20.license to kill
風になびくコート。
カフェレストRamonaへの客人。
ビフ・キューズは手を挙げ、彼を迎え入れた。
みしりと床を軋ませながらその男はゆっくりと、奥の衝立で隔てた席へ向かう。
視界を全て遮るほど大きく、髪は短く、サングラスをかけている。
食事をしていた数人の客はその威圧に身をすくめ、硬直した。
生成りのコートを脱ぎ、彼は腰掛けた。
「ご苦労様」と、それはビフからの報酬。
彼はその包みに手を当て、しばらく経って表情を和らげ、懐から取り出した煙草に火を。ビフは灰皿を置き、カップを取り、カプチーノを注いだ。
「怪我はなかったかい?」
彼は一口味わい、低く掠れた声で答える。
「ああ。大丈夫だ」
「よかった」
ビフはその硬い肩を叩いた。
「会えて嬉しいよ。ライセンス」
〝ライセンス・トゥ・キル〟
彼はビフの古き友人。
暗黒街でその存在が既に伝説と化した男。
〝LICENSE TO KILL =殺害許可証を持つ男〟。
そして奇妙な話だがジョーの良き理解者でもある。
軽く身を起こし店内を一望して、ライセンスはまたビフを見る。
「ジョーは、もう発ったのか?」
「昨日の朝な……」
「どうしたんだ? 何か考えてる」
「その後電話で、ジョーが〝レオ・フットプライド〟のことを訊いてきた」
ビフは昨日の出来事を話した。ライセンスは黙って聞いていた。身を乗り出してビフは話す。
「それで思い出したんだ。そのリリィという女……彼女の写真を、ジョーは持っている」
「ん? どういうことだ?」
「地下牢から助け出した時、ジョーはそれを離さなかった。手術の時も静養中も肌身離さず」
ライセンスはふぅっと息を吐いた。
煙が目に沁みる。
「……で、ジョーは彼女たちをどうするつもりなんだ?」
「ノースフォレストまで。ハイランズの所まで連れて行くと」
「そうか」
ライセンスはカプチーノを啜り、考えた。ジョーの胸の内を。
「ビフ。もう一度、フットプライドの事を調べてみてくれないか?」
調べるのがビフの仕事だ。無論だと頷き、
「実は今、ドクはグレイヴスにいる。お前さんが掴んだ情報をずっと追ってた。その証拠をいよいよ手に入れようとしている」
「……そうか。もしそれが真実ならば」
「真実ならば?」
煙草を揉み消し、ライセンスは言った。
「その時は、俺が出向く」




