マイクがおれの息子だって?
「やつの悪事と不義は、それだけではない。やつは、ありとあらゆる問題を起こしていた。おれは、やつを罰し続けたのだ。が、やつはいくところまでいった。だから、おれもいくところまでいくことにした。やつを拘束したのだ。そして、裁判にかける為王都に送り返した。しかし、やつはその移送の途中で脱走し、行方をくらましてしまった。やつは、おれを憎んでいる。それどころか、殺すつもりでいる。やつは、おれが戦争前に妻を娶るという噂を聞いたらしい。そこで、例のペテン令嬢と画策したのだ。おれがいない間に、ペテン令嬢が妻になったきみを追い出してサンダーソン公爵家の財産を出来るだけ奪う。そしてやつは、軍から離脱してきみを捜し出し、モノにした上でおれを脅して金貨をせしめる。やつがきみを見つけるのは、諜報員だった彼にすれば造作もないことだ」
わたしにすれば、サンダーソン公爵の説明はまるで小説の筋書きだった。まるで壮大な陰謀のように聞こえた。
ろくでなしのアンディは、予定通りわたしをモノにしようとした。
彼は、わたしがブライトンの街にいることをペテン令嬢に知らせたらしい。
公爵は、屋敷で彼女と対決した際にろくでなしのアンディが関わっていることを知ったのだ。
「そのことを知ったと同時に、すぐにここへ向かった。きみを捜しだす為に。居ても立っても居られなかった。きみをやつから守りたかった。そして、誤解を解きたかった。なにより、きみを屋敷に連れて帰りたかった」
潰れた声でこれだけ喋るのは、喉に負担がかかってしまう。
案の定、公爵はそこまで言って激しく咳き込み始めた。
「公爵閣下、大丈夫ですか?」
勝手に体が動いていた。彼に寄り添い、そのおおきな背中をさすっていた。
彼の背中をさすっていることに気がつき、自分がそうしていることに驚いた。
「だ、大丈夫だ」
彼は、咳が落ち着くとそう答えた。
「驚かされた話ばかりだけれど、ひとつだけ気がついていたことがあるよ」
そのとき、メリッサが口を開いた。彼女は、順番に公爵とマイクとわたしに視線を送った。
そこで初めて、マイクの存在に気がついた。厳密には、彼もいっしょに公爵の話を聞いているのだと思いだした。自分のことでせいいっぱいすぎて、彼も公爵の小説の筋書きのような話を聞いているのだと思い至らなかった。
マイクを見てた。
彼は、美しくて可愛い顔になんともいえない表情を浮かべている。わたしの視線に気がついた彼は、こちらを見返してきた。
そのなんともいえない表情がまた、心と体に「ズキュン」とくる。
こんなときでも親バカな自分に呆れ返ってしまう。
「マイクと公爵閣下が親子だということさ。ふたりは、血がつながっているということ。ということは、カヤの相手は、当然公爵閣下になるけどね」
「なんですって、メリッサ? どうして公爵閣下とマイクが親子だと思っているの? あなた、そういう能力でもあるわけ?」
「なにを言ってるんだい、カヤ? このふたりは、どこからどう見ても親子だろう? カヤは、人をあまり観察しないからね。というか、わざと気がつかないふりをしているんだろう? わたしだけじゃない。店のお客や街の人だって、ほとんど気がついているはずだよ」
「なんと、マイクがこのおれの息子?」
「ああ、なるほど。公爵閣下もそういうことには鈍いわけだね。公爵閣下、マイクはあなたによく似てますよ。たしかに、外見は髪の色と瞳の色が同じくらいだけどね。マイクは、どちらかといえばカヤに似ている。だけど、雰囲気というかオーラというか、そういうものは公爵閣下そのものさ。とにかく、ふたりはそっくりなんだよ」
「ほ、ほんとうなのか?」
サンダーソン公爵の両手が伸びてきて、わたしの両肩をつかもうとした。
が、その手が途中で止まった。




