21.your eyes
二日目。その日は浜辺で夕食をとることにした。
ボビィはすっかり元気になった。
バーベキューを喜び、残さず食べた。
陽が沈み、空と海の穏やかな赤色を背に、打ち寄せる波にボビィははしゃいでいる。その遊ぶ姿を見ながら、ジョーとリリィが座ってる。
「ボビィは明るいな」
ジョーがポツリと言った。リリィは頷き、少し背を伸ばして微笑んだ。
「ええ。天性の明るさかしら。いつも励まされます」
「病気、治るのか?」
「小児喘息で……お医者さんは体を鍛えるのもいい。水泳とかって。薬だけに頼っても駄目みたい」
ボビィに手を振るリリィ。彼女は知りたかった。
「ジョーさん。生まれは、どこなんです?」
「……エルドランド」
「……の?」
「あ、ああ、……ブリンギングス」
ジョーは嘘をついた。
「そうですか。私はフリーホイールなんですが、ご存知ありません? 西の方の、小さな町で」
「あそこはいい所だ。自然に囲まれて。昔、友達が住んでいて行ったことがある」
「どれくらい前?」
「ん? と、いうと?」
「い、いえ……もしかしたら前に、会ったことがあるかもしれないと……」
「俺に?」
「ええ」
「さあな。……覚えがない」
「あなたといると、何だか懐かしくて… …初めて会った気がしないんです。 ……あ、ごめんなさい、私、いろいろと訊き過ぎたかも」
ジョーは胸が締めつけられる思いがした。
彼は遠く、海を見つめる。
彼女は俯き、息をつく。
熱い潮風。波の音。
ジョーの方からようやく切り出した。
「あと二日もあれば着くだろう。ハイランズさんに連絡とって、それからだな」
リリィはコクリと頷き、しっかりと顔を上げた。
「そう。早く落ち着かなきゃ。ボビィのためにも」
「……逃げきれると思うか? 奴から」
リリィはジョーに顔を向け、目を見て答えた。
「あの子を守るため、たとえそれが逃げだと言われても、私はこうするしかなかった。あの暴力にはもう耐えられない」
「あの子に手を? フットプライドは」
「お酒飲むと人が変わって怖かった。酔って暴れて家の物壊して……。それで一度、ボビィに」
彼女は言葉を詰まらせる。顔を伏せ、目に涙を浮かべ、言った。
「銃を向けた」
ジョーは拳を握りしめる。怒りで全身の傷が疼いた。彼女はハンカチで顔を拭いた。
「たわむれだ、撃ったわけじゃないって言ったけど……もうつらくて……無理」
「逃げだなんて言ってすまない……」
「いいんです。ジョーさんには何もかも頼って、感謝しか……そう、とても……安心できるんです」
遠くのボビィが二人を呼んだ。嬉しそうに声を上げている。立ち上がりながらジョーはリリィに言った。
「……俺の顔……怖くないか?」
「え?」
「ほ、ほら、こう……尖ってて厳つくて……まるで鬼のようだ」
リリィはジョーを見つめ、微笑んだ。
「いいえ。あなたの目は……とても優しい」
待てずに走ってくるボビィにリリィは手を広げた。
「ママ! 見て、カニ! 捕まえたんだ!」
「わあ、かわいい」
「ジョーおじちゃん、これ食べられるかな?」
「ははっ、こりゃ食べるには可哀想だ」
ボビィはジョーの手を引き、波打ち際まで走って行った。二人が楽しく遊ぶ姿を、リリィはずっと見つめていた。




