かけて歩き、その後心斎橋を徘徊する予定です。今はマクドのクーポンを使うために、あえて喉の渇きを我慢しています」


「ふぶきん、喉カラカラなの。お水飲みなよ。お腹空いてるのも、顔に出てるよ」

アリアが事務所の電話越しに、まるで隣にいるかのように心配そうな声を上げた。


「アリア、この空腹は『本能への投資』なのだよ。私は悟ったのです。休日にどれだけ頑張っても、私は結局食べすぎてしまう。ならば、その食欲を『外出の原動力』に転換すればいい。家にいれば5500kcalを摂取し、電気代とお菓子代で1300円を消費して太るだけだ」


「ほう。じゃあ、外に出ればどう変わるんだ」


「計算上、外出するだけで基礎消費は上がり、徒歩を加えればば1200kcal以上の差が出ます。外で食べ放題を満喫し、マクドで150円のコーヒーを飲んでも、出費は1200円から1500円程度。家でダラダラ過ごすコストと、実質的に変わらないのですよ」


「……つまり、使う金が変わらないのに、家だと太り、外だと痩せるってことか」


「その通りです、健太先輩。平日のウォーキングで2.2kgの減量下地ができている私にとって、休日の外出はトドメの一撃。全てを外出に充てれば、毎月1.5kgのダイエットが自動的に成功する計算になります。食事制限は一切不要。食べ放題でリッチな気分を味わいながら、体は絞られていく。これこそが魔王の錬金術です」


「ふぶきん、お外に行けば、お菓子を買い込む時間もなくなっちゃうもんね。歩くのが一番の娯楽になっちゃう」


「そうだ、アリア。本能に抗うのではなく、本能を利用する。私はケチゆえに『外食は無駄遣いだ』と自分を縛っていた時期がありました。だが、家にいてもスーパーのパンや電気代で金は消えていく。ならば、外でプロの味を堪能し、太陽の光を浴びる方が、人生の質は段違いに上がる」


「メリットしかないってわけか。動画の消費ができないのはデメリットじゃないのか」


「太って腰を痛めながら動画を見るのと、歩きながら世界を観察し、痩せていくこと。どちらが割に合うかは明白です。録画した番組は、実家に顔を出したついでにでも消化すればいい。私はこれから一時間、心斎橋へ向けて進軍を開始します」


「一時間歩くのか。腰は大丈夫なんだろうな」


「ポイ活の歩数計が、私に『歩け』と囁いています。京橋から心斎橋へ。途中の景色を偵察し、空腹を極限まで高めたところで食べ放題という玉座に座る。これが今日、私が私に課した聖戦です」


「ふぶきん、食べ放題で元取ろうとして、倒れちゃダメだよ。帰りも歩くの」


「アリア、帰りも歩くことで、摂取したカロリーをその場で抹殺するのだよ。それが魔王の流儀だ。さあ、健太先輩。私は行ってきます。明日の私の体重計が、勝利の凱歌を上げることを信じていてください」


「はいはい。食いすぎて動けなくなっても、迎えには行かないからな。しっかり歩けよ」


吹雪は力強く頷き、充電器をカバンに仕舞い込んだ。

空腹は最高のスパイスであり、外出のガソリンだ。

自分を動かすために、あえて本能を甘やかすという逆転の発想。

1500円の出費で1.5kgの減量を買う。

その経済的かつ生物学的な合理性に、彼はかつてない高揚感を覚えていた。


京橋の喧騒の中へ、吹雪は踏み出した。

一歩ごとにカロリーが燃え、一歩ごとに「痩せる魔王」への階段を登っていく。

休日の外出という習慣が、彼の人生を、そしてその腰と腹回りを、劇的に変えようとしていた。


「まずは、きいろ。そこで私の本能を完全に満足させてからだ……」


独り言を呟きながら歩くその背中は、どこか誇らしげで、しかし極限の空腹により、少しだけ前のめりになっていた。

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