無意識に攻略しちゃってる系ヒロイン
「明日から新しい聖女候補さまが来るらしいよ」
「え?」
「お役御免にならないように、あんたも頑張ってね」
昨日に引き続き、神殿の食堂前で待ち構えていたエイベルからの新たなイベント予告。
そして、言いたいことだけを言うと、手をひらひらと振りながらエイベルは食堂の中へ消えていく。
(そういえば、このタイミングだったかぁ……)
前世の記憶を辿ると、たしかに攻略キャラ全員が出揃ってから、新たな聖女候補が登場していた。
スイパラには私を含め三人のヒロインがいて、その中の一人をプレイヤーが選び、ゲームがスタートする。
では、選ばれなかった残りの二人がどうなるかというと、ゲーム途中からヒロインのライバルとして登場するのだ。
(そろそろ攻略に本腰を入れないと……)
簡単安心設定のスイパラなので、ライバルが現れたからといって攻略難易度が特別高くなるわけではない。
けれども、ライバルが現れてもいない序盤から躓きまくっている身としては、不安でしかなかった。
神官長のレジナルドは私よりもサディアスと会話を重ね、副団長のイアンは私とサディアスの仲を誤解し、騎士団長のチェスターは私よりもサディアスに好意的で、商会長のハドリーのお店にお金を落としたのはサディアスだ。
………サディアスの影響力がえげつない。
まるで、彼のほうがこのゲームのヒロインみたいだ。
ただ、サディアスに悪意はなく、全て私のために行動した結果で……。
(無意識に攻略しちゃってる系の逆ハーヒロインか……)
それに加えて、実力があり過ぎる魔術師団長で、容姿は文句なしのお色気ムンムンな超絶美形である。
(どうしよう……勝てる気がしない……)
若干遠い目になりながらも、朝食のパンをちぎって口に放り込み、これからのことを考える。
(攻略キャラと二人きりにならないとダメだよね)
サディアスが側にいるせいで、彼に好感度が全て奪われてしまう。
まずは、ここをクリアする必要があった。
私を守ろうとしてくれている彼には申し訳ないが、サディアスの隙をついて離れ、攻略キャラに接触する。
それを繰り返して、好感度を積み上げていく。
(これしかない……)
そうと決まれば即行動!
今日も魔術師団の訓練はお休みだ。
サディアスもお休みらしいので、イアン、チェスター、ハドリーの誰かと接触して好感度をあげることも考えたが、さすがに昨日の今日で一人王城へ向かうことは憚られる。
そうなると、今日はレジナルドに接触するのが一番いいのではないかと私は食堂内を見渡すが、彼の席は空席のまま。
(どこにいるんだろう……?)
そう、攻略キャラの居場所の特定も課題の一つだった。
今日も訓練は休みであることをレジナルドには伝えてあったので、馬車乗り場には行っていないはず……。
(そういえば、レジナルドはサディアス団長との世間話が楽しいって言ってたけど)
あの二人が並べば、とんでもなく目の保養になることは確かだが、雑談をしている場面はうまく想像できなかった。
そもそも、いつも端的な言葉ばかりのサディアスが、雑談なんてできるのだろうか?
いや、あれでも貴族だから、外面はそれなりにいいのかもしれない。
愛想のいいサディアスの姿を想像しようとしたところで、彼のことばかり考えている自分に気付く。
(………とりあえず、朝ごはんを食べちゃおう)
意識的にサディアスのことを頭から追いやると、目の前の朝食に手をつけたのだった。
◇◇◇◇◇◇
結局、昨日はレジナルドを見つけることはできたが、急いでいたようで、二言三言の会話とも言えない会話をすることしかできなかった。
世間話レベルの会話をしているサディアスには遅れをとったままだ。
そして、魔術師団棟の訓練場には私と同じ白いローブを纏った女性が二人。
ストレートの長い水色の髪に深い海のような青い瞳を持つのが、レベッカ・ストロヤノフ。
レベッカは子爵家の令嬢で、プライドが高くちょっぴり気が強いキャラクター。
肩までのふわふわのオリーブ色の髪に、若草色の瞳を持つのが、ラシェル・ホラーク。
ラシェルは男爵家の令嬢で、おっとり知的美人なキャラクター。
の、はずなのだが……。
先に紹介されたのはレベッカだった。
気が強いはずの彼女は、見るからにおどおどとした態度で視線を彷徨かせている。
そして、次に紹介されたラシェルは、苛立ちと不機嫌さを隠そうともせず、おっとりさなど微塵も感じさせない態度だった。
(あれ……?)
どうにもゲーム画面越しに見ていた彼女たちと雰囲気が違い過ぎる……。
気になることがもう一つ。
紹介された時、私がちょっとだけ先輩だと伝えられると、二人共がものすごくホッとした表情になったのだ。
(なんでだろう……?)
しかし、違和感の正体はわからないまま、新たな聖女候補二人を加えた訓練が始まる。
「また体の軸がブレているぞ」
「………はい」
当たり前のようにサディアスが私の指導に付いた。
そして、イアンがレベッカとラシェルの指導に付いたのだが、どうにも雰囲気があまりよろしくないような……。
「集中しろ」
「………はい」
そうは言われても、気になって仕方がない。
イアンの指導は丁寧で優しく、良いところを見つけて褒めてもくれる。
それなのに、彼女たちは不自然なくらいにイアンと距離を取り、会話すらも拒んでいるように見えた。
そんな二人の態度に、イアンも困った顔をしていて……。
「………おい」
「いや、だってアレ……気になりません?」
さすがに低い声を出すサディアスに、私はイアンたちのほうを指差しながら訴える。
「放っておけ。イアンなら大丈夫だ」
「…………」
そうは言っても、どうにも違和感が拭えない。
彼女たちはヒロインである私のライバル……つまり、攻略キャラを私と取り合う存在だ。
それなのに、イアンから距離を取ろうとしていることが気にかかった。
「でも、あの二人と相性が悪いみたいですし……」
そこまで言ったところで、あることに気が付く。
(別に彼女たちがイアンから距離を取ってもいいんじゃない?むしろ、ライバルが戦線離脱してくれるのは、願ってもないことじゃ……?)
私は瞬時にそう判断すると、言葉を続ける。
「サディアス団長が見てあげたほうがいいんじゃないですか?」
そして、イアンが私の指導をしてくれれば、堂々と二人きりの時間を過ごせると考えたのだ。
しかし、私の言葉を聞いた途端、サディアスの眉間にぎゅっとシワが寄る。
「俺の指導では不満か……?」
そう言って、サディアスはムスッとした表情で黙り込む。
「えっと……?」
その姿はいつもの堂々とした態度とは違い、まるで幼い子供のような……。
(え?……もしかして、拗ねてる?ええっ?この人って拗ねたりするの!?)
サディアスの思わぬ一面を見て、心臓をぎゅっと掴まれた感覚に陥る。
「ち、違います!そういう意味じゃないですから!」
思わず、そんな言葉が口を出た。
「……イアンのほうがいいんだろ?」
「そんなことないですよ!サディアス団長の指導は的確でわかりやすいですし!」
なんでこんなにも必死に言い訳をしているんだと思いながらも、拗ねたサディアスの機嫌を取り続けたのだった。




