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奪ってはならない。そうでしょう?

「マイクは、おれの息子なのだな?」


 サンダーソン公爵は、そう確認してきた。その潰れた声は、気のせいかもしれないけれどうれしそうな感じがした。


 彼は、もしもわたしが「イエス」と答えればマイクを連れて帰ってしまう。


 マイクと公爵は、このほんのわずかなひとときほんとうに親密だった。それこそ、ほんものの親子以上に。その親密さは、アンディのときとはくらべものにならない。


 たしかに、マイクとアンディも最初はわたしが妬くくらい親密だった。しかし、それも仲のいい友人といったような感じだった。


 しかし、サンダーソン公爵とは親密度のレベルが違う。わたしもふたりがどれだけ仲良くしていようと、なぜか妬くことはなかった。それどころか、自分では認めなかったけれど満足していたのかもしれない。


 そんなふたりなのだ。もしも今日からふたりだけになっても、さほど抵抗なく父子関係を築けるだろう。


 たとえわたしがいなくなったとしても、マイクは公爵がいれば寂しがらないし公爵のことを父親と慕えるだろう。公爵もまた、マイクを可愛がってくれるはず。


 マイクは、わたしといるより公爵とサンダーソン公爵領に行く方がぜったいにいい。


 ここでいつまででもメリッサやわたしと「おふくろ亭」の手伝いをしているよりもずっとずっといいはず。


 ここよりもサンダーソン公爵のもとにいた方が、豊かで充実した生活が送れるだけではない。将来に夢や希望が持てる。


 マイクなら公爵以上の公爵になれる。公爵以上の将軍になれる。


 有望なマイクの前途を奪ってはならない。


 たとえわたしがひとりぼっちになったとしても。マイクを育て上げることが出来なくなったとしても。


 彼を縛ってしまうようなことは、ぜったいにしてはならない。


 わたしのつまらない意地やくだらない矜持などで、彼の将来を奪ってはならない。


 マイクだけではない。サンダーソン公爵のこともである。公爵にも将来や前途がある。マイクはそんな彼に寄り添い、支え助けることが出来る唯一の血族。公爵の為にも「イエス」と宣言し、彼にマイクをひきとってもらうのだ。


「そうです」


 公爵の渋カッコいい顔を見上げ、堂々と答えた。


 先程の伯爵令嬢のように凛とした態度を貫きたいと思いつつ。


 もっとも、彼女の場合は残念な結果に終わったけれど。


 わたしは、そんな残念な結果にはしない。失敗はしない。


 マイクの為に。そして、公爵の為に。


「マイクは、いえ、マイケルはあなたの息子です。彼は、初夜にあなたから授かったのです。彼は、まぎれもなくあなたの息子なのです」


 宣言し終わったとき、肩で息をしていた。


 自分の息切れが耳に響くほど、全力で宣言した。


「なんてことだ」


 見上げる公爵の左頬には傷がある。その頬に傷のある顔が、みるみるクシャクシャになった。


「なんてことなのだっ! おれは、おれは妻だけでなく息子まで得たぞ。ふたりの家族を得たのだ。しかも、息子が祖父の名を……。あのろくでなしの裏切者に感謝するだけでなく、祖父にも感謝せねばな」


 潰れた声で紡ぎだされる言葉の数々を聞いているうちに、マイクと同色の彼の蒼色の瞳がうるんだ。その瞬間、そこから「ドバーッ」と涙が出て流れ落ち始めた。


「えええっ?」


 驚いた。シンプルに驚いてしまった。


 驚いた瞬間、公爵の右手がわたしの腰に、左手がマイクの肩をつかんだ。そして、彼はわたしたちを抱き寄せた。


「く、くるしいです」


 マイクが訴えた。


 しかし、いまのは苦しそうな感じはまったくなかった。それどころか、照れくささやうれしそうな響きがあった。




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