22.dr.highlands
そこはグレイヴス国のケプトクリーン空港ターミナル待合席。新聞を広げて待つ旅人シルヴィオ・エコーの隣り、サファリハットに白髭の男が静かに座った。
シルヴィオと同じ型のバッグを静かにその横に置き、白髭男も新聞を広げた。シルヴィオはボソボソとまるで独り言を言うように――
「あんたにどれだけの傷口縫ってもらったっけ?」
「うむ。君のお陰で医者としての自信もついたよ」
「ふふ。俺もそっちへ越してテディベアでも縫おうかな」
「ハハハ。柄にもない」
「諜報活動はもう疲れたよ。もうこの国には自由がない。あんたが消えて正直寂しい。あんたはずっと俺の英雄だ」
「よせ。スパイに英雄もクソもない。大昔の話だ。この国を守ったつもりが軍国主義を助長させた」
サファリハットの男=Dr.ハイランズも独り言で返す。目を見ず、淡々と。シルヴィオは首を横に振った。
「最終的にあんたの頼みだから動いたんだ、ドク。俺の最後の仕事」
「恩に着る」
ハイランズは新聞を畳み、シルヴィオのバッグをさりげなく取る。そして席を立ち彼に「木霊に御加護を」と残し、行き交う旅人の波に紛れ消えて行った。
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レオ・フットプライドは情報を集めていた。
――リリィの口座と同じようにエイブラハムの遺族にも金が振り込まれている。アナザーサイド支店から。あの土地といえばどうしてもサンダース・ファミリーがちらつくが……。二人に関係する人間とは? 誰だ?
そして先程指紋鑑定技師のグルムス・オルターから入手したのは、〝ジョセフ・ハーディング 〟その名前。その存在だった。
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北へ。ノースフォレストへ車を走らせるレパード・スキン。煙草を揉み消し、またちらりとデータを見る。
――ジョセフとリリィは同い年、同じフリーホイールに育ち、同じ高校を出た。エイブラハムも同様。……ジョセフの生存……軍が何か隠しているのか? いったい裏に何がある?
レパードは車を停め、電話ボックスに入った。呼び出したのは、北部の元同僚、情報屋たち。
「何か掴んだか?」《いや、何も》
次。次。次……。目撃情報がちらほらあった中、最も有力だったものは……
《スロトレンカムの海岸線。夜で人はわからなかったが、あの車はサードグレイ社のディグニティ・グランドだ》
三人は列車ではなく車で移動している。
あの湖にタイヤの跡を残した、ジョセフの運転するデカい車、キャンピングカーで。それがレパードの読みだった。
アナザーサイドを出て二日目。とりあえずフットプライドに連絡を入れたが不在だという。
――まあいい。先を急ごう……。




