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無双

「はぁ……」


王城のレストルームで手を洗いながら、大きな溜息が口から漏れる。


すっかり拗ねモードになってしまったサディアスをなだめるために「これからも頼りにしていますから!」なんて言葉をつい口走ってしまったのだ。


『いくらでも頼ってくれて構わない』


そう言って、口元をほころばせるサディアス。

彼の機嫌はすっかり直ったのだが、イアンに指導を頼みにくい状況をみずから作り出してしまった。


(だって、あんな顔されたらさぁ……)


言い訳めいた言葉を心の内で呟く。


普段は色気たっぷりなくせに、可愛く拗ねてみせるなんて、かなうはずがないだろうと叫びたい。

無表情で取っつきにくく、気遣いの欠片もなかったあの頃のサディアスはどこへ行ってしまったのか……。


「はぁ……」


もう一度、深い溜息を吐く。


今は訓練の小休憩。

朝から昼休憩までぶっ通しの訓練が常であったが、レベッカとラシェルが早々にバテてしまったため、一旦休憩を挟むことになったのだ。

ストーカーから身を守るために護身術を学び、日頃から鍛えていた私とは違い、貴族令嬢である彼女たちはそもそも体力が足りていなかった。


休憩時間は残り二十分程……。

レストルームから出て、訓練場へと戻ろうとしたところで、あることを思いつく。


(これは、攻略キャラと二人きりになるチャンスかも……?)


さすがのサディアスもレストルームにまでは付いてきていないため、今の私は一人きり。

この場所から騎士団棟までならば、往復に二十分もかからない。

ものは試しだと、私は騎士団棟へと急いで向かう。 


そして、訓練場から歩いて来るチェスターの姿を窓越しに見つけ、無事に彼と出会うことができた。

訓練中に右手首を痛めてしまい、医務室へと向かうところだと言う。


「大丈夫なのですか?」

「ああ、問題ないよ。たいした怪我じゃない。それよりも……格好悪いところを見られてしまったな」

「ふふっ。他の皆には内緒にしておきますね」

「これは口止め料が必要かな?」


私の冗談にチェスターもいたずらっぽい口調で返す。

このまま冗談混じりに食事でもおねだりすれば、二人きりのデートが叶うかもしれない。


しかし、なぜか私の後ろからサディアスが現れ、チェスターの右手首に自身の左手をするりと這わせると、あっという間に魔法で治療してしまう。

顔を真っ赤にしたチェスターの姿に、またしても好感度がサディアスに奪われてしまったことを悟る。


(だったら次は……)


まだまだ諦めることはないと、自身を奮い立たせ、次の作戦を練ることにした。


翌日、早朝から馬車乗り場へ向かい、サディアスを出迎えるために現れるはずのレジナルドを待ち伏せする。


(よしっ、来た!)


朝の光を浴び、さらに神秘的な美しさに磨きがかかったレジナルド。

そんな彼のもとへ突撃し、挨拶の言葉を交わしたあと、二人きりの会話を試みたが……。


(うーん……)


盛り上がらない。


ゲームでは、何度も言葉を交わし、少しずつ会話が増えていく。

その過程をすっ飛ばして、急激に仲を深めること自体が難しいのかもしれない。


(そもそも共通の話題がないし……)


それでも、仲を深めるきっかけのようなものを探り、なんとか会話を続けているうち、ついに共通の話題となるものを見つけてしまった。


「キマイラを一撃……!?」

「ええ。光の鎖でぐるぐる巻きにしたあと、雷の槍みたいなものが空から降ってきまして……」

「それは、どちらも高等魔法ですよ!」

「そうなんですね……」

「さすがは最強の魔術師と謳われるだけありますね!僕もその光景を見てみたかった……」


興奮気味なレジナルドの姿を、複雑な気持ちで見つめる。


そう……共通の話題とはサディアスのことだった。


(これってどうなの……?)


なんだか、試合に勝って勝負には負けたような……。

いや、サディアスに対する好感度の高さを見せつけられている時点で、試合にも負けているのかもしれない。

そうこうしているうちに、サディアスを乗せた馬車が到着し、私は王城へと運ばれていく。


それからも、隙をみては攻略キャラと二人きりになれるよう画策したのだが……。


ハドリーの露店にこっそり顔を出すと、第四魔術師団にポーションを卸すことができるかもしれないという話を聞かされる。


「まだお試しなんやけどな。うちのポーションの良さが認められたら、そのまま本契約も夢じゃないねん!」


どうやら、サディアスの口添えのおかげで、大口契約の機会を得たようだ。


「これも、お嬢さんが太客を連れてきてくれたおかげやね」

「い、いえ……そんな……」


感謝をされても好感度は上がらない。

ハドリーの好感度を上げるには、彼のお店にお金を落とさなければならないのに、魔術師団にポーションを卸すことで得る利益以上の金額は私には無理だった。


「サディアス団長はほんま太っ腹やわ」

「…………」


そして、トドメのこのセリフ。

これは、ある程度の好感度が上がってから、ヒロインの名で言われるはずのものなのに……。


(ダメだ……)


どう足掻あがいても、サディアスにはかなわない現実に項垂うなだれる。


ちなみに、ライバルであるはずのレベッカとラシェルが現れてから一週間は経ったが、イアン以外の攻略キャラにも近付く様子はみられない。

もしかしたら、彼女たちの出番がないのは、サディアスが無双しているせいなのかもしれないと思い始めた。


(こうなったら……もう、直談判しかない!)


帰りの馬車の中、いつ話を切り出そうかとタイミングを見計らう。

そのせいで無言の時間がしばらく続き、不審に思った様子のサディアスから声をかけられた。


「今日はやけに静かだが、何かあったか?」

「あ……えっと、サディアス団長にお話したいことがありまして」

「………なんだ?」

「私を見守ってくださるのは大変有り難いのですが……そのせいで、いつまで経っても私は恋愛ができないままなんです!」


私の訴えに、サディアスは驚いた顔で瞬きをする。


「なぜ、俺が見守ると恋愛ができないんだ?」


心底不思議そうな彼の声。


「その、私が恋愛をしたいと思う……恋人候補の方たちが、サディアス団長のことばかり見てしまうんですよ。だから、もうちょっとこっそり見守るようなスタイルに変えていただけると……」

「そんな奴らはやめておけ」


私の言葉を遮るように、サディアスは言い放つ。


「そんな奴らって、皆さんとても素敵な人なんですよ!」

「ミアを放って、俺にばかり意識を向けるような奴らが素敵なのか?」


サディアスの言葉がぐっと胸に突き刺さる。


「で、でも、サディアス団長がいなかったら、きっと私のことにも目を向けてくれるはず……なんです」


言い訳めいた言葉が口から溢れた。

すると、サディアスの瞳が真っ直ぐ私を見つめる。


「誰が周りにいようとも、俺はミアのことを見ているが?」

「なっ……!?」


サディアスの言葉に驚き、その紫の瞳を見つめ返すと、熱を帯びた視線に絡め取られてしまった。


頬は熱くなり、胸がドキドキと煩いくらいに高鳴る。


しかし、どちらかが口を開くより先に、馬車がスピードを落とし、神殿に到着したことを御者から告げられたのだった。



読んでいただき、ありがとうございます。

※(補足)このチェスターとのエピソードが、作品冒頭のエピローグ部分と同一となります。

思ったよりも、たどり着くのに時間がかかってしまいました。すみません。


物語も後半に入り、ゴールが見えてまいりました。

もう少しだけお付き合いいただけると嬉しいです。


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